53 / 199
ヴレド伯爵領(47〜)
52
しおりを挟むヴレド伯爵は、より深くリュークの魔力を見ようとしたが、直後にその試みを深く後悔することとなる。
伯爵は、ただいつもと同じように魔覚を研ぎ澄ませて少年を視ようとした。体から発生し、体の周りで膜のように留まる魔力をどうにか探そうとした。体外で留まる魔力を辿って内側まで入り込み、相手の心の奥深くをまさぐるのだ。
ところが、リュークの体外の魔力を見極めようと目を凝らして二秒も経たない内に、まるで誰かに目を塞がれるように瞼が勝手に閉じていき、さらに何かとてつもなく強大なもの──無限の恐怖を具現化したかのような、或いは抗えない運命の如く絶対的な何かの視線を感じて、伯爵は悲鳴を上げながらシートの上で蹲ってしまった。
伯爵の声に、ソロウとグランツは思い切り肩を跳ねて驚いた。
外で馬車を取り囲む面々も驚き、思わず一斉に武器を構える。
リュークは首を傾げた後、グランツとソロウを見やる。
「ハクシャク……」
困ったように呟くリュークのなんと健気で可愛らしいこと。
つい頭を撫でかけたところでなんとか我に返ったソロウは、ヴレド伯爵の肩を叩いて「いかがされました、伯爵? 大丈夫ですか」と声を掛ける。
だが、伯爵はとても怯えていて、嗚咽のように低く呻るばかり。「どうしましょう、閣下」とグランツに問うと、ポンポンとリュークの頭を撫でていたグランツは、はっとして手を引っ込め、腕を組んだ。
「今日、伯爵は大変な目に遭われて動揺しておられるのだろう。落ち着くまで少し休まれると良い。リューク少年、君は外に出てギムナックたちと遊んでいなさい」
さあ、とドアを開けて促され、リュークは後ろ髪を引かれる思いで馬車を出た。
武器を手にしていた大人たちは、慌てて武器を仕舞った。
キョロキョロと辺りを見回したリュークがギムナックを見つけて小走りで駆け寄る。
レオハルトは馬車のドア越しに声を掛け、グランツと野営について相談を始めた。
なんとも異様な空気が漂っている。
十名の兵士たちは毅然とした姿勢を保とうとしているが、いつも何を考えているか分からないヴレド伯爵と主が狭い馬車の中に閉じ籠もっている現状に焦燥を隠しきれず、時おり指先や足を微かに動かした。
ミハルは眉をひそめてギムナックとリュークの側へ行った。状況が不明だが、ヴレド伯爵が何か不幸な体験の只中にいることだけは間違いない。
「伯爵に何があったの?」
ミハルは尋ねてみたが、答えを期待してはいなかった。案の定、リュークは「分からない」と言い、ギムナックにされるがまま肩車に乗り、三人で少し先で倒れたままの馬のところまで行った。
睫毛の長い美しい白馬は、呼吸困難で血の混じった泡を噴き、白目を剥いている。この哀れな馬の息を止めてやるのがせめてもの慈悲だろうとギムナックは思い、リュークを地面に降ろして「少しあっちを向いていろ」と何も無い荒野を指さした。
すると、リュークは「何故」という顔をした。
ギムナックとミハルは顔を見合わせる。こういうときのリュークは、何か突拍子もない打開策を持ち合わせていることがある。
「リューク、この馬を助けられるか?」
ギムナックは試しに尋ねてみた。もしも助けてやれるなら、助けてやりたいに決まっている。この馬はヴレド伯爵と違って善良な生物であるのだから──。
リュークは、置物のように微動だにせず考えを巡らせる。
そして、砂を巻き上げる一陣の風が通り過ぎると、少年はおもむろに革袋に手を突っ込み、先ほど根と芽が生えたばかりの木の枝を取り出した。
つい身構えていたミハルとギムナックは胸を撫で下ろす。リュークが革袋に手を突っ込むたび、次にどんな災害に見舞われるかと気が気でないのだ。今回は木の枝という安全性の高そうなアイテムだが、泥団子の一撃を思えば安心はできない。まさかこの馬を吹き飛ばして夜空の星くずに変えるつもりではないだろうが、果たして。
止めるべきか、否か。
ミハルとギムナックは、ただ神に祈った。
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる