西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

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「もう、このまま王都へ向かったらどうなんです? そのバッグからは悪魔の気配なんか感じねえし、別に外へ出さなきゃ影響ないんじゃないですか?」

 怖い物知らずのエモリーが小指で耳をかっぽじりながら言った。ロルトやヴンダーはぎくりとしたが、エモリーの意見を否定する要素はなかった。レオハルトも顎に指を当てて考え込んでいる。兵士も、ソロウたちも床や壁や天井を見ながら黙考に励んでいる。リュークはリンの胸の軟らかい毛を撫でながら大人達の自主性を重んじている。

「レオハルトも同意見なのか?」

 グランツに問われたレオハルトは、そうですね、と前置きをした。

「非常に難しい判断です。リュークのバッグに入っている悪魔が迷宮主ダンジョンボスであれば、このままバッグに入れていると迷宮崩壊が始まって、ダンジョン内の魔物が暴走する可能性が高いと思っています。
 逆に、迷宮主でなければこのままでも影響はないのではと考えていますが、これも賭けです。ミハルの杖やマントも同様ですが、何せ未だかつて『主』とつく魔物をダンジョン外へ連れ出した例は無いようですので」

 それに、リュークのマジックバッグには鍵がかかっておらず、逆さにすると簡単に中身が出てしまう仕様なのだ。トレントやヴァンパイアであればともかく、悪魔を入れっぱなしにするのは余りにも危険であると説いたレオハルトは、ここで更に一つ提案する。

「迷宮主であろうがなかろうが、ここで解放して討伐してしまうという手があります。今ならプルェ・プティカの皆さんのお力添えがあれば勝算は決して低くないと見ますが、実際に悪魔と対峙されたグランツ様はどう思われますか?」

「ん? あ、ああ、まあ、私は……そうだな……ううむ」

 上下の歯がくっついたのではないかと思うほどの歯切れの悪い辺境伯グランツ。それもそのはず、グランツは悪魔を感知した直後に腕を切断され、その後はリュークの結界に守られて早々に気を失ったため、悪魔の強さを測ることも出来なかったのだ。

「しかし、そうとうに強いと思うがなあ……いや、だがリュークの結界で……?」

 もごもごと独りごちるグランツ。すると、ミハルのマントが息を吹き返したようにはためいた。

「やあ諸君、横槍を入れるようですまないが、君らは迷宮主を捕まえたのか?」

「あ!」と、ミハルが閃いてマントをめくり上げた。ミハルからは見えないが、周りからは逆さまの吸血鬼の顔が見える格好となった。威厳の損なわれる姿勢を強いられて、吸血鬼の表情は少々不満げである。
「あなた、もしかして迷宮主のことを知ってるの? そうよね、配下だものね! 知っていて当然──」

「否、否、知らぬ。我ら〈部屋の主〉は基本的に部屋を出られないのだ。なので、今のところお目にかかったことは一度もない」

「あら、そうなのね。せめて迷宮主かどうか分かればと思ったのだけど、仕方ないわね」

「迷宮主のことは存じ上げないが、この迷宮の崩壊は既に始まっている。つまり、迷宮主の身に何かが起こったと見るべきである。となれば、その小汚い袋に閉じ込めたのが迷宮主であると考えると辻褄が合うのではないかね?」

 目から鱗である。皆が一斉に部屋中を見回した。だが、部屋には何の変哲もなく、崩壊が始まっているようには見えない。
 そうして吸血鬼が腹いせに混乱させようとしているのでは、と疑われ始めた矢先、赤黒い魔力の渦が天井近くに現れた。

再出現リポップだと? そんな……さっき倒したばかりだぞ!」

 ロルトが剣呑な表情で大盾を構えた。二つの扉には既に結界が張られている。なるほど、少なくとも異常が起きているのは確からしいと大人たちは納得する。
 全員がロルトの背後へと回って戦闘態勢をとっている。フルルはリュークと手を繋いで、リュークが走り出さないよう見張っている。ホラフキンスとヴンダーは双子のように揃って一番後ろに身を潜めた。

 魔力の渦は、ともすると先程ヴンダーが目にしたものより大きく、魔力も濃いようだった。

「これ、本当にメデューサなの……?」

 ハンナが低い声で呟いた。不気味な渦は濃く、にわかに厚みを増しつつある。

 
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