【完結】浮気を咎めたら「お前の愛が重すぎる」と一方的に婚約破棄を告げられた殿下から「記憶喪失になったから助けてほしい」という手紙が届きました

冬月光輝

文字の大きさ
3 / 7

第三話

しおりを挟む
『リノア、まずはトラウマを与えるほど酷く傷付けたことをもう一度詫びさせて欲しい。覚えていないとはいえ、あまりの内容だったので謝罪せずにはいられなかった。会いたくないと僕を拒絶する気持ちはよく分かった。酷いことをしたと漠然とした話を少しだけ両親から聞かされただけで、具体的な話は聞いていなかったので……無神経な質問をしたと後悔している』

『僕の中にそのような傲慢で倫理観の欠けた部分があると考えると恐ろしい。そして、それ以上に君の心を自らの手で砕いたという事実は耐え難い。僕から手紙のやり取りを提案したにも関わらず、返事が遅れてしまってすまない。心の整理を付けたかったのだ』

『僕には君を愛する資格がないことがよく分かった。それだけに過去の自分が恨めしく、一度君の心を掴んでいたことに関しては羨ましい。君に関する記憶は無くなってしまったが、手紙からは君の優しさが伝わる。本来なら僕のような人間と手紙でもやり取りするのは苦痛なはずなのに……。もちろん、僕が王族だから気を使ってくれていることは分かっているが――』

 ロレンス殿下からの手紙は九割が謝罪文でした。
 思えば、彼と婚約していたとき……そして婚約を解消するときも、さらには復縁を求める手紙でさえも、ロレンス殿下は一度も謝罪などしたことはありません。

 王族が臣下に頭を下げるという行為は恥ずべきものだと信じていたからです。

 もちろん、それは自然なことですし……私もそれだからといって謝罪を求めようとは思っていませんが、これだけ長い謝罪文を読むとある疑問が頭に浮かびました。

 ――この手紙は本当にロレンス殿下が書いているのでしょうか?

 私はそれなりに殿下の人となりを知っています。
 彼は非常にプライドが高く……間違っても女に頭を下げたりはしない方でした。
 
 思えば、記憶を失ったという手紙から彼は私に何度も謝っています。
 
 人は記憶喪失になるとここまで人が変わるものなのか? 記憶を失ったことがある方を他に見たことがありませんのでよく分かりません。

 殿下からの手紙を読み進めると、最後にこんなことが書かれていました。

『君が嫌になればいつでも止めてもらっても構わない。本当に他愛のない日常の話だけで良い……君の普段の生活のことを記して手紙で送ってほしい。僕もそれに返事をするから』

 ――殿下は私の普段の生活を知りたいと日記のようなものを書いて送ってほしいと望みます。

 何だか、記憶喪失を治すという主旨から離れているような気がしますが……それくらいで良いならと私は本当にどうでもいい日常生活のことを数日分記して殿下に手紙を出しました。

 どうも、妙なことになってしまい……感情の持って行き方が分からないです。
 
 殿下からの返事は今度はすぐに来ました。

『君の日常生活を知ることが出来て嬉しいよ。僕も君と同じく猫は好きだ。それに――』

 殿下が猫が好き……そもそも動物は好きではなかったはずです。
 それも、「犬なら使いどころがあるが、猫は利用しようにも使い道がないから好きではない」というような会話をした記憶もありますから猫はお嫌いだったはずなのです。

 殿下がお嫌いなら猫を飼うのは諦めようと思いましたのでそれは間違いありません。

 そのあと、婚約破棄をした悲しさを紛らわすために子猫を飼い始めたのですが……。
 
『――以前、君と訪れたという王立美術館に行ってみた。“海辺の木石”という絵画は僕の心を打ったなぁ。君はどの作品がお気に入りだったのか嫌で無ければ教えて欲しい。それだけで、君と美術館に行った思い出だと感じることが出来るから』

 殿下はお一人で私と以前ご一緒した場所へと足をお運びになられたみたいです。
 美術館では殿下は力強い騎士の彫刻が好みだと仰っていたと覚えていますが……。

 私はその時も話したように、百年前の宮廷画家――エルメルト画伯による作品……“神々の宴”に感銘を受けた話を記しました。
 殿下もこの絵画は嫌いでは無かったらしく、そのときは随分と話が弾みました――。記憶を呼び戻すきっかけになるかもしれません。


 それからというもの、日常生活についてと、殿下の質問に答えた手紙を送り……その返事を受け取るという生活が続きます。
 殿下の手紙は時折ユーモアを挟みつつ、私への気遣いを忘れない紳士らしさを感じさせてくれました。

 とはいえ、私に合わせている訳でもなく……“神々の宴”については「技巧に走り過ぎていて自分はそこまで好きではなかった」とご自分の意見もはっきり記しています。

 ここまで来ると本当に分かりません。

 今、手紙をやり取りしているのは誰なのですか? ロレンス殿下の筆跡だけ真似ている別人としか思えません。
 
 気付けば少しだけ殿下の手紙が来ること楽しみにしている自分がいました。
 彼はあれ程深く私を傷付けたのに――。

 私は感情の変化に戸惑いを感じています。

 ――別人なら良いのに……。

 願ってはならないことを願ってしまうほどに。


しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

離婚します!~王妃の地位を捨てて、苦しむ人達を助けてたら……?!~

琴葉悠
恋愛
エイリーンは聖女にしてローグ王国王妃。 だったが、夫であるボーフォートが自分がいない間に女性といちゃついている事実に耐えきれず、また異世界からきた若い女ともいちゃついていると言うことを聞き、離婚を宣言、紙を書いて一人荒廃しているという国「真祖の国」へと向かう。 実際荒廃している「真祖の国」を目の当たりにして決意をする。

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

【完結】わたくしと婚約破棄して妹と新たに婚約する? いいですけど、ほんとうにその子でいいんですか?

井上 佳
恋愛
ある日突然、婚約破棄を言い渡されるイエリ。 その場には、何故か従姉妹が一緒になって並んでいた。 「お前との婚約は破棄してシュナと婚約する!」 「私が新しい婚約者ですわっ」 ほんとうに、それでいいんですか? ※よくある設定ですが完全オリジナルです。 ※カムバック短編です。 ※他サイトでは+苗字で掲載中

婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……? ~幸せになれるなんて思わないことです~

四季
恋愛
婚約者である王子の近くには何やら不自然なほどに親しい元侍女の女性がいるのですが……?

処理中です...