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Ep22 義憤
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「――いや、そのう、さ。違うんだ、クラリス、本当に違うんだよ。違うから、わかるだろ?」
皇太子は身振り手振りでクラリスに弁解しようとしています。「違う」しか言ってませんけど……。
「殿下の仰っていることがわかりません――」
クラリスはポツリと呟きました。そりゃあ「違う」しか言ってませんからね。
「だから、クラリス! わかるだろっ! 本当に君が考えていることは全部違うんだって!」
あのう、この方、ボキャブラリーが貧弱過ぎませんか? もはや、婚約中ということすら、人生の汚点のような気がしてきました。
だからと言って許しませんが……。
「まぁ、待ちなさい。君は、そのこちらのグレイスと婚約中に、クラリスと恋仲になり、その上、別に子供を作ったと言われているみたいじゃが。それは真実ではないのか?」
皇太子がヒートアップした上に、言っていることが支離滅裂なのを見かねてなのか、教皇がようやく口を開きました。
むしろ、ここまで泳がせたような気もします。
「そのうですねぇ。いや、本当に違いますから。教皇様……。僕を、信じてください」
駄目ですね。この皇太子、壊れた玩具みたいになってます。唇が真っ白で、血の気が引いて、歯がガチガチなっています。
「ワシの仕事は説教をすることじゃが、君くらいの年齢の男子にこういう事はあまり言いたくないのぉ。大人なら、言動と行動に責任を持ちなさい」
教皇はゆっくりと諭すように皇太子に至極真っ当なことを言いました。
それが、この方に出来ていればこんなに拗れなかったのですよ。
「……ですから、誤解です。僕は悪くないです」
か細い声で皇太子から出た言葉は謝罪どころか自己弁護でした。
「ふうむ、悪いとか、悪くないは君が決めることじゃないのじゃが……。仕方ないのう。皇王を呼びなさい――」
「はっ、すぐに手配します」
教皇の一言で皇王をアルティメシア家に呼ぶこととなりました。
皇太子は「“臣下の家”に呼びつけるなど有り得ない」と言ってましたが、教皇がひと睨みすると黙ってしまいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――土下座。凄まじいスピードの土下座を私は初めてみました。
しかも、その土下座をした人物が我が国のトップ、最高権力者である皇王で、場所は我が家という異常さ――。
俄に信じられない光景です。
「これは、良いものを見れました。教皇を巻き込んだ甲斐があります」
アレンデールは無表情で恐らく防音魔法をかけながら満足そうな声を出して、リルアに抓られていました。
「教皇様、我が愚息がご無礼を――。クラリスと息子は確かに恋仲でして、しかし、グレイスに対しては必ず責任を果たすと約束し、和解の方向に向かっておりました。確かに婚約はまだ解消しておりませんが目処が立っていたので、この阿呆が誤解を招くような言い方を――」
皇王はさすがに少しは言葉を選んで話していました。
「ふうむ、国のトップが婚約中に浮気とはのぉ。それで、国民に示しが付くのか疑問じゃ。その上、子供まで作っとるようじゃ、資質を疑う……」
教皇は厳しい言葉を浴びせました。皇王は汗をダラダラかいています。
「はて、子供ですか? 確かにそのような風聞、そこのグレイスは主張して、追求されたことはあります。しかし、我が血筋の男子には首筋に必ずひし形の痣がありまして、そのような赤子は国中探しても見つかりませんでした。まぁ、女児なら、居るかもしれませんが、証拠は上がっておりません」
「そうなんです。そこのグレイスは変な噂を流して僕を嵌めようとして――」
この親子、私の糾弾を初めてきましたね。暗殺者を送ったのは皇太子でしたが、皇王も黙認していたのですね。
「ほほう、グレイスが婚約者を貶めてメリットがあるように思えんのじゃが……。その言葉は真なのか?」
教皇に欺瞞は重罪――。それを確認するような口調でした。
「はっ、グレイスの思惑はわかりませんが、確かです。嘘偽りはありません」
「もちろんです。僕に子供はおりませ――」
「嘘つき! 殿下は嘘つきです! 居るじゃないですか! 二人も! グレイスお義姉様が悪い人だっていうことも! 全部嘘だった! あたしはお義姉様に申し訳ないです! 素敵で優しい方で、そんな方の婚約をめちゃくちゃにして! あたしは聖女なんかじゃないっ! 悪女はあたし! 殿下はっ! 殿下はっ! 何も感じないのですか! グレイスお義姉様に対してっ!」
クラリスは涙を流しながら顔をぐちゃぐちゃにして訴えました。
なんで、今更この子は――。私に悪いなんて……。遅すぎますよ――。
――でも、許せないけど、どうでもよくはなりました。
「何を言っているんだ! 僕にガキなんて居ないって! 君は何を吹き込まれたんだっ!」
皇太子は凄い形相です。
「そうです。教皇様、クラリスもどうやら洗脳されているご様子。何者かが、アレクトロン皇家を貶めようとする陰謀です」
皇王は立ち上がり弁解しました。
――さあて、そろそろいい頃合いですよ。
――さすが、アシュクロフト、行動が早いです。
「そうか、では、そこのご婦人方の抱えている、首筋に痣のある赤子は誰の子なのじゃ?」
「「えっ」」
終焉は近いようです――。
皇太子は身振り手振りでクラリスに弁解しようとしています。「違う」しか言ってませんけど……。
「殿下の仰っていることがわかりません――」
クラリスはポツリと呟きました。そりゃあ「違う」しか言ってませんからね。
「だから、クラリス! わかるだろっ! 本当に君が考えていることは全部違うんだって!」
あのう、この方、ボキャブラリーが貧弱過ぎませんか? もはや、婚約中ということすら、人生の汚点のような気がしてきました。
だからと言って許しませんが……。
「まぁ、待ちなさい。君は、そのこちらのグレイスと婚約中に、クラリスと恋仲になり、その上、別に子供を作ったと言われているみたいじゃが。それは真実ではないのか?」
皇太子がヒートアップした上に、言っていることが支離滅裂なのを見かねてなのか、教皇がようやく口を開きました。
むしろ、ここまで泳がせたような気もします。
「そのうですねぇ。いや、本当に違いますから。教皇様……。僕を、信じてください」
駄目ですね。この皇太子、壊れた玩具みたいになってます。唇が真っ白で、血の気が引いて、歯がガチガチなっています。
「ワシの仕事は説教をすることじゃが、君くらいの年齢の男子にこういう事はあまり言いたくないのぉ。大人なら、言動と行動に責任を持ちなさい」
教皇はゆっくりと諭すように皇太子に至極真っ当なことを言いました。
それが、この方に出来ていればこんなに拗れなかったのですよ。
「……ですから、誤解です。僕は悪くないです」
か細い声で皇太子から出た言葉は謝罪どころか自己弁護でした。
「ふうむ、悪いとか、悪くないは君が決めることじゃないのじゃが……。仕方ないのう。皇王を呼びなさい――」
「はっ、すぐに手配します」
教皇の一言で皇王をアルティメシア家に呼ぶこととなりました。
皇太子は「“臣下の家”に呼びつけるなど有り得ない」と言ってましたが、教皇がひと睨みすると黙ってしまいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――土下座。凄まじいスピードの土下座を私は初めてみました。
しかも、その土下座をした人物が我が国のトップ、最高権力者である皇王で、場所は我が家という異常さ――。
俄に信じられない光景です。
「これは、良いものを見れました。教皇を巻き込んだ甲斐があります」
アレンデールは無表情で恐らく防音魔法をかけながら満足そうな声を出して、リルアに抓られていました。
「教皇様、我が愚息がご無礼を――。クラリスと息子は確かに恋仲でして、しかし、グレイスに対しては必ず責任を果たすと約束し、和解の方向に向かっておりました。確かに婚約はまだ解消しておりませんが目処が立っていたので、この阿呆が誤解を招くような言い方を――」
皇王はさすがに少しは言葉を選んで話していました。
「ふうむ、国のトップが婚約中に浮気とはのぉ。それで、国民に示しが付くのか疑問じゃ。その上、子供まで作っとるようじゃ、資質を疑う……」
教皇は厳しい言葉を浴びせました。皇王は汗をダラダラかいています。
「はて、子供ですか? 確かにそのような風聞、そこのグレイスは主張して、追求されたことはあります。しかし、我が血筋の男子には首筋に必ずひし形の痣がありまして、そのような赤子は国中探しても見つかりませんでした。まぁ、女児なら、居るかもしれませんが、証拠は上がっておりません」
「そうなんです。そこのグレイスは変な噂を流して僕を嵌めようとして――」
この親子、私の糾弾を初めてきましたね。暗殺者を送ったのは皇太子でしたが、皇王も黙認していたのですね。
「ほほう、グレイスが婚約者を貶めてメリットがあるように思えんのじゃが……。その言葉は真なのか?」
教皇に欺瞞は重罪――。それを確認するような口調でした。
「はっ、グレイスの思惑はわかりませんが、確かです。嘘偽りはありません」
「もちろんです。僕に子供はおりませ――」
「嘘つき! 殿下は嘘つきです! 居るじゃないですか! 二人も! グレイスお義姉様が悪い人だっていうことも! 全部嘘だった! あたしはお義姉様に申し訳ないです! 素敵で優しい方で、そんな方の婚約をめちゃくちゃにして! あたしは聖女なんかじゃないっ! 悪女はあたし! 殿下はっ! 殿下はっ! 何も感じないのですか! グレイスお義姉様に対してっ!」
クラリスは涙を流しながら顔をぐちゃぐちゃにして訴えました。
なんで、今更この子は――。私に悪いなんて……。遅すぎますよ――。
――でも、許せないけど、どうでもよくはなりました。
「何を言っているんだ! 僕にガキなんて居ないって! 君は何を吹き込まれたんだっ!」
皇太子は凄い形相です。
「そうです。教皇様、クラリスもどうやら洗脳されているご様子。何者かが、アレクトロン皇家を貶めようとする陰謀です」
皇王は立ち上がり弁解しました。
――さあて、そろそろいい頃合いですよ。
――さすが、アシュクロフト、行動が早いです。
「そうか、では、そこのご婦人方の抱えている、首筋に痣のある赤子は誰の子なのじゃ?」
「「えっ」」
終焉は近いようです――。
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