【完結】悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?

冬月光輝

文字の大きさ
16 / 24

Ep16 歪み

しおりを挟む
「はっはっは、ローレンスさんがまさかジョークを披露するなんて思ってもみませんでしたよ」

 アレンデールはわざとらしくリアクションをとりながら、ローレンスの肩を叩きました。
 そっそうですよね。流石に冗談ですよ。こんな、数分で惚れた腫れたなんて――。
 目が本気に見えたのも演技ですよね。お人が悪いです。

「君と一緒にしないでくれ。私は冗談は言わない――。クラリスさん、君に惚れてしまったんだ――。僕と一緒に来てくれ――」

 アレンデールの手を払い、ローレンスは再び求婚のような告白をしました。
 
 どうやら、本気みたいですね。
 まだ、さすがにクラリスがダルバートに行くようなことになるのは避けねば色々と問題が起こります。
 
 仕方ありません。あまり干渉するつもりはなかったのですが――。

「ローレンス殿下、クラリスの問題はアルティメシア家の問題となります。殿下は見たところ今日はお忍びで足を運ばれたご様子。もし、殿下が本気なのでしたら、然るべき形式に則って改められたほうがよろしいかと存じます。この子も混乱して言葉を失っております。何卒、その点をご配慮頂きたいです」

 私はクラリスを庇うようにローレンスに意見しました。
 もちろん、あの皇太子から目を逸らさせ、裏切らせようとする目的はありましたが、まだ準備も出来ていない内に話が飛躍するのは面倒です。

「――はぁ。確かに、グレイスさんの言うことはもっともですね。私としたことが感情的に思慮浅い行動をして申し訳ありません。非礼を詫ましょう」

 ローレンスはため息をつき、そして頭を下げました。
 ふぅ、ギリギリのところで理性が勝ってくれましたか。クラリスに迷いがあったのにも助けられましたね。
 おそらく彼女が積極的になっていれば、私の説得など無効にされてしまうでしょうから。

 ローレンスはアレンデールと歴史書の交換や議論をするためにやって来たらしいのですが、求婚の準備をすると言って側近の護衛を引き連れて急いで帰ってしまいました。

 これは、時間があまり無さそうですね。急いでこちらの問題を片付けなくては――。
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 アレンデールと別れ、クラリスを馬車に乗せて連れて帰りました。

 今回のクラリスをアルティメシア家の養子にする件はもちろん両親の許可も取っています。
 皇太子の所業は理不尽だと憤っていましたが、なんとか宥めてクラリスを受け入れる形は作りました。

 まぁ、それでも完全に納得はしていないのですが、その点はクラリスの天性の愛され力で何とかしてもらいましょう。

 馬車を降りて門から玄関に向かおうとしたところ、アシュクロフトに声をかけられました。

「初めまして、クラリスお嬢様。私はアルティメシア家の執事、アシュクロフトと申します。何かお困りごとがございましたら何なりと申し付けください」

 彼はクラリスに頭を下げて、丁寧に挨拶しました。

「あっ、はい、どっどうもありがとうございます。ご丁寧にすみません。あたしなんかに……」

「いえいえ、クラリスお嬢様も今日から立派な令嬢です。ですから、間違っても“あたしなんか”なんて仰ってはなりませんよ。如何なるときも“凛として毅然と――”の精神を身につけてください」

 アシュクロフトは優しく微笑みながらクラリスに話しかけています。

“凛として毅然と――”は良いですが、2つほど気になることを質問したいです。

「そこでボロボロの布切れに包まれて倒れている人達は誰ですか? あと、何故、皇太子殿下の子とその母親が我が家の庭にいるのですか?」

 私はアシュクロフトの後方が気になって仕方がありませんでした。なんせ、4人のズタボロの男たちと、2人の母親と2人の赤ん坊が居たのですから。

「お嬢様が命じたのでしょう。この方々が狙われそうということで、私に護衛するように――。案の定、皇太子殿下が暗殺者の刺客を放ちまして、少々痛い目を見てもらいました」

 やはり、あの浅はかな男はこういう手段に訴えましたか――。
 しかし、少々痛い目と言う割に暗殺者たちの体が変な方向に曲がっていると思うのですが――。

「ご心配には及びません。逃亡防止のために体中の関節を外しているだけですので、命に別状はありません」

 アシュクロフトはにこやかに答えました。
 平然と怖いことをされますね……。しかし、この方たちをどうするつもりでここに連れてきたのか説明が終わってませんね。

「いえ、このまま4人を返しても、また狙われるだけですので、一時的にこちらで預かって死んだことにされたほうがよろしいかと思いまして――。暗殺者共は私が脅しをかけて、皇太子殿下から報酬をもらい次第国外に出ていってもらうつもりでした」

「なるほど、さすがはアシュクロフトです。頼りになりますね」

「そう仰っていただいて、恐縮でございます」

 彼はそう言って丁寧にお辞儀をしました。

「えっ、殿下が赤ん坊を――。そんなはず――」

 クラリスが両手を口をあてて驚いた表情をしていました。微かに震えながら――。
 彼女の中で少しずつ自分の世界が壊れてきているようですね。
 
 なるほど、本当の狙いはクラリスこちらという訳ですか、やはりアシュクロフトは頼りになりますね――。

しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢に転生したので断罪イベントで全てを終わらせます。

吉樹
恋愛
悪役令嬢に転生してしまった主人公のお話。 目玉である断罪イベントで決着をつけるため、短編となります。 『上・下』の短編集。 なんとなく「ざまぁ」展開が書きたくなったので衝動的に描いた作品なので、不備やご都合主義は大目に見てください<(_ _)>

処理中です...