西からきた少年について

ねころびた

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氷竜駆逐作戦(78〜)

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 グランツ一行がオローマを発って三日目の昼下がり、一行はついに「(西)オローマ・テヌート城・ナポロ町方面  (東)アーカス侯爵領方面」と書かれた倒れかけの看板を発見した。
 テヌート伯爵領はどちらかといえば南北に広い領土で、オローマは中央よりやや東寄りに位置する都市なので、本来の進行速度であればアーカス侯爵領へは一日半ほどで到着できる。ところが、オローマからの道は異常な雪解けの影響によって粘土質な泥に埋もれてぬかるんでおり、それときたら馬の蹄が滑るほど厄介で、途中から全員が下馬して進んだものだから大変に時間を食ってしまっている現状なのだった。

 しかも、リンが馬の代わりに馬車を引くと言ったにも関わらず、その上リンはとても上手に馬車を引けたにも関わらず、何故かグランツが「皆で苦楽を共にする」と言い出したから一切の馬と車をリューク少年の革袋に仕舞い込んで、無駄に疲労を連帯させる「全員徒歩」の手段をとらされている訳である。

 リュークは、ときどき全員に雪山で作って仕舞っておいた雪だるまを配った。これが本当に有り難くて、白い冷気を放ついびつな雪だるまを渡されるたびに大人たちは大仰に感謝した。
 また、不器用ながらに一生懸命作って大切に仕舞っていたはずの雪だるまを惜しげもなく差し出す少年の尊さに、ギムナックだけでなく数名の兵士までもが涙を浮かべたのだった。

 かたや、ほとんど一瞬で溶けて消えてしまう雪の塊を首や額に当てながら、ミハルとレオハルト、そしてヴンダーはリュークのマジックバックについての仮説を乱立させた。

「雪だるまがそのままの形で残っているってことは、やっぱり時間が止まっているってことになるのかしら」

「もしくは、単に状態を継続させる魔法の可能性もあるでしょう」

「あまり思い出したくないけど、とりあえず僕がバッグに手を突っ込んでスライムを掴めたってことは、少なくとも入った瞬間に時間が停止したり物を動かせなくなったりするような仕組みではないね。たまたま雪山の冷気ごと収納した可能性もあるのか……あ、思い出したら鳥肌が──」

 後方で議論に花を咲かせている魔法使いたちの声を耳にしながら、ソロウとギムナックはすっかりぬるくなった濡れた手をズボンで拭う。

「良いよなあ、魔法使いどもは戦闘以外で活躍できて。俺たち、今のところ冒険者としては殆ど何もしてねえもんなあ、ギムナック」

「戦闘は……そうだな……俺も最後に弓を使ったのはいつだったか……。でも、冒険者として雪山を登ったろ。あれは一応手柄と言えるんじゃないか?」

「そうかあ? ま、結果的には最善に終わったが、俺達の手柄かどうかって言われるとなあ……。やっぱ閣下の前じゃ武功は狙えねえな」

 それが当たり前か、と寧ろ誇らしげに笑うソロウ。ギムナックはそんなソロウに呆れとも安心ともつかない表情で「そうだな」と頷き、前を行くリュークとリンの後ろ姿に視線を固定する。
 ──大人が苦戦するぬかるみの道を難なく進む少年と大きめの魔狼。彼らの足元をよく見てみると、泥が沈み込んでいないようにも見えるのだが……。これ以上魔法使いたちの頭を使わせるのは危険な気がしたので、ギムナックは沈黙を選択した。




 そうして二時間ほど歩いてテヌート伯爵領最東端の関所を訪れた一行は、可哀想に領内のことを心配し通しで疲弊しきっているテヌート兵らに申し入れて、この関所で一泊することにした。
 過酷だった王都への旅も、ついにここまで来た。明日足を踏み入れるアーカス侯爵領で何事もなく、平穏に、順調に進めたとすれば、王城へはあとたった三、四日程度で到着出来る。

 ──と、王都までの道を知る者たちは考えかけたが、そのことを考えれば考えるほどに想定外が引き寄せられるような気がして、関所の上階にある簡素な寝台で横になっていても、思考に至りそうになるたび皆一様に首を振って、懸命に違うことを思い浮かべようとした。
 時々気を使って水などを差し入れにやって来るテヌート兵は、やがて疲労困憊の筈なのに寝付きの悪い数名が居ることに気付くと、不思議そうに首を傾げたのだった。

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