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ヴレド伯爵領(47〜)
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しおりを挟むグランツは大地が揺れるほどの威力で何度も剣を振り下ろした。乾ききった地面にはクレバスのような深い亀裂がいくつも出来、押しやられて行き場をなくした地面が盛り上がって小規模な山脈を築いている。
このように宮廷魔法使いも真っ青の威力の攻撃が無尽蔵に繰り出されるところを見れば、王がアルベルム辺境伯の軍事予算を制限したがる理由にも納得がいくだろう。
魔狼はその規格外の攻撃のことごとくを軽々と避けたり、魔力に覆われた頑丈な尻尾で払い除けたりした。尻尾に払われた攻撃は空を切り裂く斬撃波となって無差別な方向へ飛んだが、危険なものはレオハルトが防御結界で器用に軌道を逸らしているので、今のところ被害は出ていない。
ドガン、ドゴン──と、攻城兵器でも出さないような激しい破壊音が響くなか、馬車を降り立ったソロウがミハルとソロウとリュークの側へとやって来た。
左腕にはヴレド伯爵がくっついたままになっている。
全身が淡く赤色に光って見えるのは、身体能力強化のスキルを発動しているからである。
左腕の伯爵は気が触れたのか、低い声でずっと何かを呟いている。
「あ……新しい装備かしら」
「威厳があるな」
ミハルとギムナックが真面目とも冗談ともつかない感想を述べた。
二人のすぐ近くで根っこの生えた木の枝を握るリュークは、何か格好良いものを目にしたかのような尊敬の眼差しでソロウの左腕に釘付けになっている。
「それで、一体何がどうなってこうなってるんだ?」
ソロウに説明を求められたギムナックは、逆に伯爵と左腕が組み合わさった経緯を尋ねたかったが、なんとか飲み込んで「それが──」と口を切る。
「ヴレド伯爵の馬を助けられないか、リュークに聞いてみたんだ。そうしたら、リュークが木の枝に生えてた若い芽を馬に食わせて……で、気付いたら翼が生えていた」
「木の芽を食わせたらお伽噺のお馬さんに進化したって? リューク、本当なのか?」
恐る恐る伯爵に手を伸ばそうとしていたリュークは、ぴたりと動きを止めてソロウを見上げると、「うん」と頷いた。
「馬は草とか葉っぱを食べるんだ」
「そうだなあ。けどよ、それで翼が生えるってのは不思議なんだが」
「不思議なんだ」
「うん? ……あー、そう、不思議だ。どうして翼が生えたんだ?」
「不思議だね」
「おう……」
そう言われてしまっては返す言葉がない。ソロウはリュークの好きに伯爵を撫でさせてやりながら、どうしたものかと星空を仰ぎ見る。
薄ら舞っている土埃越しでも綺麗な星空だ。ソロウたちがリュークと初めて野宿したときを思い出す。同じく目眩く満天の星を見上げる少年の黒い瞳が奇妙なほどキラキラと輝いていた。そして、その後ドラゴワームが──。
(……やめよう。こんなこと思い出してる場合じゃないんだ)
ソロウは視線を下げ、ペガサスを見た。
ペガサスもまた、ソロウを見た。
ヴレド伯爵を彷彿とさせる三白眼である。
「「「いや、似すぎ」」」
冒険者三人、揃って思わず口をついて出た言葉に悔しさを覚える。
リュークは「面白い顔」と、素直に笑っている。
少し離れたところから聞こえてくる破壊音は、まだ鳴り止みそうにない。
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