西からきた少年について

ねころびた

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お菓子とエールの街(28〜)

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 泥団子は、偉大なる大地の神の御許みもとへ招かれたのだ。何も悲しいことではなく、寧ろ誇るべきことだ。リュークの作った泥団子は、閣下に壊されたのではない。そうではなく、閣下を通してのである。


 ──ギムナックは真剣な顔でリュークに説き、それが異様に真に迫っていたので、リュークはさっきの衝撃の記憶を薄れさせつつ、「そんなこともあるのか」と思わされた。

 周りは無知な少年に嘘を教えるのも如何なものかと気まずげだったが、しかしギムナックからすればあながちその場しのぎの作り話という訳ではなかった。
 というのも、「全てのものは神に導かれて大地に生まれ、神に導かれて神の御許へ帰る」というのが、ギムナックの信仰する大地神教のことわりの一つなのだ。つまり、埋葬と同じ理屈である。

「まあ、考え方としては素晴らしいわよね」

 ミハルは肩を竦め、しかし、これからどうするかと宙を見て考える。

 グランツの力をもってしても駄目だった。さらにジェフリーが神官でないとすれば、もうこの石板を動かす術はないのでは──。

「リューク、地下の部屋に居る子どもたちが無事か分かりますか?」

 レオハルトが機転を利かせた。そうだ、早く聞けばよかった、と皆が思った。さらに、リュークが「うん」と答えたので、力が抜けたフルルは一つ大きく呼吸した。

「みんな並んで座ってるよ」

 リュークは言い、不思議そうな顔でレオハルトを見上げた。何故そんなことを聞くのか、という顔である。地下の状況が自分以外に見えていないとは露程も思わないようだった。

 何故なら、リュークは魔力を見ているのであって、地下の中を直接目で見ている訳では無い。
 つまるところ、これは〈スキル〉ではなく、ワイバーンも得意とする魔力感知──謂わば、視覚や聴覚と同じで、「魔覚」とも呼ばれる一種の感覚によって認識しているに過ぎないのである。
 さらに言えば、魔覚による魔力感知とは魔力そのものを認識する能力であり、魔法を扱う者であれば多少なりとも持っているありふれた力なのだ。


 レオハルトにはなんとなくリュークの疑問を察することができたが、まさか地面を貫通して人やアンデッドを識別するほどの魔力感知ができる者がいるとは夢にも思わない。ただ特殊なスキル、例えばそれこそ〈透視〉のような特別なスキルを持っているのだろうと推測するにとどまった。


「しかし、どうするよ。一番近い教会ってどこだ? ランカ村には無いだろ?」と、ソロウが言った。

 すると、教会に目の無いギムナックが「どこも結構遠いぞ。それに多分一番近いのは北西の〈クォーカ町〉だが、あそこは老齢の神官が一人しか居ないから連れ出すのは難しいだろう。その次に近いのは北の〈ヴェルヴェッセ〉で、馬でも往復三日はかかる」と答えた。

 それではとても……と、唸る大人たち。

 フルルが「あたしが行ってくるよ。馬より速く走って行って、帰りは馬を借りて戻って来る」と立ち上がったが、魔物が危ないからとすぐに止められた。
 
 だが誰かが行くしかないぞ──今すぐ発つとして──人選は──。

 輪を作って相談が進む。


 輪の後ろをリュークが通る。ちょうど朝日が差し込んできて、少年の影を伸ばしていく。
 その影にぴくりと反応し、少年を目で追うレオハルト。さらに、ソロウとフルルもレオハルトの視線を辿る。気付いたミハルとギムナックも顔を上げた。グランツは話を続けている。


 リュークは石板のすぐ側で足を止めると、革袋に両手を突っ込んだ。

 傍観者達の目が見開かれる。グランツはまだ話し続けている。








 どぅるん。







 
 そのような音を立てて石板の上に出されたのは、丘の上でオークが寄越したであった。

 しゃがみ込んで死体を見つめる少年。
 石板の上で、うつ伏せのまま朝日に照らされて輝く無残な死体。

 早朝の澄んだ空気を切り裂く悲鳴がグランツの声を掻き消した。
 
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