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元魔王城(142〜)
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ヴンダーの魔力容量は膨大なので、魔力回復薬を数本飲んだところで魔力満タンとはならない。それでも不味さで意識が朦朧とするまで飲み続け、漸くまともに魔力が感じられるほどには回復した。
すっかり呪いから解放されたヴンダーを見て、まるで自分のことのように安堵の表情を浮かべた仲間たちは、足の生えたメデューサが死に際にドロップした珍しい色の魔石を回収してから、互いの近況を報告することにした。
「ヴンダー、お前テヌート伯爵領で療養する予定じゃなかったのか?」
呪いを受けた後の失意の中で何気なく口にした予定をエモリーが覚えていたことに驚きを隠せないヴンダーは、え、う、あ、と吃りつつも話し始める。
「や、えっと、そう。でも、テヌート伯爵領のオローマに着いた途端にアイスドラゴンに襲われて──」
ヴンダーは長い旅の話をして聞かせたが、やはり予感があった通り、リュークが成した諸々のことに差し掛かると急に呂律が回らなくなるので、仲間たちから飲酒を疑われ心配される羽目になった。が、そうであっても話し続けるヴンダー。やがて殆どの事情を聞かされた仲間たちは、まるで信じがたい状況に怪訝な顔つきで眉を寄せる。
「アーカス侯爵領の手前からここに来たって? そいつはいくらなんでも……」
「迷宮にそれほど大規模な空間転移が展開されていた例はありません。それに、迷宮が繋ぎ合わさっているというのも奇妙です。仮にそうであれば、ダンジョンボス同士の魔力が干渉し合い、それぞれの迷宮を保てなくなる確率が高いと思われます」と、知識の宝庫アレクシア。
「だが、確かに異変は起こっている」と、ロルト。「俺達はさっきまで休憩部屋に閉じ込められてたんだ。前に来たときはそんなことなかったよな」
「しかも、妙な暖炉があったじゃない。あたしたち、そこに入って転移させられたんだから。あっ、そういえば!」
ハンナが大きな手を打って言った。
「あたし、あの暖炉からここに来る前に別の暖炉に飛ばされたのよ!」
「ああ! 俺も!」と、エモリー。頭の上に疑問符を浮かべるヴンダーがアレクシアとロルトに目を向けると、二人もエモリーらと同じようで、しきりに頷いていた。
「なんか知らねえ部屋にいっぱい人が居てさあ、俺が暖炉から出ようとしたら馬鹿でかい魔狼が来て、また暖炉に押し込まれたんだ。そんで、気がついたらこの部屋で──って感じなんだけど」
「そうそう、あたしも同じよ。ほんと、びっくりしたわぁ! ダンジョンっぽいけど見たことない広い部屋にすんごい美形の彼が居て、鎧の奴らが十人くらい居て、冒険者っぽいのが三……四人? あと、子供が居た気がするわ。でも、まさかダンジョンに子供が居るはずないわよねえ」
見間違いかしら、と首をひねるハンナに、アレクシアが「いいえ」と答える。
「スライムを抱いた六歳くらいの子供が居ました。魔狼はフェンリルの亜種でしょうか? 見たことのない種でした。鎧姿の十人は、アルベルムの兵士のようでした。三人の冒険者には見覚えがあります。確か、アルベルムの保安冒険者ソロウ、ミハル、ギムナックです。あとは、冒険者風の少女が居ましたが見覚えがありません。『美形の彼』とは、アルベルム辺境伯の側近のことでしょう」
「じゃあ、あれがヴンダーの言う『アルベルム辺境伯御一行』と見て間違いないわけだ。けど、肝心の辺境伯が見当たらなかった気がするんだが……」
ロルトが腕組して言うと、ヴンダーが気まずそうに口を開いた。
「辺境伯は、体調が悪くて寝袋に入ってるから」
貴族が寝袋を使用することは珍しいが、迷宮においては体調不良の仲間など寝袋に入れて運ぶのが最も合理的である。ロルトは「なるほど、さすがは変わり者の辺境伯だ」と笑った。
悪魔や悪魔の人形のことは上手く話せていない。呂律が回らないせいもあるが、それ以前に何と説明して良いか迷っている。ただエモリーたちから詳細を求められることはなく、つくづく理解のある仲間だと感動するヴンダー。それで、今更ながらようやくロルトの隣にいる男に視線をやる。
「ところで、その人って……」
「あ、ホラフキンス?」
エモリーの声に、怪しげな男の肩が跳ねた。男は自ら口を開くつもりは無いようで、黙って目を泳がせている。
「解呪特化型の魔法使いだよ。お前の呪いを解いてもらおうと思って探してきたんだ」
街で偶然見つけてさぁ、と胸を張って笑うエモリー。他の仲間たちが呆れているところからして、エモリーの独断で引っ張ってきた人材に違いない。
そして、この世で最も如何わしい文句の一つである「解呪特化型」ときている。
(そうだよね。エモリーならやりかねないと思ってたさ。だって、エモリーだもの)
ヴンダーは、もはや実家のような安心感の中で長い息を吐き出した。
すっかり呪いから解放されたヴンダーを見て、まるで自分のことのように安堵の表情を浮かべた仲間たちは、足の生えたメデューサが死に際にドロップした珍しい色の魔石を回収してから、互いの近況を報告することにした。
「ヴンダー、お前テヌート伯爵領で療養する予定じゃなかったのか?」
呪いを受けた後の失意の中で何気なく口にした予定をエモリーが覚えていたことに驚きを隠せないヴンダーは、え、う、あ、と吃りつつも話し始める。
「や、えっと、そう。でも、テヌート伯爵領のオローマに着いた途端にアイスドラゴンに襲われて──」
ヴンダーは長い旅の話をして聞かせたが、やはり予感があった通り、リュークが成した諸々のことに差し掛かると急に呂律が回らなくなるので、仲間たちから飲酒を疑われ心配される羽目になった。が、そうであっても話し続けるヴンダー。やがて殆どの事情を聞かされた仲間たちは、まるで信じがたい状況に怪訝な顔つきで眉を寄せる。
「アーカス侯爵領の手前からここに来たって? そいつはいくらなんでも……」
「迷宮にそれほど大規模な空間転移が展開されていた例はありません。それに、迷宮が繋ぎ合わさっているというのも奇妙です。仮にそうであれば、ダンジョンボス同士の魔力が干渉し合い、それぞれの迷宮を保てなくなる確率が高いと思われます」と、知識の宝庫アレクシア。
「だが、確かに異変は起こっている」と、ロルト。「俺達はさっきまで休憩部屋に閉じ込められてたんだ。前に来たときはそんなことなかったよな」
「しかも、妙な暖炉があったじゃない。あたしたち、そこに入って転移させられたんだから。あっ、そういえば!」
ハンナが大きな手を打って言った。
「あたし、あの暖炉からここに来る前に別の暖炉に飛ばされたのよ!」
「ああ! 俺も!」と、エモリー。頭の上に疑問符を浮かべるヴンダーがアレクシアとロルトに目を向けると、二人もエモリーらと同じようで、しきりに頷いていた。
「なんか知らねえ部屋にいっぱい人が居てさあ、俺が暖炉から出ようとしたら馬鹿でかい魔狼が来て、また暖炉に押し込まれたんだ。そんで、気がついたらこの部屋で──って感じなんだけど」
「そうそう、あたしも同じよ。ほんと、びっくりしたわぁ! ダンジョンっぽいけど見たことない広い部屋にすんごい美形の彼が居て、鎧の奴らが十人くらい居て、冒険者っぽいのが三……四人? あと、子供が居た気がするわ。でも、まさかダンジョンに子供が居るはずないわよねえ」
見間違いかしら、と首をひねるハンナに、アレクシアが「いいえ」と答える。
「スライムを抱いた六歳くらいの子供が居ました。魔狼はフェンリルの亜種でしょうか? 見たことのない種でした。鎧姿の十人は、アルベルムの兵士のようでした。三人の冒険者には見覚えがあります。確か、アルベルムの保安冒険者ソロウ、ミハル、ギムナックです。あとは、冒険者風の少女が居ましたが見覚えがありません。『美形の彼』とは、アルベルム辺境伯の側近のことでしょう」
「じゃあ、あれがヴンダーの言う『アルベルム辺境伯御一行』と見て間違いないわけだ。けど、肝心の辺境伯が見当たらなかった気がするんだが……」
ロルトが腕組して言うと、ヴンダーが気まずそうに口を開いた。
「辺境伯は、体調が悪くて寝袋に入ってるから」
貴族が寝袋を使用することは珍しいが、迷宮においては体調不良の仲間など寝袋に入れて運ぶのが最も合理的である。ロルトは「なるほど、さすがは変わり者の辺境伯だ」と笑った。
悪魔や悪魔の人形のことは上手く話せていない。呂律が回らないせいもあるが、それ以前に何と説明して良いか迷っている。ただエモリーたちから詳細を求められることはなく、つくづく理解のある仲間だと感動するヴンダー。それで、今更ながらようやくロルトの隣にいる男に視線をやる。
「ところで、その人って……」
「あ、ホラフキンス?」
エモリーの声に、怪しげな男の肩が跳ねた。男は自ら口を開くつもりは無いようで、黙って目を泳がせている。
「解呪特化型の魔法使いだよ。お前の呪いを解いてもらおうと思って探してきたんだ」
街で偶然見つけてさぁ、と胸を張って笑うエモリー。他の仲間たちが呆れているところからして、エモリーの独断で引っ張ってきた人材に違いない。
そして、この世で最も如何わしい文句の一つである「解呪特化型」ときている。
(そうだよね。エモリーならやりかねないと思ってたさ。だって、エモリーだもの)
ヴンダーは、もはや実家のような安心感の中で長い息を吐き出した。
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