西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
149 / 199
元魔王城(142〜)

148

しおりを挟む

 死者の王リッチロードは、八本の爪で広げた繭の亀裂からリッチを拡大したに凡そ等しい髑髏どくろ顔を覗かせながら、なかなか出てこようとはしなかった。いかにも妙なのが、チラチラと外の様子を窺っては繭の中へ戻り、また首の骨を伸ばしては外を窺い見て頭蓋骨を引っ込める行動である。これは、さも魔力しか詰まっていないような頭蓋骨の中に上等の葛藤でも存在しているかの如くな、しかも今となって引くに引けない事情でもあるかの如くな、実に心配を誘う異常行動であった。


 時々は呻く声も聞こえる。山鳴りに似た恐ろしい声だ。無論、人間の大人たちからでなく、リッチロードの方から鳴っている。大人たちの方はといえば、もう声も出ないほど弱っていて、つまり、虫の息に近い。
 これを悲しんだリンがさりげなく上を向いて遠吠えをした。あまり美しい遠吠えではなかったが、大人たちは急に体調が回復するのを感じた。

「お、おお……! リンが助けてくれたのか?」

 リンのそばで立ち上がった兵士たちが驚きながらリンの背を撫でた。リンは自慢げに鼻を鳴らし、手近な数人に大きな頬をこすりつけて悪気なく転倒させた。

「ありがとう、リン」

 ミハルとレオハルトも立ち上がった。ソロウも、他の兵士らも立ち上がり、再び武器を構える。リッチロードの葛藤はまだ続いているようだ。
 ギムナックだけは膝をついて懸命に祈りを唱えている。

 リュークは何か思いついたように木の枝を取り出した。それから、木の枝を剣に見立てて何も無い空間に真一文字の切込みを入れた。このとき大人たちは皆リッチロードを警戒していて、誰も少年の行動に注意を払っていなかった。

 リュークは、空間に出来た割れ目をさらに切り開いた。突然の気配に間髪入れずレオハルトが振り向いたが、状況判断に手間取り、掛ける言葉に迷ってしまう。

「リューク!」

「リューク! 何してるんだ!」

 次に気付いたミハルとソロウがリュークに駆け寄って小さな体を抱き竦める。空間の割れ目からは、土の香りを乗せた風が吹いている。
 何を思ったか、突進してきたリンがその割れ目に体を捩じ込んだ。少年がこじ開けただけの割れ目の幅は狭く、尻を無防備にしながら不格好に押し入ろうとする様にはリンならではの愛嬌がある。

 大人たちがポカンと口を開けてリンの尻尾を見送ると、リュークはミハルを呼んだ。

「あれを弱らせると良いんだ」

 とはリッチロードのことである。
 ミハルは目を丸くしながら「う」とか「も」とか「ぐぬ」とかいう意味を成さない声を発しただけで、あとは人形のように固まって思考を停止、もしくは思考に没頭してしまった。ソロウは同情の目でミハルを見やったあと、リュークを拘束していた腕を解いた。直後、空間の割れ目からフルルが飛んできた。

「ぎゃーーー!!」

「わぁーーー!!」

 フルルとフルル以外から悲鳴が上がった。

 その悲鳴が止む前に、今度はヴンダーが飛んできた。

 またそのすぐ後で奇妙な割れ目から悪びれもせず顔を出したリンの口は、気前よくよだれを垂らしながらトレントの杖を咥えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...