西からきた少年について

ねころびた

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アーカス侯爵領(99〜)

99 アーカス侯爵領

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 青々とした草むらの中、冒険者たちは一斉に白目を剥いた。

 立ちすくむ一行の前には地下へ続く石造りの階段への入口があり、中からまるで魔神のいびきのような恐ろしい風音が聞こえてくる。

 周りは長い草が威勢よく生い茂っていて、これほどだというのに人が通る気配はない。
 ──何故か?
 答えは明白。ここがテヌート伯爵領とアーカス侯爵領の二つの関所の丁度中間の──歩いてたった三分の道の完全なにあって、誰の用事もある筈のない無用の草むらであるからだ。

 つまり、ここは正確にはテヌート伯爵領でもアーカス侯爵領でもない浮いた土地なのだ。とはいえ、もしも両者が権利を主張すれば侯爵領地と認められるのは明らか。なので、便宜上〈アーカス侯爵領〉と呼ぶことにする。

 それで、この状況が何であるか。
 つい二分前の出来事を三行で説明するとこうなる。


 伯爵領の関所を出たところ
 少年、魔狼、辺境伯が
 迷宮ダンジョン見つけて飛び込んだ


 レオハルトの無表情がいつにも増して冷ややかだ。アイスドラゴンはもういないはずなのに吹雪が見える。十名のアルベルム兵士らは、「よく発見なされたものだ」と呆れを通り越していっそ感心している。

「は? やばくないですか? あの人たち、なんでいきなり入っていったんです? これってダンジョンですよね? なんで入っちゃったの?」

 ヴンダーがちょっと信じがたい様子で「なんで」を繰り返している。そうだろう、とソロウたちもレオハルトも兵士らも思う。

(なんで入っていったんだ……?)

 ミハルが草を踏んで膝からがっくりと崩れ落ちた。

「もう! 侯爵領の関所はすぐそこなのに! ほら、すぐ! 見えてる!」

 城と見紛うほど立派な関所──関所というものでなく、立派な要塞と呼ぶべきかもしれない。設計に多大な防衛性が窺える。それだけでなく、至る所に美しい柄が彫刻してあって、いやに優雅でもある。一行が居る草むらからの近距離では、その重厚感だとか存在感に圧倒されるばかりである。また、このあからさまな大きさと金のかけ方は、テヌート伯爵との格の違いを見せつけているようでもあった。

「俺らも行くしかねえよなあ。つっても、流石にヴンダーは連れていけないし……。ヴンダーと兵士の皆さん、良かったらそこの関所と、侯爵領の〈ウェルカ村〉にある〈ギルド支所〉にダンジョン出現報告を頼みたいんだが」

「宜しくお願いします、兵士の皆様。さあ行きましょう、早く行きましょう」と、すぐに行こうとするヴンダーの腕を兵士の一人が掴んで引き止めた。

「ソロウ、気遣いは有り難いが、我々も訓練の一環としてダンジョンへは何度も閉じ込められている。十分に同行できる実力は備えているつもりだ」

? ?)

 普通、ダンジョンへは十分な訓練を終えてから挑むものだが。
 ソロウは考えるのをやめてギムナックとレオハルトに視線をやった。

「今回はソロウの提案に従ってほしい」とギムナックが言う。「音からしてこのダンジョンのフロアの一つ一つはそう大きくないようだし、構造によっては足音が多すぎると俺の索敵スキルが発揮しにくくなる場合があるんだ。
 そして、俺にはマッピングスキルがある。ダンジョンで引き返すときに迷うことはまず無いから、安心して任せてくれ」

「しかし、我々の任務はグランツ様とリューク少年の護衛である」

 アルベルム兵は引き下がらない。兵士らは、次にくだされるであろうレオハルトの判断を待っているようだ。

「この際護衛は構いません。皆、今回はプロの冒険者たちに任せましょう。私がダンジョンへ同行するので、皆はヴンダーと共に今すぐ各所へ報告に向かってください」

 どこか寂しげな間を置いたあと、ぴしりと姿勢を正して敬礼したアルベルム兵士たちは、一糸乱れぬ足取りで、彼らの急な変わり様に戸惑うヴンダーを追い立てるようにしてこの場を去った。


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