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Ep7 闇に葬られた歴史
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「アレクトロン皇家を陥落させる――ですか? 随分と突飛なことを仰るのですね。その上、“魔法”だなんて……、貴方は一体何なのですか? 話が全く掴めません」
突然、セリスが眠りに落ちて、“魔法”とか皇家を陥落させるとか荒唐無稽な話をされて、私の頭は情報の処理が追いつきませんでした。
「おやおや、分かりませんか? アルティメシア家の令嬢といえば文武両道、才色兼備のミスパーフェクトとまで呼ばれた才女だと聞いてましたが――。存外、噂なんてアテにならないものなんですねぇ」
アレンデールは大袈裟に手を広げてポーズを取り、人を挑発するような口調で面白そうに私の反応を伺ってました。
「ふーむ、理解が遅いと困るので――っ痛っ」
「これ以上、グレイス様を侮辱すると殴るよ?」
リルアの肘打ちがアレンデールの鳩尾にめり込みました。
「ごほっごほっ、もっもう殴ってるじゃあないですか。リルアちゃんは、婚約破棄どころか婚約すらしてもらえそうにないから、僕としては不安です――。ちょっ、ちょっとタンマっ! わっわかってます。きっきちんと説明しましょう……。だから、殴るのは勘弁してください、リルアちゃん」
アレンデールは両手を挙げて降参のポーズをとってから、私の方を向いて咳払いしました。
「コホンッ。世間じゃあセイファー家は貴族とは名ばかりの歴史一家なんて呼ばれていますが、僕らはそうすることで代々守ってきたのです。アレクトロン皇国の裏の歴史――、闇に葬られた真実を――。あーっ、ここからホントに長い話になりますよ。お手洗いとか大丈夫ですか?」
アレンデールは真顔になって数秒後には戯けた表情になっていました。
いや、貴方は私に時間かけたくないとか仰っていたじゃないですか。勿体ぶらずに早く話して欲しいのですが……。
「オッケーです。続けましょう。知らないと思いますが、300年ほど前、この国はアレクトロン【王国】と呼ばれていました。そして、なんとびっくり僕たちの先祖は王国の初代国王だったのです。すごいでしょ? ――初代国王であるフェルナンデス=ド=セイファーは【悪魔】と人間のハーフでしてね、恐ろしい“魔法”の力で、たちまち小さな領土を拡大させてアレクトロン王国を作ったのです。アレクトロンとは、悪魔の言語で“縄張り”という意味です」
まるでおとぎ話のようなアレンデールの話は俄に信じ難いものでした。
なぜなら、私たちが学校で習った歴史と全く異なる内容だからです。
アレクトロン王国なんて存在は初耳ですし、セイファー家や悪魔に関しても歴史に関わっていたなんて記述は見たことありません。
アレクトロンの言葉の意味だって、単純に皇王のファミリーネームとしか思っていませんでした。
ですから、私はアレンデールという男がまたからかっているのかもしれないと思いました。
「ふふっ、おとぎ話みたいとか思われたのではないですか? あとは学校では習わなかった、私が貴女をからかっているとか――ですかね?」
アレンデールは私の心を見透かしたように言葉を発するのでドキリとしました。くっ、私はこの方の心の内を読めていないというのに――。
それにしても、この方の話で1番信じ難いのは悪魔の血の影響で“魔法”が使えるという部分です。
セリスを眠らせたのは本当に“魔法”なのでしょうか?
この点が1番、おとぎ話じみています。
「悪魔の血と言っても何世代も前の話ですから、我が家で色濃く継いで“魔法”が使えるのは僕だけですよ。まぁ、今見せられるのは簡単な魔法だけですけどね。ほらっ」
またしても、私の心の中を読んだようにアレンデールは言葉を発しました。
そして――。
「なっ、どっどうなっているのですか――。手品? いいえ、違います――。まさか、本当に――」
私の目の前でアレンデールのシルクハットが宙に浮いていました。
「――そんな、信じられないです。でも……、えっ? 何するんですか?」
シルクハットが不規則な動きで私の頭まで移動してかぶさりました。
きれいにアレンデールのシルクハットをかぶった私は驚きすぎて心臓が痛くなってきました。
「あとは、こんな感じで指から炎を出したり――」
アレンデールは人差し指を立てるとロウソクのようにメラメラと炎が燃え上がりました。
これは、夢なのでしょうか? 彼が魔法を使えることは理解できましたが、正直言って怖いです。
「アレンっ、あまりグレイス様を驚かせるな。もう信じてくださっているだろう」
リルアはアレンデールを咎めました。
おそらく、私が声を失って目が点になっていることを察してくれたのでしょう。
「そうですか。それは、残念です。今から馬車を少しだけ浮かそうと思っていたのですが――」
「本当にやめろ……。大騒ぎになるぞ……」
アレンデールはつまらなそうな顔をして手を握って炎を消し、リルアは呆れ顔で兄を見ていました。
「兄が調子に乗ってごめんなさい、グレイス様。でも、アレクトロン王国は短い期間ではありますが存在していたのです。初代国王の魔法の力はもの凄かったのですが、子供たちの代になるとかなり弱くなりました――。その時期を狙って今の皇王の一族が動き出したのです」
リルアは少しだけ語気が荒くなった気がします。この方が話すとアレンデールよりも説得力が増すのは気のせいでしょうか。
「皇王の先祖であるヨハン=ザルツブルクは国王の臣下の一人でしたが【悪魔】の血の支配からの解放を大声で主張しました。そして、それに合わせて大多数の臣下が謀反を起こしてセイファー家と争います。結局、セイファー家は権力争いに負け没落してしまいました。かろうじて小さな領地は残されましたが、アレクトロン王国の歴史は徐々に無かったことにされ、ザルツブルクはアレクトロンに名前を変えて皇国の創立者、つまり皇王としての権力を握ることになったのでした」
アレンデールとリルアによる歴史の話は終わりました。
今の話が本当ならセイファー家はアレクトロン皇家を恨むのは当然でしょう。
私も確かに皇太子に対しての怒りと皇王に対する不信感により、皇王家に対し反目する感情はあります。
しかし――。
「我々の仲間になるメリットを感じられないのでしょう。しかし、急がれたほうがよろしいですよ――。貴女の置かれた状況は少しずつ悪くなるのですから――」
アレンデールは右目だけを見開き、私を見つめました。
アメジストのような瞳の輝きが妖しく光っていました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
※補足
国王はキング、皇王はエンペラー的なニュアンス。
ヨハン=ザルツブルクはアレクトロン王国を完全に無かったことにしたかったので、さらに上の王である皇王を名乗った。
兄妹が長々と説明しましたが、セイファー家の作った国を皇王の一族が乗っ取ったからアレンデールとリルアは皇王一族を恨んでいることだけ理解して頂ければ大丈夫です。
突然、セリスが眠りに落ちて、“魔法”とか皇家を陥落させるとか荒唐無稽な話をされて、私の頭は情報の処理が追いつきませんでした。
「おやおや、分かりませんか? アルティメシア家の令嬢といえば文武両道、才色兼備のミスパーフェクトとまで呼ばれた才女だと聞いてましたが――。存外、噂なんてアテにならないものなんですねぇ」
アレンデールは大袈裟に手を広げてポーズを取り、人を挑発するような口調で面白そうに私の反応を伺ってました。
「ふーむ、理解が遅いと困るので――っ痛っ」
「これ以上、グレイス様を侮辱すると殴るよ?」
リルアの肘打ちがアレンデールの鳩尾にめり込みました。
「ごほっごほっ、もっもう殴ってるじゃあないですか。リルアちゃんは、婚約破棄どころか婚約すらしてもらえそうにないから、僕としては不安です――。ちょっ、ちょっとタンマっ! わっわかってます。きっきちんと説明しましょう……。だから、殴るのは勘弁してください、リルアちゃん」
アレンデールは両手を挙げて降参のポーズをとってから、私の方を向いて咳払いしました。
「コホンッ。世間じゃあセイファー家は貴族とは名ばかりの歴史一家なんて呼ばれていますが、僕らはそうすることで代々守ってきたのです。アレクトロン皇国の裏の歴史――、闇に葬られた真実を――。あーっ、ここからホントに長い話になりますよ。お手洗いとか大丈夫ですか?」
アレンデールは真顔になって数秒後には戯けた表情になっていました。
いや、貴方は私に時間かけたくないとか仰っていたじゃないですか。勿体ぶらずに早く話して欲しいのですが……。
「オッケーです。続けましょう。知らないと思いますが、300年ほど前、この国はアレクトロン【王国】と呼ばれていました。そして、なんとびっくり僕たちの先祖は王国の初代国王だったのです。すごいでしょ? ――初代国王であるフェルナンデス=ド=セイファーは【悪魔】と人間のハーフでしてね、恐ろしい“魔法”の力で、たちまち小さな領土を拡大させてアレクトロン王国を作ったのです。アレクトロンとは、悪魔の言語で“縄張り”という意味です」
まるでおとぎ話のようなアレンデールの話は俄に信じ難いものでした。
なぜなら、私たちが学校で習った歴史と全く異なる内容だからです。
アレクトロン王国なんて存在は初耳ですし、セイファー家や悪魔に関しても歴史に関わっていたなんて記述は見たことありません。
アレクトロンの言葉の意味だって、単純に皇王のファミリーネームとしか思っていませんでした。
ですから、私はアレンデールという男がまたからかっているのかもしれないと思いました。
「ふふっ、おとぎ話みたいとか思われたのではないですか? あとは学校では習わなかった、私が貴女をからかっているとか――ですかね?」
アレンデールは私の心を見透かしたように言葉を発するのでドキリとしました。くっ、私はこの方の心の内を読めていないというのに――。
それにしても、この方の話で1番信じ難いのは悪魔の血の影響で“魔法”が使えるという部分です。
セリスを眠らせたのは本当に“魔法”なのでしょうか?
この点が1番、おとぎ話じみています。
「悪魔の血と言っても何世代も前の話ですから、我が家で色濃く継いで“魔法”が使えるのは僕だけですよ。まぁ、今見せられるのは簡単な魔法だけですけどね。ほらっ」
またしても、私の心の中を読んだようにアレンデールは言葉を発しました。
そして――。
「なっ、どっどうなっているのですか――。手品? いいえ、違います――。まさか、本当に――」
私の目の前でアレンデールのシルクハットが宙に浮いていました。
「――そんな、信じられないです。でも……、えっ? 何するんですか?」
シルクハットが不規則な動きで私の頭まで移動してかぶさりました。
きれいにアレンデールのシルクハットをかぶった私は驚きすぎて心臓が痛くなってきました。
「あとは、こんな感じで指から炎を出したり――」
アレンデールは人差し指を立てるとロウソクのようにメラメラと炎が燃え上がりました。
これは、夢なのでしょうか? 彼が魔法を使えることは理解できましたが、正直言って怖いです。
「アレンっ、あまりグレイス様を驚かせるな。もう信じてくださっているだろう」
リルアはアレンデールを咎めました。
おそらく、私が声を失って目が点になっていることを察してくれたのでしょう。
「そうですか。それは、残念です。今から馬車を少しだけ浮かそうと思っていたのですが――」
「本当にやめろ……。大騒ぎになるぞ……」
アレンデールはつまらなそうな顔をして手を握って炎を消し、リルアは呆れ顔で兄を見ていました。
「兄が調子に乗ってごめんなさい、グレイス様。でも、アレクトロン王国は短い期間ではありますが存在していたのです。初代国王の魔法の力はもの凄かったのですが、子供たちの代になるとかなり弱くなりました――。その時期を狙って今の皇王の一族が動き出したのです」
リルアは少しだけ語気が荒くなった気がします。この方が話すとアレンデールよりも説得力が増すのは気のせいでしょうか。
「皇王の先祖であるヨハン=ザルツブルクは国王の臣下の一人でしたが【悪魔】の血の支配からの解放を大声で主張しました。そして、それに合わせて大多数の臣下が謀反を起こしてセイファー家と争います。結局、セイファー家は権力争いに負け没落してしまいました。かろうじて小さな領地は残されましたが、アレクトロン王国の歴史は徐々に無かったことにされ、ザルツブルクはアレクトロンに名前を変えて皇国の創立者、つまり皇王としての権力を握ることになったのでした」
アレンデールとリルアによる歴史の話は終わりました。
今の話が本当ならセイファー家はアレクトロン皇家を恨むのは当然でしょう。
私も確かに皇太子に対しての怒りと皇王に対する不信感により、皇王家に対し反目する感情はあります。
しかし――。
「我々の仲間になるメリットを感じられないのでしょう。しかし、急がれたほうがよろしいですよ――。貴女の置かれた状況は少しずつ悪くなるのですから――」
アレンデールは右目だけを見開き、私を見つめました。
アメジストのような瞳の輝きが妖しく光っていました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
※補足
国王はキング、皇王はエンペラー的なニュアンス。
ヨハン=ザルツブルクはアレクトロン王国を完全に無かったことにしたかったので、さらに上の王である皇王を名乗った。
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