西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

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 だが、一行が開けた扉をすぐに潜ることはなかった。すんでのところでふと疑念を覚えたレオハルトが足を止めたからだった。

「失念していましたが……プルェ・プティカの皆さんは、ここがいくつ目の部屋がご存知ですか?」

「二つ目のボス部屋だよなぁ?」

 エモリーが仲間を振り向いて言った。ハンナが「そうじゃないの? 隣の部屋に暖炉があるもの」と返し、ロルトが「間違いないだろう」と頷き、アレクシアが「エモリー、暖炉の前に片方忘れていましたよ」と、どこから出したのかエモリーの足元にブーツを投げ寄越した。
 エモリーは、自分の足を見下ろす。確かに片足が裸足のままだ。何故気付かなかったのか。そして何故誰も指摘してくれなかったのか。

「まあ、こんなこともある。ありがとうアレクシア」

 と、そそくさブーツを履くエモリー。グランツや兵士らは「戦闘の途中でなくした訳じゃなかったのか」と呆れながら笑った。

 どこか抜けたS級冒険者がブーツを履き終わるのを見届けたレオハルトが話を再開する。

「二つ目の部屋ということは、出口がすぐ近くなのでは?」

「あ!」

 ミハルが驚いた拍子に杖を落とした。黒い床を転がる杖を拾い上げたハンナが杖の顔を見つけ、マンドラゴラも足を生やして逃げ出しそうなほど強烈な悲鳴を上げた。その悲鳴に全員が驚き、臨戦態勢をとる。ハンナは杖を投げ、たまたまそれを捕まえたロルトもまた太い悲鳴を上げて杖を放り投げた。そして次に杖を受け取ったホラフキンスはトレントと目が合ってすぐさまに気を失ってしまった。ミハルは呆れたように肩を竦めてから、足元へ転がり戻ってきた杖を拾った。

 レオハルトは喧騒に見向きもせず、両拳を顔の前で構えているグランツへ話し始める。

 先ず、グランツたちがアーカス侯爵領手前の迷宮へ飛び込む前に既に起こっていた王都近郊の迷宮魔力暴走と、魔物凶暴化による王都方面襲撃について聞かせた。グランツは喫驚し、すぐにでも救援へ向かうべきだと言った。それは当然の判断だったが、懸念すべきはリュークの革袋に入った悪魔のことである。
 悪魔を迷宮から出しても問題がないのであれば、このまま外へ出て王都へ急行するべきだろう。さっきまで目指していた出口が今となってはもう目と鼻の先にあるのだ。

 ただ──とレオハルトは急に窶れた顔の目頭をぐっと押さえる。グランツが目を覚ましたからか、緊張の糸がふつりと切れそうになるのを堪えなければならなかった。

 そんなレオハルトを見下ろしていたグランツは、意外なことに悪魔の処理を優先するという。

 ソロウたちが怪訝そうに眉を寄せる中、正気を取り戻したプルェ・プティカの四人と怪しげな魔法使いホラフキンスは、大陸を揺るがすこの魔力暴走の大事件について全く知らないと言い放った。
 
 プルェ・プティカが元魔王城へ入ったのはつい今朝のことである。一昨日までは最東端の砦に居たというのだから、全く耳に入っていないというのは妙な話だ。

「うーん、そう言われても本当に知らないからなぁ」

 エモリーはうなじを搔いて唸った。ロルトも「道中は特に変わったことはなかったが」と首を捻る。

「何か連絡に支障が出たのかも知れませんね。しかしグランツ様、一刻も早く王都へ向かわなくて宜しいのですか」

 レオハルトが念を押して確認すると、グランツはもう一度考え直すとしてリュークを呼び、こう尋ねた。

「リュークよ、悪魔を外へ連れて行くとどうなる?」

「どうなる?」

「迷宮の魔力暴走が起こるのではないか?」

「迷宮の……?」

 リュークはぽかんと口を開けて首を傾げた。こりゃ駄目だ、とソロウは思った。
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