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Ep17 冷気
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「お義父様もお義母様もとても優しそうな方で本当にホッとしました。お義姉様、あたしの為にこんなにも良くして下さってありがとうございます」
クラリスの為に用意した部屋で私は彼女と話しています。
驚きました――数分の会話で両親の心を掴むなんて――。下手を踏むと両親は私よりこの子の味方をするかもしれない――。
そのくらいの不安が襲うほどあっさりとクラリスは私から婚約者を掠め取ったことを無かったことにしてしまったのです。
“グレイスに妹が出来て嬉しいと心から思ったよ”
まさか、1回目の食事でお父様からこんな言葉が出るとは思いませんでした。
はぁ、クラリスをコントロールするのは楽では無さそうですね。気を引き締めなくては――。
今のところ、クラリスに惑わされていないと確信できるくらいの精神力を高さを見せているのは、侍女のセリスと執事のアシュクロフトくらいです。
この二人は土台が違うというか、人の領域を色んな意味で超えているので例外中の例外でしょう。
それでも、恐らくクラリスに害を及ぼそうとするならばしっぺ返しを受けるでしょうし、二人も彼女の謎の力を警戒して適度に距離を取っています。
エリーカはクラリスと同い年ということで話が合って意気投合しているのか、それとも“愛される力”によるものなのかイマイチ分からないので保留にしています。
「気にしなくていいのよ。“真実の愛”が貴女と殿下にあることだし、私としてはアルティメシア家と皇王家が繋がれば御の字だから」
私はクラリスにくだけた話し方をするようにしました。
姉妹として仲良くする素振りくらいはしなくてはなりませんからね。
「“真実の愛”、そうあたしと殿下は結ばれる運命の元で――。でも、殿下は――赤ちゃんを――。ううん、何かの間違いよ。アシュクロフトさんに対して暗殺者が嘘をついてるのよ。殿下はお優しい人」
クラリスはブツブツと呪文のように“皇太子は優しい良い方”と唱えていました。
崩れてきましたけど、まだ刺激が弱いみたいですね――。
「そうね。殿下はお優しい方かもしれないわ。きっと、年端も行かないクラリスの為を想って義理の母親になるのを、避けねばと思ったのかも。アシュクロフトから聞いたけど、殿下はかなりお金を使って暗殺者を雇ったみたいだから――。よほど、クラリスのことを愛しているのね」
もちろん皮肉なのですが、クラリスにはこれくらいで丁度いいはずです。
「あたしの為に――お金を使って――赤ちゃんを――。そんなのって――」
いい感じに皇太子への信頼感が崩れていますね。ここまでは、アレンデールの予測通りに事が運んでいます。
――ゾクッ
なんですか? 悪寒がします――。鳥肌が立つほどの寒気が――。
「そんなのって、酷い――。優しくて誠実な殿下だと信じてたのに――」
クラリス? 貴女、そんな目が出来たのですか?
――それは、氷のように冷たい目。
もしかしたら、私とアレンデールは思い違いをしていたのかもしれません。
クラリスは確かに危険な力がありますが、“怒り”などとは程遠い人種であり、【聖女】と表されていることから、性格的にはかなり温厚な人物だと思っていました。
しかし、それは錯覚。見当違いも甚だしい――。
クラリスはその“愛される力”で都合の良い展開を生み出しながら人生を歩んでいたからこそ“怒る”必要が無かっただけなのです。
ですが、今回の搦め手で私とアレンデールは殿下の鬼畜を彼女に認識させてしまいました。
クラリスには理想と現実の齟齬を受け入れる耐性が無さすぎるので、それが大きなストレスになり、彼女の“怒り”が静かに爆発した――。
短期間にやり過ぎたようです。
そう思わせるほど、彼女の目付きは危険性を孕んでいました。
彼女が“怒り”に任せて暴走し、皇太子に天誅を与えるのを見守るのも一興ですが、とばっちりを受けるのはバカバカしいです。
ふぅ、こういう真似はしたくなかったのですが――。
「大丈夫よ。落ち着きなさい。貴女にその目は似合わないわ」
「お義姉様――。暖かいです。それに――いい匂い……」
私はクラリスを抱き締めました。どうやら落ち着いたみたいですね……。
はぁ、世話が焼ける義妹です。
爆弾は然るべきタイミングで然るべき火薬の量で爆発させなくてはならないのですよ。
必ずクラリスを上手く取り扱ってみせます。
誰の為でもなく私の為に――。
クラリスの為に用意した部屋で私は彼女と話しています。
驚きました――数分の会話で両親の心を掴むなんて――。下手を踏むと両親は私よりこの子の味方をするかもしれない――。
そのくらいの不安が襲うほどあっさりとクラリスは私から婚約者を掠め取ったことを無かったことにしてしまったのです。
“グレイスに妹が出来て嬉しいと心から思ったよ”
まさか、1回目の食事でお父様からこんな言葉が出るとは思いませんでした。
はぁ、クラリスをコントロールするのは楽では無さそうですね。気を引き締めなくては――。
今のところ、クラリスに惑わされていないと確信できるくらいの精神力を高さを見せているのは、侍女のセリスと執事のアシュクロフトくらいです。
この二人は土台が違うというか、人の領域を色んな意味で超えているので例外中の例外でしょう。
それでも、恐らくクラリスに害を及ぼそうとするならばしっぺ返しを受けるでしょうし、二人も彼女の謎の力を警戒して適度に距離を取っています。
エリーカはクラリスと同い年ということで話が合って意気投合しているのか、それとも“愛される力”によるものなのかイマイチ分からないので保留にしています。
「気にしなくていいのよ。“真実の愛”が貴女と殿下にあることだし、私としてはアルティメシア家と皇王家が繋がれば御の字だから」
私はクラリスにくだけた話し方をするようにしました。
姉妹として仲良くする素振りくらいはしなくてはなりませんからね。
「“真実の愛”、そうあたしと殿下は結ばれる運命の元で――。でも、殿下は――赤ちゃんを――。ううん、何かの間違いよ。アシュクロフトさんに対して暗殺者が嘘をついてるのよ。殿下はお優しい人」
クラリスはブツブツと呪文のように“皇太子は優しい良い方”と唱えていました。
崩れてきましたけど、まだ刺激が弱いみたいですね――。
「そうね。殿下はお優しい方かもしれないわ。きっと、年端も行かないクラリスの為を想って義理の母親になるのを、避けねばと思ったのかも。アシュクロフトから聞いたけど、殿下はかなりお金を使って暗殺者を雇ったみたいだから――。よほど、クラリスのことを愛しているのね」
もちろん皮肉なのですが、クラリスにはこれくらいで丁度いいはずです。
「あたしの為に――お金を使って――赤ちゃんを――。そんなのって――」
いい感じに皇太子への信頼感が崩れていますね。ここまでは、アレンデールの予測通りに事が運んでいます。
――ゾクッ
なんですか? 悪寒がします――。鳥肌が立つほどの寒気が――。
「そんなのって、酷い――。優しくて誠実な殿下だと信じてたのに――」
クラリス? 貴女、そんな目が出来たのですか?
――それは、氷のように冷たい目。
もしかしたら、私とアレンデールは思い違いをしていたのかもしれません。
クラリスは確かに危険な力がありますが、“怒り”などとは程遠い人種であり、【聖女】と表されていることから、性格的にはかなり温厚な人物だと思っていました。
しかし、それは錯覚。見当違いも甚だしい――。
クラリスはその“愛される力”で都合の良い展開を生み出しながら人生を歩んでいたからこそ“怒る”必要が無かっただけなのです。
ですが、今回の搦め手で私とアレンデールは殿下の鬼畜を彼女に認識させてしまいました。
クラリスには理想と現実の齟齬を受け入れる耐性が無さすぎるので、それが大きなストレスになり、彼女の“怒り”が静かに爆発した――。
短期間にやり過ぎたようです。
そう思わせるほど、彼女の目付きは危険性を孕んでいました。
彼女が“怒り”に任せて暴走し、皇太子に天誅を与えるのを見守るのも一興ですが、とばっちりを受けるのはバカバカしいです。
ふぅ、こういう真似はしたくなかったのですが――。
「大丈夫よ。落ち着きなさい。貴女にその目は似合わないわ」
「お義姉様――。暖かいです。それに――いい匂い……」
私はクラリスを抱き締めました。どうやら落ち着いたみたいですね……。
はぁ、世話が焼ける義妹です。
爆弾は然るべきタイミングで然るべき火薬の量で爆発させなくてはならないのですよ。
必ずクラリスを上手く取り扱ってみせます。
誰の為でもなく私の為に――。
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