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元魔王城(142〜)
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しおりを挟むホラフキンスは、非常に狡猾な男だ。いつも謙った口調で上手いこと嘘と真を織り交ぜるので、聞いている方はいつの間にかその話術に騙されてしまう。魔力はどう見積もったところでC級魔法使いの域を出ない。体術や薬草知識に長けている訳でもない。金も無ければ家も無い。少年時代までの友達は彼の虚言癖を嫌い、一人二人と去って久しい。仕事は何をやっても長続きせず、常に孤独だ。孤独でない風を装っていた頃もあったが、他人は騙せても自分を騙し続けるのは難しい。
悪には馴染みがあるので度々は野盗と結託して悪事を働くこともある。だが、あまり大きなことを仕出かすと後が厄介だった。これまで奇跡的に手配書に載ることはなかったものの、下手を打って国軍の警備隊に仲間を引っ張られた野盗どもから何故か憎まれるようになり、それからは野盗も目を向けないような暗い路地裏に身を潜めながらほそぼそと詐欺を働いて小銭を稼ぐ日々が続いた。
そこへS級冒険者エモリーが現れた。
エモリーの存在感たるや、見た瞬間に目が眩むほどだった。ずっと日向を歩いてきた人物の、体の内側までも陽の光に満ちているかのような特別な輝きに、ホラフキンスは一抹の嫉妬心すら抱く余地もなく魅了された。
エモリーは、解呪の方法を探し求めているようだった。それもただの呪いではなく、めっぽう強力な呪いを解く方法である。ホラフキンスはエモリーに釘付けになりながら、「S級冒険者にも馬鹿っているんだな」と身も蓋もない事を思った。
ただでさえ解呪方法が確立された呪いはごくごく少数に過ぎない。未だ殆どの呪いは未解明で、そのうえ解明される可能性は限りなく低いとされている。しかし、だからこそ詐欺師にはよく利用される文句となり得ている。適当な呪文を唱えながら適当に魔力を練って適当に疲れたふりをしておけば金が支払われるのだから楽なものだ。そんなことはS級冒険者なら知っていて当然の常識だろうと思っていたホラフキンスは、S級冒険者の中に見つけたこの世間知らずへ即座に「解呪特化型」として自分を売り込んだ。
実のところ、何故そうしたのかは分からない。ホラフキンスは確かに金を必要としていたし、意図して詐欺の常套句である解呪特化型を謳ったが、金品を目的としてのことではなかった。ホラフキンス自身、自分が何を求めてここまで来たのか未だに分かっていないのだ。
──にしても、妙なことに巻き込まれてしまった。
何もかもがいつもの自分ではないし、いつもの自分には起こり得ないことが起こっている。ホラフキンスは、まるで自分と正反対の魔法使い──美しき天才魔法使いヴンダーに身の置き所をなくし、床に視線を落とし続けたまま、止まらない冷や汗をローブの袖で拭った。
「まあ、いいや。ホラフキンスさん? こんなところまで連れてこられて驚いたでしょ。僕が呪われちゃったばかりに、どうもご迷惑をおかけしました」
一欠片の嫌味もないヴンダーの声に、ホラフキンスは思わずはっとして顔を上げた。
焦げ茶色のフードの下で、痩せた中年の丸い目がギョロギョロと細かく動いてヴンダーの表情を隅々まで観察しようとしている。ヴンダーは苦笑し、「すみません、挨拶もしないで。僕はヴンダー・トイです。さっきまで呪いで魔力を失ってたんですけど、この通り無事に治りましたんで、せっかく来てもらったのに申し訳ないですが解呪は必要なくなりました」と言った。
ヴンダーもまだ不安の最中にあったが、自分より動揺している人を見ると不思議と気持ちが落ち着いてくるもので、この時ばかりは眼の前の男が詐欺師だと理解していながらも、ここに居てくれることに感謝したのだった。
S級冒険者パーティー〈運任せ〉でヴンダー以上に動揺しやすい性格の者は存在しないのだ。であるからこそ、ここまで連れてこられたホラフキンスの苦労を思えば憐れまずにはいられない。
ヴンダーは、極めて穏やかに、温かみをもってホラフキンスを労った。
プルェ・プティカのメンバーは、そんな二人の様子を興味深げに見ていたが、ふと周りに不思議な気配を感じて素早く立ち上がった。
「なんだ……? まさか、もうメデューサのリポップか?」
ロルトが全員を庇うように大盾を構えて呟いた。ホラフキンスの過呼吸のような呼吸音以外の音はなく、部屋の中に異変はないように見える。
「いや、違いますよ。これって多分……」
ヴンダーが言葉を切ったところで、さっきヴンダーやプルェ・プティカのメンバーたちが現れたのと同じ空中から、馬より大きな銀色の魔狼が降ってきた。
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