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元魔王城(142〜)
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しおりを挟むリューク少年は、生まれつき魔法が達者である。
それがどれ程かといえば、魔法式を必要とせず、属性を無差別化し、ついでにスキルの性能を混ぜ込んだりして、大抵のことは頭に思い描いた通りに実行してしまえるほどだ。
世界中の、どの魔法使いが聞いても信じないような能力である。
小さな彼の中には西の荒野とユフラ婆さん、そしてこの旅で得られただけの偏った知識しかなく、頭に思い描けることは自由極まっていて人の常識を大胆に超越している。
このような彼の状態を察していたユフラ婆さんは、スキルや魔法についてはなるべく人に明かさないよう言いつけた。彼はユフラ婆さんの言いつけを彼なりに守って、あまり人前でスキルや魔法を使わないようにしていたつもりであった。
ところが、聡明かつ生き字引のユフラ婆さんであってもリューク少年の感覚というのは掴みきれないもので、例えばドラゴワームを引き寄せたり、ナナイやイオや魔狼姿のリンと意思疎通できたり、スライムを手懐けたり、生物を生かしたまま出し入れできる底無しの革袋でさえ、彼にとってはスキルや魔法の部類に入らないのである。
では、彼にとってのスキルや魔法とは何か?
ワイバーンを弾くためにミハルの防御結界を強化し、跳ね返りの効果を付与したのが「魔法」である。
石ころを建築素材に加工したのも、泥団子に掛けた保護効果も、悪魔を弾き飛ばした結界も「魔法」だった。
ワイバーンやゴブリンや、あらゆる景色を遥か上から見下ろす〈俯瞰〉は、れっきとした「スキル」である。
テヌート伯爵領で城までの積雪や障害物を消し去ったのも「スキル」である。
──と、大体このくらいまでは自覚している。
とくれば、すなわち魔物と意思疎通したり、木の枝や昆虫に魔力を流して何らかの影響を与えたり、空間を切り開いたり、空間転移を引き起こしたり、トレントを杖にしたり、かくれんぼに勝つため透明になったり、レオハルトの剣を好きに操ったり、祭壇で神が尻拭いに出張してくるほどの召喚を行ったり、時たまゴブリンを引きずり大岩を投げ飛ばすような怪力を発揮したり、そもそもステータスにあるようなものの大半、そういったことは彼にとってスキルや魔法にはあたらないという訳である。
ユフラ婆さんがこのことを知れば呆れ返るだろうが、しかし当の本人に自覚がないのだから仕方がない。また、魔法の神が彼に向けて「オベンキョーしろ」と言ったのが、正しくこの辺りのことを自覚し、スキルや魔法を含めた汎ゆるものの価値を知れという意味であった。が、残念ながら本人には理解されず、虚しいだけの神の言葉と成り下がって放置された。
さておき、そんな彼が入口に目をやった。魔覚で見ると、結界と扉越しに何やら叫び続けているヴンダーとフルルの気配がある。一呼吸の後、ふと彼は貧血のレオハルトへスライムを預けた。
「う……っ、やめなさいリューク。危険ですから、戦闘はリンに任せて貴方はこちらへ……」
大人たちはあくまで少年を危険から庇うつもりだ。しかし、リュークは「大丈夫」と言いながら回復薬を取り出してレオハルトのそばへ置いた。するとスライムが異様に興奮して回復薬の瓶に伸びようとしたので、人の物を奪ってはいけないと穏やかに窘めた。
その後、少年はどことなく動揺の色を浮かべているトレントの杖を拾うと、倒れている兵士や冒険者へ回復薬を配りながら徐々に吸血鬼へと近づいて行くのだった。
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