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第59話 レッスン1と扉と苦戦

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「魔王ってあのーよく分からないんですけど‥」
 あたしは立花の話についていけなかった。

「おっと、失礼。涼子くんには今、【魔王の力】が封印されている。これは少しは認識できるかい?」
 立花があたしに尋ねる。

「ええと、さっきのアレってもしかして夢じゃないんですか?とても暗くて恐ろしい所に意識が飛んでいってしまって‥色んなものを壊してしまいたいと思いました」
 あたしは、先程の体験を立花に話した。

「それは、君が【力】に飲み込まれてしまったんだ。涼子くんが生きるためには、さっきの【力】を従わせる必要がある」
 立花はあたしに無理難題を言った。

「従わせるって、ええっ?そんなの無理に決まってるじゃないですか」
 あたしは真っ向から否定した。

「そんなことは無いよ。そもそも素質があるから君の体が【力】に選ばれたはずなんだ。さっき【力】が暴走したのはコントロールできなかったからさ。自転車や水泳と一緒でやり方を覚えれば自然に出来ることなんだ」
 立花はあたしに説明する。

「そういうものですか‥。でも死なない為に何とか頑張ってみます」
 あたしは一度チャレンジしてみることにした。

「涼子くんならそう言ってくれると信じていたよ。それじゃあ始めようかねぇ。レッスン1、【力】のオンとオフ認識しよう」
 立花はそう言うと、あたしの頭に手をおいた。

「これから、ゆっくりと涼子くんの【魔王の力】を解放する。目を閉じて体のどの辺りに【力】の源があるのか意識を集中してくれ」
 立花はあたしに語りかけながら、ブツブツ何かを唱え出した。

 段々とあたしの心臓の辺りがとても熱くなるのを感じた。

「立花さん、心臓の辺りが熱くなってきました」
 あたしは立花に報告する。

「いい感じだね。熱くなっている場所が【力】の発信源だ。それじゃあ、その場所に扉が開いていてそこから熱いものが流れ出ているイメージをしてみてくれ」
 立花の要求が少し難しくなる。

「扉が開いている。うーんこんな感じかなあ」
 あたしは一応扉が心臓の辺りにあって、そこから熱いものが流れているような感じを頭に浮かべる。

「それじゃあ、次は扉を閉じて熱いものをせき止めるんだ」
 立花は更に、あたしに指示を出す。

「扉を閉じてせき止める‥。うーん、閉めたら出てこなくなる。よいしょっと‥あれっすごい!本当に熱いものが無くなりました。不思議ですね」
 あたしはびっくりした。

「本当かい?驚いたな。涼子くんって想像力が凄いんだねぇ。普通は一度でうまく行かないんだけど」
 立花はもっとびっくりしていた。

「これで、君は【力】の扉の開け締めが自由に出来るはずだ。次のレッスンに行く前に何度か練習しよう」
 立花はゆっくりとあたしに説明した。

――ヒースの家の外――

「はぁはぁ、驚いたなお前の兄貴あの怪力無双のダルトンを倒しやがった」
 ヒースはレオンの勝利に驚いたようだった。

「流石お兄様ですわ。でも体の輝きがなくなってますから、すぐには動けそうにありませんわ」
 ニーナはレオンの体調を分析する。

「ホントーだ。キャハハ、ダルトンちゃん、やられちゃったんだー」
 ピエロのようなメイクをした女が笑っている。

「止めーや、ダルトン兄さんかて頑張って戦ったんやから。ホンマにフィーネ姐さんはデリカシーないなあ」
 杖を持った赤髪の男がフィーネと呼ばれた女がを咎める。

「アレックスちゃん、怒っちゃ嫌だー。冗談だってば。あたいは負けないぞー。クスクス」
 フィーネはケラケラ笑いながら、ナイフを構える。

「親衛隊のフィーネとアレックス。二人共かなりの手練だ。流石に二人相手は俺でも荷が重い。一人任せられるか?」
 ヒースはニーナに尋ねる。

「何とか頑張りますわ」
 ニーナは剣を構える。

「ヒース兄さん、ご無沙汰ですね。今のあれ聞き捨てなりませんわー」
 アレックスは杖でヒースを攻撃する。

「ん? 何か言ったか」
 ヒースは剣で杖を受け止める。

「嫌やなあ、あれです。二人相手は荷が重いって、一人相手なら勝てるってことですやん」
 そう言いながらアレックスの杖は真っ赤に光った。

「なっ勇者の鎧が……」
 ヒースの鎧の肩の部分に穴が空いてしまった。 

「あれっ、案外脆んですねーその鎧。忠誠心、足りないんとちゃいます?」
 アレックスは杖にまた力を込めている。

「キャハ。ほらほら、逃げないと殺しちゃうぞー。あたいのナイフは凄いでしょー。クスクス」
 フィーネのナイフは、瞬間移動のように一度消えて、予想外のところから飛び出してくるので避けることが難しかった。

「はぁはぁ、この方ふざけているのに強いですわ」
 ニーナは苦戦を強いられている。

――ヒースの家の中――


「よしっ、完璧に【力】のオンオフをマスターしたねぇ。人の才能ってわからないなあ」
 立花は上機嫌で、あたしは嬉しかった。

「それじゃあ、レッスン2を始めよう」
 あたしの中で何かが変わり始めていた。
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