130 / 199
無限の迷宮(110〜)
129
しおりを挟むリューク曰くトレントであるその杖は、ミハルに投げ捨てられて案山子に激しくぶつかり、案山子を倒してしまった。
途端に、黒い空間の底が抜けたように全員が落下を始めた。あまりの驚きに悲鳴を上げる者も少ない。心臓が浮いて出そうになったのか口を押さえる大人が数名。ミハルは涙と鼻水を逆上らせながらも、この状況を何とかできる魔法はないかと頭を回転させる。だが、ミハルの使える土魔法はここで使えないし、火魔法も役に立たない。マジックバッグの魔法などはもっての他だろう。
いつ見えない床が現れて全身が粉々になるか分からない恐怖を堪えるのは難しい。
「いやぁ、まさか根を張って生きる儂のようなモンが空を飛べるたぁ、思いもしやしませんでしたのぅ」
杖が嬉しげに言うのが癇に障ったらしく、ミハルは「『落ちてる』だけじゃない!」と怒鳴った。
リュークは泳ぐような仕草で案山子に近寄ると、さっきと同じくして案山子の棒を掴み、振り上げ、何も無いところに突き立てた。
「……おお!」と、目を輝かせるソロウ。着地した感覚はなかったが、不思議と落下は止まっている。杖は誰にも拾われずにころころと転がって、うまいこと全員から顔の見える位置で止まった。
リュークがまるでありがとうとでも言うように案山子を撫でた。とにかく命拾いした一行は、リュークに何かを尋ねるべきかどうか各々に思案した。
リュークに質問するのは、あまり簡単なことではない。気軽に尋ねる分には大して問題は無いのだが、以前にも述べたように質問を重ねると異常な罪悪感が芽生えてどうしようもなくなってくるのだ。これはリュークと過ごす時間が増えた今も変わらない。しかも、一度芽生えた罪悪感は消えることなく積み重なって、頑丈な枷の如く口を開きにくくする。それでも尚リュークとの会話を躊躇わないソロウ、ギムナック、ミハルの冒険者三人が特別なのである。特にソロウはレオハルトに尊敬されるほど容易く問答を重ねる。これは誰にも真似できないことだ、と他の誰もが思うのだった。
そのソロウが杖を拾い上げてミハルに返しながら「早くここを出よう」と言った。心底嫌そうな顔で杖を持つミハルをよそに、もっともな判断だと残る全員が同意した。リュークは素直に頷いて、案山子の腹を軽く叩いた。
次に瞬きをしたあとには、見知らぬ洞窟の中に立っていた。土を掘り進めて作られた坑道のようなしっかりした作りの洞窟で、壁面にはやはり松明が掛かっており、ぱっと道の先を見ただけでもあちらこちらに分岐路が確認できる。なるほど、これはいかにも「洞窟の迷路」である。
「信じられない……」
フルルが震えながら呟く後ろでは、ヴンダー・トイがフルルよりも震えながら「夢だ……夢だ……」と虚ろな表情で繰り返している。ミハルは今の現象と杖のどちらをより不気味がるべきかも分からず、いっそ全てを受け入れて何事もなかったような顔つきになった。
「有り難うございます、リューク。まだ歩けますか?」
案山子を革袋へ入れたリュークの前で屈んだレオハルトが、リュークの服の乱れを直してやりながら尋ねた。リュークが頷くのを見てほっとしたレオハルトは、すぐに全員を指揮して隊列を組み、ここでも道案内できるという魔狼リンを先頭にして洞窟の迷路を進み始めた。
「ここは普通の魔物の気配がしますね」
気を付けて、というレオハルトの注意喚起にリュークと並んで二番手を行くギムナックが索敵の感度を上げる。
「多くが逃げ出した後のようだが、たまに通路の奥からこっちを見ているやつがいるな。今のところ罠は無し。本当に普通のダンジョンみたいだ」
「アルベルムからこれだけ歩いたのに、ほとんど魔物と戦闘にならないってのは奇跡的だな」
ソロウが抜き身の剣を目の前に翳して刃こぼれ具合を見ながら言った。この剣はミノタウロスとの戦闘でかなり損耗してしまった。リュークの革袋に予備があるとはいえ、もしも普段通りの数の魔物に出会していたとすれば余程難儀だったに違いない。
奇跡的に魔物が少なくてよかった。
──本当に?
考えかけて、ソロウは一度身震いした。そして剣を鞘へ納め、水筒の水を飲んだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる