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氷竜駆逐作戦(78〜)
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しおりを挟むソロウは手早く紐を解いてヴンダーを降ろした。ヴンダーは足に力が入らず蹌踉めき、雪の上に倒れ込む。
「さあヴンダー、早く準備するんだ。大丈夫だ、俺たちがついてるから」
「えっ、え、大丈夫? 僕、大丈夫じゃないですよね? っていうか、そのバッグは触っても大丈夫なものなんですか? 僕の魔覚は無くなってるはずなのに、凄く異様な感じがするんですけど本当に大丈夫ですか? いや、それより何より急過ぎない? せめてお祈りの時間くらいは貰えますよね?」
早口でまくしたてるヴンダーの手の震えが尋常ではない。戻っていた筈の顔色もすっかり失せている。
立ち上がったギムナックが弓を手にした。アイスドラゴンの気配が急に大きくなりすぎて、距離も動きも判別し難い。今にも氷の壁の向こうから巨大な頭が現れるのではないかと気が気ではない。目視で見張る以外になく、急いで氷の壁を目指す。
ミハルはリュークから杖を受け取ると、腰の巾着袋から真っ赤な魔力回復薬の入った小瓶を出して一気に飲み干した。吐き気を催すほど苦くて臭いが、いつものように「不味い」などとは言っていられない。
「ミハル、アイスドラゴンはこっちに気付いたか?」
ソロウがヴンダーを引っ張り起こしながら尋ねた。ミハルは震えながら「いいえ」と断言した。
「多分、アイスドラゴンは向こうを向いていたわ。それに、ドラゴンの視線にさらされたときのあの……あの、心臓を握られるような感じがしなかった。でも……ああ、嫌だわ。私ったら、すっかりドラゴン恐怖症みたい!」
「無理もねえな。俺だってドラゴワームとワイバーンとギルド会館の件だけで毎晩の悪夢のスケジュールが埋まってるくらいだ。お前はよくやってるよ。そんじゃ、俺は向こうを見張るから、このまま魔除けの結界を頼む」
「気を付けて。こっちを見ていなくても威圧されるほどだから」
ソロウが身を低くして坂を登るのを見送ったミハルは、リューク少年の頭や肩に張り付いた雪をそっと払い、「心配ないからね」と少年を気遣った。
リュークはひとまず頷いて、やっと立ち上がったヴンダーへお馴染みの革袋を差し出す。
リュークの革袋はもう随分と使い込まれた様子で、茶色の革はすっかりくたくたになっていて、袋の口を閉じて腰に括る長い紐も遥か前には変えどきを過ぎていつ寿命が来てもおかしくないように見える。
ヴンダーは「やめてくれ」という表情で、かつ非常に重々しい口調で「ありがとう」と言いながら、恐る恐るそれを手にした。そして、ヴンダーに無言で頷いたリュークは、軽やかな足取りで坂を登っていった。
「ねえ、ミハル。ほ……宝玉の魔力は、どんな感じですか?」
ヴンダーは、恐怖をはぐらかすように尋ねた。ミハルは首を横に振る。
「とてつもない魔力の中に、いつの間にか浸かっていた感じよ。魔力が大き過ぎて何も分からない」
「ああ……何故こんな無謀な計画で死ななきゃならないんだ……」ヴンダーは革袋の紐を手首に巻き付けながら泣きそうな声を出した。
「何言ってるの、あなたは死なないわよ。リュークはあなたを殺すような提案はしないもの」と、ミハルは妙に軽い声音で言い、ヴンダーを促すようにゆっくりと歩き始める。
佇むヴンダーは、ともすればミハルの正気を疑うような眼差しを向けた。
「あの子が……? そんなの分からないでしょう。子どもには、人がどうすれば死ぬかなんて分からないんだ」
「いいえ、とにかく絶対に死なせないわ。最悪、そのバッグに飛び込むのよ」
「自害しろってことですか! どこぞの極東の島国の狂人部族みたいに、潔く死を選べと!?」
「違うわよ、疑い深い人ね」
「失礼ですが、頭がイカれてますよ! 自殺志願者ですらマジックバッグに飛び込む最後なんて発想すらしないでしょう」
「……確かに。ごめんなさい、私が変なことを言ったわね。だけど、とにかく大丈夫だから。終わってみたら良い思い出になるわ」
「あー……ええ、そうですね。僕には先のことなんて……」
グズグズとぼやいて時間を稼ぐヴンダー。痺れを切らして駆け下りてきたソロウが、勢い任せにヴンダーを担ぎ上げた。
「悪いな、だが本当に今が好機なんだ。アイスドラゴンは目が悪い。絶対に気づかれないから、早く覚悟を決めてくれ」
上でヴンダーを待つリュークとギムナックが大きく手招きしているのが見える。ヴンダーは不運を呪いながら、やけくそで腹をくくるしかなかった。
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