名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

冬月光輝

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第22話 兄と老人と忍術

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「お兄さん? あの人が、ニーナの?」
 あたしは、ニーナと顔を見比べた。

(確かに似てるかも)
 どこかで会ったような気がしたのも当然だった。

「なんだニーナじゃないか。一族の恥さらしが何しに来たんだ」
 ニーナの兄らしい男は厳しい顔をしていた。

「そっそれは‥」
 ニーナは怯えたような目をしていた。

「そういえば、あのペテン師とは縁を切ったのか?それなら、父上に謝りに行けば許して貰えるかもしれないぞ」
 吐き捨てるように、ニーナの兄らしい男は言った。

「やれやれ、ペテン師とはずいぶんな言いようだねぇ。やあ、ご無沙汰だね。レオンくん」
 立花はニーナの隣まで歩いて行った。

「黙れ、ペテン師にペテン師と言って何が悪い?それに、貴様にファーストネームを呼ばれる筋合いはない。ニーナをたぶらかしてどうする気だ?」
 レオンと呼ばれた男は激昂した。

「ふぅ、これは失礼したねぇ。サンポルト騎士団、第二師団長レオン=ド=セイファー氏。これで良かったかな?」
 立花は珍しく挑発的だ。

「ニーナを解放しろ、貴様のような奴が色々吹き込んだせいで、我々セイファー家の秩序が乱れたのだ」
 レオンはそう言い放つと剣を構えた。

「お兄様、止めてくださいまし」
 ニーナは立花を庇うように前に出る。

「そこを退くのだ、ニーナ。こんなことになるのならあの時、無理やりでも、お前を連れて帰れば良かった。すぐに謝罪に来るかと思えば、このような男と馴れ合うとは、言語道断」
 レオンはすぐにでも斬りかかりそうだ。

「いいえ、退きません。お兄様こそ、先生に手を出そうとすれば許しませんわ」
 ニーナも日傘を構えた。

「許さない?ふっ面白い冗談はその男に教わったのか?お前に剣術を教えたのは誰だったか忘れてはいまい」
 レオンは、ニーナと同じように身体が金色に光っている。

「少し躾が必要だな……」
 レオンが飛び出そうとした。

「止めんか大馬鹿者ー!」
 大声がレオンの動きを止める。

「セイファー師団長、止めろと言っておる……」
 いつの間にか、老人がレオンの腕を掴んでいる。

「騎士団長殿! どうしてここに?」
 レオンは驚いて老人を見た。

「その前に、レオンくん。サンポルト騎士団規則32条を言ってみたまえ」
 老人は静かに言った。

「騎士団員は市街での私闘を禁ずる‥」
 レオンは小さな声で呟いた。

「よろしい。今現在、シンポート王国の刑務所から逃亡した凶悪犯罪者がサンポルトに潜入したとの情報が入った。直ちに捜査して身柄を拘束せよ。危険人物ゆえ、生死は問わない」
 騎士団長と呼ばれた老人は毅然と支持を出す。

「承知しました。失礼します」
 レオンは敬礼すると、部下を引き連れてどこかへ行ってしまった。

「ウチの部下が失礼しました」
 老人は頭を下げる。

「気にしていませんよ。彼も本気じゃないでしょう」
 立花は答える。

「お主がレオンの妹か、なるほどよく似ておる。そして穏やかな心を持っておるな」
 老人はニーナの目を見て言った。

「君の兄は騎士として生きることが、一族の幸せだと常に主張しとったが、いつか和解出来ると良いの」
 老人はそう言い残すと、煙のように消え去った。

「あれは、忍術に近いねぇ」
 立花は興味深いそうに言った。

「忍者がこの世界にいるのですか?」
 あたしは、少し驚いた。

「日本の忍者とは、少し違うけど一応忍者と呼ばれる人達はいるんだ。あの老人はサンポルトの騎士団長みたいだし、かなりの使い手だね」
 立花はあたしに説明した。

「ニーナさんのお兄さん怖そうな人だった」
 あたしは、優しいニーナとのギャップに驚いていた。

「私はこのまま、先生のお側に居てもよろしいのでしょうか?」
 ニーナは寂しそうな顔をした。

「何言ってるの、私の助手には資格はいらないよ。前にも言ったはずだよ」
 立花はそう答えると、ニーナ肩を叩いた。

「まっ、嫌な言葉は気にしないに限るよ。なるべく早くこの国を出ようじゃないか」
 立花は元気付けようと、いつもより優しく話していた。

「先生、ありがとうですわ」
 ニーナは少し微笑んだ。

 あたし達は、すぐにこの国を出るつもりだった。

 しかし、強大な悪意があたし達の行方を阻もうとしていることを、まだ知る由もなかった。
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