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無限の迷宮(110〜)
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しおりを挟む「穴から離れて!」
レオハルトが叫び、ソロウが手をつきながら慌ててミハルを支え、その間にギムナックが立ちあがると、フルルがヴンダーを引っ張り、レオハルトと兵士の半分が殿を務め、全員が咄嗟に息の合った連携で一番近くの曲がり角へ身を隠したが、隠れ切る直前には既に奇妙な穴から次々と魔物が飛び出していた。
翼を持つ石像の魔物ガーゴイル、悪魔の中でもアーク(上位の意)と呼ばれつつ実際は中位悪魔に位置づけられるアークデーモン、草原の暴君オーガ、ゴブリンとオークの中間種であるゴブオーク、牛頭人身のミノタウロス、何匹かのスライム、杖を持ったゴブリンメイジ、闇を引き連れて飛ぶ闇蝙蝠、穴のフチに掴まったまま上がってこられない非力なアンデッドと、非力なアンデッドを踏み越えてわらわらと穴から出てくる身軽な骸骨姿のスケルトン。
蟻の巣から無尽蔵に蟻が湧いてくるように、穴の周りはすぐに魔物でいっぱいになった。
通路は、瞬く間に恐ろしい唸り声や奇声で騒然となる。何故ランクや種族の違う魔物たちが群れとなっているのだろうか。
「まずいな……」
リュックの上に更にミハルを乗っけたまま通路を覗き見るギムナックが、ごくりと喉を鳴らして眉を顰めた。
「魔力暴走か? それにしては様子がおかしいようだが」
少し奥に荷物を降ろして戻ったソロウが、ギムナックより下の位置から通路を窺って囁いた。さらにその下からレオハルトが顔を出して、「この階層付近は魔力暴走を起こしていません。しかし、あの穴の向こうが暴走を起こしている可能性は大いにありますね」と言った。
まずい、非常にまずい、と荷物を通路の脇に積み上げる兵士や冒険者らが冷や汗をにじませて作戦会議に移ろうとするそばで、フルルの肩に抱きついたままのヴンダーがか細い声で呟く。
「ね、ねえ……なんだかあの魔物たち、疲れているように見えるんですけど……?」
「何?」
ギムナック、ソロウ、レオハルトが目を薄くして魔物たちの様子を観察する。すると、確かにスケルトン以外は呼吸荒く、中には石床に座り込んでいる魔物も居る。
(ガーゴイルって、石像のくせに呼吸するんだな)
などという不意な発見が頭を過ってはっとしたソロウは、もう一度集中して穴の方を見やる。
魔物の出現は止まっているように見える。数は、おそらく全部で四十程度。かなりの数だが、あれだけ弱っているのならガーゴイルとアークデーモンとオーガ、ミノタウロス以外は倒せそうだ。せめてミハルが起きてくれればと何度か肩を揺すったり叩いたりしてみたが、一向に起きる気配がない。
「仕方ねえな。レオハルト、あんた攻撃魔法も得意なのか?」
「まあ、嗜む程度ですが。ここでは風魔法が有効でしょうから、先陣は私にお任せください。ギムナックと二人で、うまく行けば半分は減らせます」
レオハルトはソロウの考えを見透かしている。助かるよ、とソロウは苦笑のように笑ってギムナックを見上げる。ギムナックは頷き、ミハルを兵士の一人に預けた。
「ミハルを頼む。あと、フルルも」
「僕もお!」と、すかさずヴンダーが手を挙げて兵士に飛び付く。
「頼みますよ! あんただけが頼りなんですよ、兵士さん! あ、闇蝙蝠は大きな音と火に弱いです。オーガとミノタウロスは手強いですが、とにかく脚ばかり斬りつけていればいずれ倒せますよね!
ガーゴイルは水を掛けると暫く動かなくなります。アークデーモンは……頑張ってください!」
「おっ! 流石だな、ヴンダー。ありがとうよ」
ソロウに親指を立てられ、得意げに鼻の下を擦るヴンダーは、しかしすぐにレオハルトとギムナックが飛び出して行ったのを見て、兵士の腰に縋り付いた。
フルルは、寧ろ参戦するつもりでソロウの後ろから通路を覗く。
ギムナックは、久し振りの弓に緊張している。レオハルトは躊躇う事なく颯爽と剣を振り、その度に大きな風の刃が魔物たちに襲い掛かる。レオハルトの魔法使いとしての実力は本当に優れていて、ミハルが聞いたら感動するような滑舌の良い高速の呪文詠唱には、魔法のことなど到底分からないソロウたちですら舌を巻いた。
また、時折は火の魔法も混ぜて放たれると、いよいよ魔法が派手に暴れて通路は魔物の阿鼻叫喚に満ち、そこへさらに気合を入れたギムナックの強烈な矢が五月雨のように降って突き刺さった。
ソロウは右手を剣の柄にかけたまま、さり気なくフルルに下がるよう指示した。フルルは納得しなかったが、兵士の一人がフルルの腕を引いて奥へ仕舞うように追いやる。
「大丈夫、ここは我々に任せてくれ」
邪魔だとはっきり言わない辺りがレオハルトの信頼を得た兵士らしく紳士的である。
フルルは不満を飲み込んで、兵士にべったりとくっついて情けさに止め処なく拍車をかけ続けるヴンダーの隣に立つと、静観を決めた。
レオハルトとギムナックの猛攻で見事に魔物の半数──よりも多く、ガーゴイルとアークデーモン、ミノタウロス、それらの後ろにいて骨折を免れたスケルトン以外を倒すことに成功した。穴のフチに指を引っ掛けていたアンデッドたちは、勝手に力尽きて穴の中に落ちたようだった。
これにより、一行の士気が上がる。
「よし、ここからは剣士の出番だな」と、ソロウ。
「ええ」と、レオハルトの構えが剣士のものに変わる。
「隙があれば援護する」と、ギムナック。
「我らも出るぞ」と、九名の兵士。
冒険者ギルドが設けた魔物等級では、ミノタウロスもガーゴイルもオーガもアークデーモンも基本的にはB級に指定されている。ただし、悪魔であるアークデーモンは個体によりA級指定されることもあり、特に危険である。
ソロウたち剣士はヴンダーの助言に従い、先ずはオーガとミノタウロスの脚に狙いを定めた。どちらも硬そうな脚だ。刃物が通るかも疑わしい。
こっそりと曲がり角から通路を覗くフルルの赤い瞳が、兵士らと冒険者たちの向こうに居る魔物の姿を探した。
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