150 / 199
元魔王城(142〜)
149
しおりを挟むリンが大満足げな笑顔で戻ってくると、空間の割れ目は何の音も立てずに閉じて消えた。
「今の……さっきの洞窟に繋がってたんだよな……?」驚愕しきりのソロウが言った。「外へ出られたんじゃないのか……?」
「ここ、どこです? どこなんです? さっきの部屋ですか? なんだか全然違う場所のように見えた気がしたんですが!? もうやだ、ここどこ!」
ふらつきながらも立ち上がったヴンダーがレオハルトに縋り付いて、ぎゅっと目を閉じながら尋ねた。彼の魔覚は失われているので、未だリッチロードの存在に気付いていないか、わざと気付かないよう努めている最中のようである。
キョロキョロとあたりを見回しているフルルの方は、強大な魔力にあてられて声を出せないようだった。しかし、その顔からは「何故連れてこられねばならなかったのか」という抗議の意思が露骨に見て取れる。ソロウや兵士らは申し訳なさそうに俯いて目を逸らした。
リンは大きな尻尾を振り振り兵士らの間を小走りですり抜けると、ミハルの胸元へトレントの杖を押し付けた。
ミハルは非常に遠慮がちな表情で杖を受け取り、改めてそれを掲げて眺めてみる。
「……ややっ、あすこに隠れておるのはリッチロードですなぁ。ありゃあなかなか出てきやせん根暗の魔物じゃが、はあ、珍しや。
しかし此処はまた良くねえ場所ですわ。まあ、あんたらにとっても良かねえところだが、日が当たんねえと儂らぁ弱ってしまいますんで、気ぃつけとってもらえると助かります。と言ったって、その様子じゃあ、あんたらだって長居はしたくねえんでしょうが。
そしたら、さあ、ほれ、ここから出たいなら、まずは行動せにゃいかん。動かんことには、なぁんにも出来ゃせんのですからな。ほぉら、なんだってやってみにゃあ。やって出来んかったら、次の手を考えて、そんでも駄目ならまた別の手を考えてごらんなさいや。大丈夫、あんたらぁまだ若いんですから、なんだってやってみたらええんですわ」
爺の顔が喋って、笑んだ。この杖、普段は植物か杖らしくして黙っているのに、一旦口を開けばとことんまで喋り散らかすところがある。
ミハルは鼻の横をひくつかせたが、次に溜息を吐いて杖を持つ手を下ろした。
リッチロードは、まだ出てこない。
「リューク、このトレントであれをやっつけるの? 私の魔法なんかじゃ、傷一つ付けられないと思うけど」
「ミハルの方が強いよ」
打てば響くような返答をしたリュークに、大人たちは瞠目する。そんな訳があるか、と誰しもが思うのに、リュークが言えばそれが真であるように錯覚しかけるのがまた不思議だ。
ミハルなどは、場違いに頬を紅く染めてモジモジとしている。神に祈りを捧げ続けている敬虔な信徒ギムナックも、祈りの片手間に眉を寄せて怪訝そうな顔を向けた。
「あれを弱らせると良いんだ」
ミハルには何が良いのか分からなかったが、こうなればもう破れかぶれで当たって砕けてみようかという気になった。
杖を構えたミハルを見て、ソロウは心底ぎょっとした。そして、落ち着け、と彼女の肩に触れようとした瞬間だった。
「ゥあ゙あ゙あ゙ぁぁああああああ!!」
トレントの狂った叫び声と共に、直径ギムナック程はあろうかという特大の火の玉が杖の先からリッチロードの繭へ向けて放たれた。
火の玉との衝突で繭の一部が波紋を生みながら弛んだ。鼓膜を圧迫するような爆発音のあとは、耳鳴りを引き起こす静寂が降りてきた。
間一髪のところで繭の中へ引っ込んで無事だったリッチロードは、骸骨ながらに目を丸くしている。
大人たちは、ミハルに畏怖と尊敬の眼差しを向けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる