86 / 199
氷竜駆逐作戦(78〜)
85
しおりを挟む八箇所目の別荘を確認し終えたレオハルトは、リュークに革袋から「回復薬セット」を出すように頼み、取り出された緑色の木箱の中からさらに巾着袋を五つ取り出して三人の冒険者とリューク、そしてヴンダーの腰にしっかりと結び付けた。
中には上級回復薬と魔力回復薬、包帯と滋養強壮効果のある木の実が入っている。
ついに標高は千三百メートルを超えた。ここからは二手に分かれることになる。
「武運を祈るぞ」
「健闘をお祈りいたします」
グランツ、レオハルトの言葉に見送られ、杖を掲げるミハル、ギムナックと手を繋ぐリューク、それから身体能力強化のスキルを発動したソロウの背中に担がれるヴンダーは、いよいよ山頂を目指して歩き始める。後ろでリンが暴れているが、グランツが手綱を握って引き止めている。
「リン、二人を守って」
リュークが手を振りながら言いつけると、リンは寂しげに瞳を揺らしながらも大人しく座って動かなくなった。
小さな赤いコートが段々と遠ざかって雪道の奥へ消えていく。グランツが、大丈夫だぞ、と励ますようにリンを撫でたが、リンの尻尾が上向くことはなかった。
坂道を一時間もいかない内に、また風が強まってきた。すぐに雪が混じり始め、やがて酷い吹雪となる。
周りは雪と露出した岩肌しか見えない。日が沈んだのか、それとも雪雲が分厚過ぎるのか、殆ど夜のような暗さの中で、ミハルは岩肌に沿って山道を探し当てながら進む。雪は強風で吹き飛んだらしく、想定していたよりも遥かに少ない。が、その代わりに不自然な氷塊が岩と並んで突き出ていることが増えた。
登山装備の乏しい中で難易度の高い登山となると、熟練の冒険者といえど登り切るのは困難だ。ましてや、少年と体力の落ちたヴンダーを連れていては、例え装備万端であっても難しいだろう。
アイスドラゴンが飛来してからたった数日で、山は元々雪化粧が常だったように、いかにも澄ました顔で変貌を遂げている。
「まずいな。氷山になっていたらミハルの魔法に頼るしかなくなるぞ」
ギムナックの懸念は、口にしたそばから現実のものとなった。
山道が氷の壁に塞がれている。壁はまるで誰かが嫌がらせのためにこしらえたのではと疑うほどに丁度良く道幅を埋めていて、身体能力強化のスキルを使っているソロウが剣で思い切り斬りつけても、僅かに傷がつく程度の固さであった。
「御多忙のところ大変恐縮なんですが……そんなに激しく動かれたら僕、死ぬかも知れません。何か踏み台になるものはありませんか」
ソロウの背中に括り付けられているヴンダーの機転により、リュークの革袋から「夜ご飯セット」などの木箱をいくつか出して踏み台にし、ようよう氷の壁の天辺によじ登りかけたミハルが何気に向こう側を見やった。
(──暗い。暗くて見えにくいけど、向こうに何か……)
あれは何かしら、と目を凝らした瞬間、戦慄する。
壁の上から降ってきたミハルをギムナックが慌てて受け止め、勢い余って坂を転がり落ちた。
「おい、大丈夫か!」
ソロウが慌てて駆け寄る。リュークも滑るようにして坂を下る。ヴンダーは酔って目眩を起こしている。
ギムナックとミハルは同時に身を起こし、問題ないと言う代わりに軽く手を挙げた。
「ごめんなさい、ギムナック。ありがとう」
「構わない。それより、どうしたんだ? 風に煽られたか?」
ギムナックは言って、息を呑んだ。
──いや、吹雪は止んでいる。
それどころか、微風すら吹いていない。
「ミハル、まさか……」
まさか、と誰よりも信じたくないのはヴンダーである。
ヴンダーは吐き気に口元を押さえながら、「嘘ですよね」と消え入りそうな震え声で呟く。
「嘘だ、そんな、だってまだ」
まだ山頂には遠い。しかし、ミハルの目が現実を告げている。
「まだ心の準備が……」
哀れなヴンダーを背負うソロウの隣で、ミハルが落とした杖を拾って来たリュークの口がここで親切を発揮する。
「アイスドラゴン、起きて良かったね」
ヴンダーの口から魂が抜け出るような音がした。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる