西からきた少年について

ねころびた

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ヴレド伯爵領(47〜)

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 リュークの隣にグランツ、ヴレド伯爵の隣にソロウと、奇妙な並びに収まった四人。

 ヴレド伯爵は少年の小さな身体の内蔵まで見透かさんとするようにリュークを凝視し、リュークも焦げ跡だらけの伯爵を見ている。
 グランツとソロウは気まずげに二人を見ている。
 車内は少し焦げ臭い。

「ほう」

 と、暫くの沈黙を破ったのはヴレド伯爵だった。彼は毎日髭剃りを欠かさない顎を撫で、高めの掠れ声で何度か「ほう」とふくろうのごとく繰り返したあと、隣に座るソロウを振り向いて「成る程」と言った。

「アルベルム卿よりも君の方が彼とは長い付き合いのようだ。外にいたローブの女と大男もそうなのか。ふむ、ふむ」

 一人で納得しきって満足げな伯爵。それを静かに気味悪がっているグランツの隣では、リュークも首を傾げている。

「このように不思議なものを見たことがない。君は、なんというか……」

 ヴレド伯爵は、魔力を通じて他人の情報を読みとる術に長けている。性格、心情、生い立ちなど、魔力は言葉より雄弁に情報を提供する。時に鑑定スキルより正確に相手を推し量る厄介な技術は、ヴレド伯爵が敬遠される要因の一つでもある。

 そして、そのヴレド伯爵がリュークを前にしてただ困惑している。

(不思議としか言いようがない。この子どもの魔力は特定の形を留めておらず、大気に溶け込んでいるようだ。いや、逆に大気そのものがこの子の魔力であるような気さえしてくるが、まさかそんな筈は──)

 グランツとソロウは非常に気まずい。
 伯爵は奇跡的に雷に打たれたせいで性格が豹変しているが、元々の彼は筆舌に尽くしがたい程の変人で、まともな道徳と照らし合わせれば外道中の外道、極悪、狂人と言うべき男である。

 というのも、何を隠そうヴレド伯爵領は彼の共産思想に包まれた広大なであり、領民の従事する事業の大半はであり、その内容は農業と魔石採掘と魔具加工と、人材派遣事業という名を借りたであるのだ。

 普通、貴族とは孤児を引き取ったり、孤児を保護する教会へ寄付をしたりするものであって、へ回ることはまずもって無い。
 仮にのっぴきならない事情によってそういった如何わしい商売に手を出すにしても、人身売買などは元から裏の社会に住まう暗がりの者たちや奴隷商にこっそりと委託してやらせるものだ。

 もし本名でここまで大っぴらに人身売買を行う貴族が居たとすれば、気狂いと噂されて当然の危険人物と言える。

 なので無論、彼以外にこの堂々たる悪行を誇る貴族は居ない。

 しかし、ヴレド伯爵領の財政状況は王都周辺の有力貴族たちが軽く笑えないほど良好で、迷惑なほど異彩を放つヴレド伯爵ドラクの経営手腕については、その善し悪しを含め世界各地で議論される。──のは、さておき。彼の人身売買業において重視されるのは量より質である。つまるところ、リュークのように純粋で見目の良い少年には高値がつけられるので、よくよく用心しなければならないという話である。
 
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