西からきた少年について

ねころびた

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アーカス侯爵領(99〜)

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 ソロウ、ミハル、ギムナックとレオハルトは、装備と所持品の確認をしっかりと行い、ダンジョンへの階段を降り始めた。
 先頭は罠探知や索敵に秀でたハンターのギムナック。次に魔法使いのミハル。魔法と剣を扱うレオハルト。最後尾を剣士のソロウが行く。

「レオハルト、あんたも本当に苦労するな」

 しみじみ言ったソロウに、レオハルトは「ええ」と頷いた。

「しかし、私はおそらく苦労するのが嫌いではないのです。それに、グランツ様のそばに居れば、教会の孤児や街の子どもたちに物語をせがまれたとき、作り話をせずに済みます」

「はっはっは! そいつは間違いねえ!」

 ソロウだけでなく、ミハルとギムナックも声を立てて笑った。

 しかし、一見すれば子どもとは縁遠いような鉄仮面は、意外と子ども好きなのか──と冒険者たちはお揃いのことを考える。続けて、そういえば存外にリュークやリンとも親しくしている、などとも考える。

 すると、レオハルトがまるで三人の心を読んだかのように「私は子ども嫌いではありませんよ」と言ったので、冒険者三人は慌てて「何も言ってない」と手も首も大袈裟に振って誤魔化した。

 そうこうしているうちに、階段の底まで来た。ここから短い通路が伸びている。階段のために土をくり抜いただけのようだった壁がしっかりとした石造りに変わり、壁に一定間隔で設置された小さな壁掛けの松明が周囲を照らしている。

 通路の天井はあまり高くなく、長身のギムナックが手を伸ばせば無理なく届くほどだ。幅は、四人並んでも余裕がある程度。

「典型的な造りだ。そこの両開きの重い扉の先は、迷路のようなフロアになっていると思う。
 出現したばかりのダンジョンだから、まだ浅い階層では魔物が少ないはずだ。しかし罠はダンジョンの状態に関わらず常に準備されている。十分に注意して、俺の真後ろから外れないようにしてくれ」

 ギムナックが台本を読み上げるが如く流暢に言い終えると同時に、目の前にあった「両開きの重い扉」をゆっくりと開け放った。

 かび臭いような、獣臭いような、ダンジョン入口特有の匂いが鼻腔をかすめる。
 ミハルが額に汗を浮かべながら固唾をのんだ。

「なんだか……いえ、ごめんなさい、余計なことは何も言わない方が良いわね」

「大丈夫ですよ、ミハル。確かに何かおかしな感じがしましたが……おそらく気のせいでしょう」

 魔法使い二人の剣呑な会話に、ソロウが「そういうの、ちまたでは『フラグ』って言うらしいぜ」と苦々しく横槍を入れて先へ行くよう促した。


 ギムナックの言った通り、扉の向こうには迷路じみた複雑な通路が続いていた。全体は相変わらずしっかりとした石造りで、松明の明かりがある。

 曲がり角ばかりの通路を行くのは、相当に慣れていないと精神的に辛い。だが、このようなダンジョンで迷子になった初心者パーティを数多く救ってきたソロウたちにとって、このタイプの構造は苦ではない。
 心配があるとすれば、手に負えないほど強力な魔物と遭遇することだが、出来立てほやほやらしいダンジョンでは魔物が育っておらず、C級以上の魔物に出くわす可能性は低いとされている。

 今回もそのような真新しい典型的なダンジョンで幸運だった。これならば、リュークたちを見つけるのにも然程時間はかからないだろう。



 ──願望が過ぎて、そういった楽観的思考にかたよったのかも知れない。このダンジョンが「典型的」ではないことに彼らが気付いたのは、かなり旅慣れしているはずの足が疲れて完全に棒になった後のことだった。






「もう駄目……歩けない……」

 なんとか杖に縋り付くようにして歩いていたミハルが、ついに座り込んでしまった。ギムナックもソロウもすでに疲れ切っており、足腰はガタガタで、目の下にはくっきりと隈をこしらえている。
 だが、レオハルトだけはダンジョンに入ったときと──否、アルベルムを出発したとき──否、そのずっと前から何ら変わらぬ様子で立っている。


 四人がダンジョンへ入ってから、もう三十時間が経過していた。


 一階層の迷路で階段を見つけ出し、続く二階層の迷路でも無難に階段を見つけた。そのまま三階層、四階層と降りてきたが、はて、何かおかしい。
 というのは、いずれも落とし穴や囲い罠、トラバサミなど古典的で意地の悪い罠だらけの迷路であるのは想定内としても、どうやらこのダンジョン、下層へ向かうほどにフロアの広さが倍々に増しているらしいのだ。

「これは凶悪な魔神のダンジョンに違いない。クソったれめ、何が楽しくてこんなものを作るんだ」

 ギムナックは急に年老いたかのような掠れた声で文句をたれた。ソロウもミハルも同意見だったが、もう声を出すのも億劫だった。

 通路の所々にスライムが居る。冒険者たちは、リュークのせいでスライムを殺しづらくなっている。向かってくるスライムだけは仕留めなければと思うが、よく見て判断しようとしても、こちらへ向かってきているのか、たまたまなのか判断がつかない。
 しかし、先ほど近くを通ったスライムに、昼食だか夕食だかで空けた缶詰の缶を放り投げてみたところ、体に触れた瞬間からすぐに溶かされて消えたのではっとした。
 リュークが持っているスライムは、ソロウたちが触れても手を溶かしたりはしない。だが、野生のスライムは触れるもの全てを溶かす危険な魔物なのだ。現に、二十メートルほど向こうでダンジョンの床を溶かそうとして蒸気に似た煙を上げているスライムが居るのが見える。

 レオハルトが腰のベルトに付いた高級革のポーチから回復薬の小瓶を取り出して全員に配った。

「それを飲んで、今日はここで休みましょうか。先に私が見張りをしますから、三時間後に交代をお願いします」

「すまん、レオハルト。いつもは俺らだけで交代して見張るんだが……本業が面目ねえ。無理しないで、いつでも起こしてくれよ」

 ソロウが言って、レオハルトが頷いた。それから冒険者三人は小さめの毛布を支度しながら口早に礼を述べると、自慢の寝付きの良さを発揮してすぐに寝入ったのだった。





 壁にもたれて座るレオハルトは、早々に熟睡しているソロウたちを眺めてふっと頬を緩めた。

(貴方たちの方こそ、苦労している)

 これほど大変な旅といえば、勇者が行く魔王討伐の道くらいだろう。よくぞ主人や目的への不満も漏らさず同行できるものだと感心する。
 一方で、胸のざわつきが止まない。
 ふつふつと湧き上がるこれは、嫌な予感というものに違いなかった。

 漠然と、このままでは主人たちには追い付けないと感じるのだ。

 もしも、このダンジョンが底なしであるとしたら──?

「最悪だ……」

 つい漏れた俗っぽい悪態が、仄暗い通路にやけに反響して聞こえた。



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