名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

冬月光輝

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第21話 船酔いと泥棒と鎌鼬

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 船に泊まるという経験は初めての体験だったが、思ったより快適だった。

「もっと揺れたりするのかと思いました。船酔いが怖かったからホッとしましたよ」
 あたしは夕食を食べながら立花達に話した。

「そうなんだ‥それは良かったねぇ‥うぷっ」
 立花の顔色が良くない。

「あれっ立花さん、気分が悪いのですか?」
 あたしは立花を心配した。

「先生、また船酔いされたのですか?薬なら私持ってますわ」
 ニーナも心配して薬を取り出そうとした。

「私は断じて船酔いなど‥してはいないよ‥旅慣れているからねぇ」
 そう言いながら、立花は夕食にほとんど手をつけてない。

「立花さん、本当に大丈夫なんですか?」
 あたしは、もう一度聞いてみる。

「いやあ……大丈……夫……あっ」
 立花は今までに見たことないくらいの速さで走ってデッキの端まで行ってしまった。

「先生ったら、詰まらない意地を張るからですわ」
 ニーナはそう言いつつ、席を立って薬を持ってデッキまで歩いて行った。

――10分後。

 ニーナに背中を擦られながら、立花は戻ってきた。

「失敬、失敬、見苦しいところを見せてしまったね」
 立花は元気そうだ。

「薬が効いて良かったですね」
 あたしもホッとして話した。

「薬? 涼子くん、私はそんなもの飲んでないよ。ははっ。名探偵が船酔いなんかするわけ無いだろ」
 立花は往生際が悪かった。

「先生はもっと素直になるべきですわ。涼子様を見習ってくださいまし」
 ニーナはため息をつきながら言った。

 船旅はいたって順調で2日はすぐに過ぎていった。
時々、立花はニーナからこっそり薬を貰っていたがあたしは見ないフリをしていた。

 そして、早朝にラボン地方の海沿いの国、【サンポルト共和国】に着いた。

「地面っていうものはいいねぇ、ありがたいなあ」
 立花はしみじみと独り言を呟く。

「先生は、船から降りると毎回そうおっしゃいますわね」
 ニーナも立花に続いて船を降りる。

「あれっ、ニーナさん帽子にメガネなんて珍しいですね。イメチェンですか?」
 あたしは、ニーナの顔を見て質問した。

「いいえ、こっこれは‥、日差し避けですわ。日傘だけではちょっと」
 ニーナはそう言いながら目線を反らした。

「そうですか。メガネも似合ってますよ」
 あたしは、そう言いながら久しぶりの地面を踏んだ。

「さあて、ここから隣国のグレス王国までは歩いて行く事となる。その前に入国手続きと出国手続きを両方やらなくてはならないから、今日はこの街に一泊するよ」
 立花はこれからの予定を説明した。

 それから1時間くらい立花が手続きを終えるまで待っていたのだが、ニーナの様子は少し変だった。
辺りをキョロキョロ見渡したかと思えば、小さな物音に過剰に反応していた。

「ニーナさん、先程から落ち着きがなさそうですが、大丈夫ですか?」
 あたしは、気になって仕方がなくて聞いてみる。

「えっと、涼子様?だっ大丈夫ですから、お気になさらずにいてくださいまし」
 ニーナの顔は全然大丈夫そうでは無かった。

「いやあ、まいったよ。この国はやたらと書類の分量が多いねぇ」
 立花が戻ってきた。

「今日はもう宿に入ろうか、明日早めに出たいしね」
 立花はチラッとニーナを見て言った。

「そうですわね。行きましょう皆さん」
 ニーナは立ち上がり、早足で歩いた。


「今日のニーナさん、いつもと違う感じがしませんか?」
 少し歩いたところで、あたしはこっそり立花に聞いてみた。

「そうかい?私は特に気にならないが‥」
 立花は一言だけ答えて何も言わなかった。

(絶対に何か知ってる)
 あたしは、我慢出来なくなってもう一度立花に話をしようとした時‥

「キャー、泥棒よ。誰かー」
 叫び声のした方向を向くと覆面の男が2人が、店の品物を持って猛スピードで逃げている。

「やれやれ、ニーナくん。悪いんだけど、流石に見逃せないしねぇ」
 立花がニーナの肩を叩いた。

「承知いたしましたわ」
 ニーナの体は金色に光り輝き、加速する。

「セイファー流……、追跡する鎌鼬(トレイサーソード)」
 ニーナから突風が放たれ、それが覆面の男の1人にぶつかり、男は倒れる。

「もうひとりも‥」
 ニーナがもう一度構えた。

その時、別方向から声が聞こえた。

「トレイサーソード!!」
 ニーナの真向かいから、突風が吹きもうひとりの男も倒れる。風でニーナの帽子とメガネも吹き飛ぶ。

「全く、こんなに朝早くから、僕の管轄で泥棒など命知らずがまだ居るのか、どうせ他所者だろ」
 泥棒を一蹴した男はため息をついた。
 金髪で中性的な顔立ち、耳が少し尖っていたが、容姿端麗と言っていいだろう。背は高く、肌は雪の様に白い。

「あれっこの人どこかで……」
あたしはこの顔に面影を感じた。

「お兄様……」
ニーナは震える声で呟いた。
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