151 / 199
元魔王城(142〜)
150
しおりを挟む皆がミハルに賛辞を送るのを聞いて、フルルはなんとお目出度い大人たちだろうと呆れた。また、レオハルトも驚きこそしたものの、今のミハルの魔法の威力をもってしてもリッチロードにダメージを与えるにはいたらないだろうと思い、逆に危機感をつのらせた。
ミハルを褒め讃える彼らは、ただ冒険で得た経験値がいつの間にか彼女の魔法レベルを引き上げたのだろうくらいに考えて喜ぶ気の良い大人たちの集団だった。そして、彼らに囲まれたリュークが一瞬浮かべた驚きとも落胆ともつかない表情に気付く者はなかった。
それはそれとして、リッチロードが引きこもっているうちに、ミハルは重要な問題に向き合わねばならなかった。
「あなた、もしかして魔法を使うときに毎回叫ぶわけじゃないわよね?」
ミハルが杖に尋ねると、杖は幾らかげっそりとした顔を浮き上がらせて「ああ?」と返した。どうも耳が遠くなっているようだ。ミハルは嫌そうにしながらも少しだけ杖を顔の近くへ寄せて声を張る。
「あなた、どうして叫んだの!?」
「っはあ! どうしてって、そりゃあ叫ばずにおられんでしょうよ。それともお嬢さん、あんたぁ儂が木材だってぇのが見て分からんのですか? や、百歩譲って仮にあんたが儂のことを石材と勘違いなさっておいでだとして、や、や、いっそもう百歩も千歩も譲っちまって儂が本当にゴーレムで、ということにしましょうや。それにしたって、人だって牛だってドラゴンだってゴーレムだって何だって、ケツに火なんか着けられちゃあ叫ぶ他ないでしょうが」
トレントの言うことにミハルは反論できなかった。ほんの一瞬「ゴーレムに火が着くものか?」という疑問が頭をもたげかけたが、空気を読んで飲み込んだ。
ごめんなさい、と大人しく詫びる女に、遥か年輩の杖は深く息を吐き出し、「やれやれ」と嗄れた声で呆れる。
「人間がいかに残酷な生き物かってぇのは重々承知しとるつもりでしたが、はて、まさかここまで無知なものとはねぇ。頼みますよ、こうなっちまった以上はあんたの手に儂の全てが委ねられとるんですから。ええかな、規則正しい生活と魔力をたっぷり含んだ綺麗な水、十分な日照時間、あとは何事も無茶をせんこと。これだけが長生きの秘訣なんですからな、よぉく守って、精進しなさい」
ショージン、とリュークが反芻したが、ソロウはすぐに教えてやれなかった。それは次に機会が回ってきたら教えるとして、今はリッチロードへの対処が先決だと頭を切り替えた。
ソロウはどうするかとレオハルトに問い掛けた。レオハルトはこめかみに浮いた汗を拭っただけで黙している。兵士らもレオハルトに注目しながら鎧兜を僅かに持ち上げて緊張の汗を拭っている。
何故リッチロードが出てこないのか。
レオハルトの観測によれば、リンでさえリッチロードに深手を負わせることは不可能なのだった。それなのにリッチロードが繭で縮こまっている理由とは何か。おそらく一撃のもとに全員を殺すことが容易いはずであるのに、何を躊躇しているのか。例えば、もし、リュークという小さな少年に何か超常の力があるとして──レオハルトは、もはやリュークの力を意識せずにはいられなかった──こうも多大な影響を与えるものだろうか。
レオハルトはリュークを見下ろした。好奇心旺盛なリューク少年は、ギムナックの隣について祈りの真似事を試みている。恐れ知らずの好奇心がリッチロードではなくギムナックに向くというのも可笑しなものだ、とレオハルトはふと考える。
「ねえ、もう一度仕掛けてみましょうか。ここじゃ土魔法が使えないみたいだから、トレントにはまた痛い思いをさせてしまうけれど……」
ミハルが提案したが、レオハルトは首を横に振った。
「すでに貴女も理解しているでしょうが、あれは今の貴女とリンと他の全員が束になっても倒せる存在ではありません。下手に藪をつつくよりも、あれが繭から離れないうちに、もう暫くこの空間から出る方法を模索してみましょう」
「そうだな。リュークにもう一度空間を切ってくれるよう頼んでみるか」
待ってましたというように、ソロウは神へ祈る少年のそばへと寄った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる