西からきた少年について

ねころびた

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アーカス侯爵領(99〜)

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 リュークたちがダンジョンに飛び込んでから、丸二日が経過していた。収穫の無いまま、やっとの思いで地上へ戻ったギムナックは、ダンジョン出入り口の階段を登りきったところで、重力に逆らうのをやめて草むらに倒れ込んだ。
 ミハル、レオハルト、ソロウも続き、それぞれ寝転んだり佇んだり座り込んだりして深く息を吸った。
 
 朝の日差しが心地よい。地上にはこれほど爽やかな風か吹いていたのかと驚く。

「駄目よ……こんなことをしている場合じゃないわ……」

 仰向けになったまま空を見つめるミハルが、自分へか、仲間へか、寝言のように呟いた。

「……ああ。よし、起きろ! 行くぞ!」発破をかけたソロウが、なけなしの体力を振り絞ってのっそりと立ち上がる。体が地面に引っ張られるように重い。しかし、行かねば。

 眼前に、テヌート伯爵領とアーカス侯爵領の関所がある。さあ、どっちに行くか、と口に出す前に、アーカス侯爵領の関所から鎧姿の十名の兵士らが駆け付けてきた。

「レオハルト!」
「レオハルト様!」
「レオハルト殿!」
「側近!」

 兵士たちはレオハルトのことを思い思いに呼んで、ソロウたち冒険者の帰還を喜び、労って、急き立てるように成果のほどを尋ねた。

「──やはり、追い付きませんでしたか」

 兵士の中でも若い声が落胆して言った。それでも、ソロウが「すまない」と謝ると、「いえ、我らが辺境伯には追い付けなくて当然です」と急に誇ったので、ソロウは複雑な面持ちでうなじを掻く。

「はあ、それにしても困ったぜ。あのダンジョン、広すぎてどうにもならない。長期探索の装備を整えて再挑戦するしかないが……」

「その前に、会わせたい人物が居ます」

 こちらへ、と若い兵士に案内されて四人は侯爵領の巨大な関所へ向かう。

 伯爵領の関所のような数人がかりで動かす単純な扉ではなく、機械仕掛けの堅牢な落とし格子と獅子の飾りがついた鉄製の門が守る立派な建物の中は、子どもから大人まで、大きな荷物を抱えた人々で溢れかえっていた。

 酷く喧しい彼らの会話を聞き取ってみると、「何故通さないんだ」「手続きに手間取っている」「金ならある」「これだけの人数を一度に通せない。検問も手が足りていないし、通ったところでこの先のテヌート伯爵領は通行できる状態じゃないぞ」──。
 どうやら、通行希望者が多すぎて関所の機能が止まっているようである。それと、やはりテヌート伯爵領は未だ深刻な状態にあるようだ。

「三階の部屋を借りています。さあ、行きましょう」

 一人の案内役と九名の壁によって人混みを割ってきり抜け、階段を上る。大きな建物だけあって、部屋数も多い。二階に差し掛かった時に通路を覗き込みながら「ここなら災害が起こっても何の心配もいらないな」とギムナックは感心した。

 そして、いよいよ三階間近まで登ったころ、ふとレオハルトが疑問を口にする。

「まさか、あの子が?」

 兵士が振り向き、「さすがレオハルト様」と言った。すると、示し合わせたかのように通路沿いに並ぶドアの一つが開き、中からが突進の勢いで飛び出してきた。


「フルル!?」

 ミハルが叫んだ。

「あなた、何故ここに!」

 しかと見覚えのある垂れ耳兎の獣人少女を前にして、ソロウやギムナックはげっそりと痩けた顔であんぐりと口を開けたまま固まっている。

 そのすぐ側で、いつも冷静な男レオハルトが毎度の冷静さを発揮し、「もしかして」と口を切る。

「リンを追ってきたのですか?」

 フルルは、リンの名前に反応して耳を揺らすと、まるで面倒見の良い姉らしき表情で大きく頷いた。

 

 








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