西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
68 / 199
テヌート伯爵領(60〜)

67

しおりを挟む

 何はともあれ、リュークはリンに、ミハルや他は馬に乗って、一行は駆けに駆けた。馬も動いていなければ体温を奪われて弱ってしまう。今にも再び雪が降りだしそうな黒っぽい空の下をとにかく走って、一刻も経たないうちに目的地であるテヌート城を中央に構える大都市〈オローマ〉の関門へと到着した。

 雪雲のせいでずっと薄暗いものの、まだ夜というには早い時間だった。今のところ、松明たいまつは不要である。


 この関門、かつてオローマが〈テヌート城塞〉の外郭であったときの外壁の門で、常ならば兵士数名が物々しく槍を持って検問を行っているところだが、今は誰の姿もない。
 まあ、当然である。
 グランツ一行も、先程の不思議な現象──すなわち、積雪をごっそり刈り取ったような道の出現がなければ、門の高さに迫る積雪深の中で入口を見つけることすら困難であっただろう。最悪、進入のためにグランツが城壁を破壊しかねなかった。

 さらに驚愕すべきことに、この雪中の道は関門を塞いでいた筈の巨大な落とし格子と重厚な門扉すら切り取りして街の奥まで続いているように見える。

「これは流石に……」

 と、馬上のレオハルトが不気味なものを見たという顔で呟くと、すぐ後ろにいたミハルも魂の抜けたような表情で「ええ」と同意した。ただし、後ろからやって来たグランツは未だにこれを側近レオハルトの仕業と思っているらしく「お前は本当に優秀だな」と言い、豪快に笑ってレオハルトの肩を叩いた。

 後方に居るソロウとギムナックは、顔を引きつらせている。
 兵士らは馬を降りながら「何がなんだか」といった様子である。

 リュークはソロウに革袋を預けて馬を収納し、リンは殆どアンデッドさながらので呻くミハルを乗せて先頭を歩いた。


 門をくぐった先も雪ばかりで──否、よくよく見れば雪をさらに凍らせたような硬さがある。湿度の高い空気ごと凍ってしまったのか──、一行は両側を聳え立つ雪の壁に挟まれたまま奇妙な道を歩き続けた。

 街全体が、どっぷりと雪に浸かっているといった表現が相応しい。街を取り囲む外壁の内外は、一面が深い雪に沈んでいる。
 ギルド会館だろうか──ぽつぽつと背の高い建造物が雪から頭を出しているが、氷雪が分厚くこびりついて、賑やかだった頃の面影は見当たらない。
 今や街のどこにも人の気配はなく、雪が足音以外の全ての音を吸い取ったかのように静かだ。

「住民が避難出来ていれば良いが……酷い有り様だ」

 ギムナックが苦く呟くと、隣のソロウが頷いた。

「空気が乾燥する間もなく一瞬で凍り付いたって感じだな。あと、地面の感じからして、もしかしたら直前に雨が降っていたのかも知れねえ」と、足下のゴツゴツとした感触のある雪を蹴った。

「だが、西の関所じゃ『城下街や近辺まで氷漬け』って話だったが、もうちょっとはマシに見える。この分なら少なからずは城まで避難できているだろう。あとは、アイスドラゴンさえ倒してしまえばどうにでもなる」

「それなんだよなあ。しかしよ、ギムナック。アイスドラゴンってどうやって倒すもんなんだ?」

「それは、ほら……大勢で寄って集って」

「寄って集っても俺の剣やお前の弓じゃ傷も付けられねえだろ。かと言って、投擲機みたいな大型兵器は雪山へ運べねえだろうし」

「うむぅ……『ドラゴンソード』のようなものがあれば。『ドラゴンアロー』とか……ああ、火矢なら効きそうじゃないか?」

「猛吹雪の中じゃ射てねえよ」

 ソロウは呆れて首を振った。この寒さでギムナックのスキンヘッドは冷え切り脳が働いていないらしい。S級冒険者でも居るならまだしも、現実的に考えて人の力でどうにかなる相手ではないだろう。

(や。しかし、閣下ならアイスドラゴンの首をも落としかねないか? リンと一緒ならなおのこと可能性があるな)

 呆れ顔から一転、一人希望を見出して足取りを軽くしたソロウ。ギムナックはそんな彼を見て、この寒さでソロウの精神は異常をきたしているのではないかと不安になった。
 
 その不安をどこかへ追いやろうと狭い空を見上げる途中、ついにテヌート城を目前に見た。
 文字通りの一本道は、まるで初めからテヌート城の設計に組み込まれていたかのように、ひたすらに延びて城の堀まで続いていたのである。


 一行は進み続け、ついに城のすぐそばまで辿り着いた。

 城を取り囲む深い環状堀の向こうに、関門の落とし格子たちのように切り取られずに済んだらしい城の跳ね橋が上がっているのが見て取れる。兵士らやリュークは堀を前に佇みつつ、荘厳なるテヌート城の姿に感銘を受けている。

「跳ね橋か。さて、どう降ろさせるか」

 先頭で仁王立ちするグランツ。それらしく言ってみた直後、跳ね橋の方から勝手に降りてきた。

「行きましょう」と、レオハルトの一声で動き始める。ぎし、と橋が軋むたび、どこからか氷の塊が堀に落ちて、どさどさと音がする。
 レオハルトは、咳払いするグランツを先頭へ導きつつ、辺境伯の威厳を取り戻させるために服や髪の乱れたところを手早く直した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...