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お菓子とエールの街(28〜)
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しおりを挟む意識を失ったポップロンは、そっとベンチへ寝かされた。
ギムナックは、リュークから離れるように仰け反りながらソロウにしがみついて、必死に恐怖に耐えている。
フルルも同じくミハルに抱き着いている。
ソロウとミハルも流石に薄ら寒さを感じたが、なんとか平常心を保つよう努めつつ、ソロウが意を決してリュークへ問いかける。
「『人』って、い……生きてる人か?」
「ソロウ、死んでる人のことは『死体』か『アンデッド』って言うんだよ」
もっともである。
或いは、縦しんば死体を「人」と呼ぶことがあるとしても、死体があったことを「人が居た」とは言わない。
ソロウは思わぬところで頭を殴られたような衝撃を受け、放心する。続いて、リュークの隣に居るミハルが首を傾げて尋ねてみる。
「ねえ、どんな人が居たの?」
「たぶん……子ども三人。あと、アンデッド二体」
聞いた瞬間、フルルはギルド会館を飛び出していた。跳躍のような走り方で、恐ろしく速い。
ポップロン以外の全員が一斉に立ち上がった。リュークはギムナックに抱えられた。
そして、それぞれ馬や馬車に乗って教会へと急行した。
空が白み始めている。
教会へ到着した一行は、薄明かりのなか開きっぱなしの門をくぐって裏庭へ回った。レオハルトの調べによると、墓地へは裏庭の真ん中で草に埋もれつつある石板の下の階段を下りていけば辿り着けるという。
その石板の前で座り込んでいるフルル。この下に子どもたちが居るかも知れないと分かっているのに、何故──とミハルが不審に思ったとき、レオハルトが「やはり動かせませんか」と声を掛けた。
振り向いたフルルの顔は、大粒の涙で濡れていた。
「神官じゃないと……開けられないんだ……!」
うわああ、と号泣するフルル。ミハルはフルルの肩を抱きながら必死で方法を考えてみる。
ギムナックとソロウは無理と分かっていながらも石板に手をかけて力いっぱい押したり引いたりしている。
グランツの肉体が主張し始めた。
「皆、下がっていなさい」
いつの間にかレオハルトが用意した剣を受け取って抜き放ち、格好良く鞘を地面へ投げておく。それをレオハルトが拾っておく。
深く息を吐き、思い切り吸う。
一秒止めて、大声を張り上げながら剣を振り下ろす──!!
──何事もそう上手くはいかない。石板は、常軌を逸した威力の剣を不思議な光で跳ね返し、裏庭全体はその振動で大きく揺れたが、石板自体には傷一つ付かなかったのだ。
グランツは悔しがりながらももしやと思い、石板以外の地面にも剣を振り下ろしたが、どこも不思議な力で守られていて、地面の揺れに酔ったギムナックにしかダメージを与えられなかった。
どうやら、普通の教会よりも堅固に墓地が守られているようだ。
打つ手無しの空気が濃厚となる中、グランツは諦めなかった。リュークに向かって頭を下げ、「泥団子を一つ貰えないだろうか」と願ったのである。
リュークは喜んでピカピカの泥団子を差し出した。自分が作ったものを欲しいと言われたことが嬉しかった。
グランツは表情を明るくして感謝を述べ、ちょいとまさかと思った面々が止めに入るも間に合わず、渾身の力で泥団子を石板へ投げつけた。
おそらく人生で最も衝撃的なものを見せつけられた少年は、ぽかんと口を開けて石板を見つめている。
一生懸命磨いた泥団子は石板に当たって弾け飛び、欠片も残らず消えてしまった。
先ほどの剣のような破壊力もなかった。
特に何も起こらず、何もなくなった。
「も……っ申し訳ない! リュークよ、本当に申し訳ないっ!!」
グランツが地面に手をついて、これ以上ない勢いで謝罪した。
形容しがたいほど冷たい視線がいくつも突き刺さる。フルルですら驚きのあまり涙を引っ込めて、軽蔑の目を向けざるを得なかった。
ソロウは、考える前に少年を抱き締めていた。
ギムナックは早速、リュークを癒しグランツの罪を許し給えと涙ながらに神へ祈り始めた。
「すまない! 私は君がイオに泥団子を投げるのを見て、泥団子に特別な力があるのだと思い込んでしまったのだ! 私が愚かだった。道具に頼ろうとした。全ては、この身一つで解決すべきだった……! 君の素晴らしい泥団子を粉微塵にしてしまった責任は私にある」
「当たり前だろ」──と、フルルと冒険者たちは一様に心の中で叫んだ。
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