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Ep21 憤怒
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クラムー教皇――世界最大の宗教クラムー教のトップであり、王族をも凌ぐ権力を持っています。
直接会ったことなど当然ありませんが、なるほど、一見、白髪の老人といった風体なのですが、徳の高いというか、迫力があるというか、神々しいオーラを感じます。
以前、美術館で見た全知全能の神の肖像画――。それを彷彿とさせる“凄み”がありました。
「突然で驚かせてしまい申し訳ないのう。こちらに【聖女】の資質のある娘さんが居ると聞いて、一度会おうと思うてきたのじゃが――。何やらお取り込み中じゃったかな。アレクトロン皇太子殿が少ない護衛と共にこちらを訪れとるとは思わなんだ」
教皇は皇太子を一瞥するとそう声をかけました。
教皇の隣には紫色のフードをかぶったローブの男が――。恐らく預言者とやらでしょう。
更に後ろに5人ほどの付き人が立っていました。立ち振る舞いからかなりの達人の護衛だとセリスは小声で私に告げました。
セリスの話によると、外には他にも100人ほどの教皇の護衛が屋敷を囲んでいるらしいです。父が青ざめているわけです。
しかし、父以上に青ざめているのは皇太子です。
教皇が来るなり借りてきた猫のように小さくなっていました。
「君がクラリス=フリージア、いや、確か昨日からクラリス=アルティメシアになったのじゃな。ふうむ、そのことと、皇太子殿がこちらに居ることは関係があるのじゃろうか?」
すっ鋭いですね。この場に来るなり状況を的確に読んでいます。
「いやぁ、そのう、クラリスは僕と結婚する予定なので――。【聖女】に指名されるということは大変名誉なこととは分かってますが、僕との結婚の話が先というかなんというか……」
皇太子はしどろもどろになっています。自分よりも立場が上の者が相手だと本当に弱々しくなりますね。
「そうだったのか。ふーむ、独身と聞いておったからのう。婚約者がおるとは思わなんだ。教団の調査部は仕事を疎かにしとるのかな?」
あっさりと納得しかけた教皇を見て、皇太子の顔が一瞬明るくなりました。
しかし、フードの男。つまり預言者が今度は口を開きました。
「恐れながら、教皇様。こちらの皇太子殿下の婚約者はクラリス=アルティメシアではなく、グレイス=アルティメシアです。結婚式の招待状も教団の本部に届いております」
その言葉を聞いたとき、皇太子の顔が明らかに“しまった”という表情に変わりました。
自分で率先して教皇に招待状を出したのに、阿呆ですか? 貴方は……。
「おおっ、そうだったのか。では、話が食い違っとるのお。皇太子殿、まさか、ワシに嘘偽りを話しとるわけじゃないよな?」
教皇の威圧感がグッと増した気がしました。
クラムー教では欺瞞は最も魂を穢す罪悪とされてますからね。その場しのぎの嘘は自分の首を絞めることになりますよ。
「いや、グレイスとは婚約破棄しておりまして――」
「いえ、まだ婚約破棄はしておりませんわ。殿下が結論を先延ばしにされたではありませんか」
間髪を入れずに私は口を開きました。皇太子はすごい目つきで私を睨んできます。
「ぐっ、しかし、ほとんど婚約破棄したようなものだ。だから、クラリスをアルティメシア家の養子にしたんじゃないか。クラリスが【聖女】になったらこの家と皇族の関係がなくなるのだぞ!」
皇太子は大声で叫ぶように私に言い放ちました。
「しかし、我が家から【聖女】が誕生するという大変な名誉は頂けます。もちろん、私の出した条件を受け入れられるのでしたら、いつでも婚約破棄して差し上げます」
「だっだっ黙れっ! この悪女がっ! 僕とクラリスは“真実の愛”で結ばれてるんだっ! お前、やっぱり邪魔な悪女だなっ! クラリス、僕らの愛は永遠だ……。さあ、こっちにおいで……」
皇太子は興奮して私に怒鳴り散らし、クラリスに手を差し伸べました。
ふぅ、以前のクラリスなら、皇太子を庇ったでしょうが――。
「“真実の愛”――が本当なら、どうして殿下は嘘ばかりなのですか? あたしのことをコレとか、モノとか、なんでそんな言い方が出来るんですか? それに、赤ちゃんが居るって、あたしには一言も教えてくれなかった。殿下は嘘つきなのですか!?」
クラリスは今まで見せたことのない憤怒の表情で皇太子に向かって叫びました。
あまりの剣幕に彼は一言――。
「えっ――」
とだけ、口に出し、信じられないという表情で固まってしまいました。
直接会ったことなど当然ありませんが、なるほど、一見、白髪の老人といった風体なのですが、徳の高いというか、迫力があるというか、神々しいオーラを感じます。
以前、美術館で見た全知全能の神の肖像画――。それを彷彿とさせる“凄み”がありました。
「突然で驚かせてしまい申し訳ないのう。こちらに【聖女】の資質のある娘さんが居ると聞いて、一度会おうと思うてきたのじゃが――。何やらお取り込み中じゃったかな。アレクトロン皇太子殿が少ない護衛と共にこちらを訪れとるとは思わなんだ」
教皇は皇太子を一瞥するとそう声をかけました。
教皇の隣には紫色のフードをかぶったローブの男が――。恐らく預言者とやらでしょう。
更に後ろに5人ほどの付き人が立っていました。立ち振る舞いからかなりの達人の護衛だとセリスは小声で私に告げました。
セリスの話によると、外には他にも100人ほどの教皇の護衛が屋敷を囲んでいるらしいです。父が青ざめているわけです。
しかし、父以上に青ざめているのは皇太子です。
教皇が来るなり借りてきた猫のように小さくなっていました。
「君がクラリス=フリージア、いや、確か昨日からクラリス=アルティメシアになったのじゃな。ふうむ、そのことと、皇太子殿がこちらに居ることは関係があるのじゃろうか?」
すっ鋭いですね。この場に来るなり状況を的確に読んでいます。
「いやぁ、そのう、クラリスは僕と結婚する予定なので――。【聖女】に指名されるということは大変名誉なこととは分かってますが、僕との結婚の話が先というかなんというか……」
皇太子はしどろもどろになっています。自分よりも立場が上の者が相手だと本当に弱々しくなりますね。
「そうだったのか。ふーむ、独身と聞いておったからのう。婚約者がおるとは思わなんだ。教団の調査部は仕事を疎かにしとるのかな?」
あっさりと納得しかけた教皇を見て、皇太子の顔が一瞬明るくなりました。
しかし、フードの男。つまり預言者が今度は口を開きました。
「恐れながら、教皇様。こちらの皇太子殿下の婚約者はクラリス=アルティメシアではなく、グレイス=アルティメシアです。結婚式の招待状も教団の本部に届いております」
その言葉を聞いたとき、皇太子の顔が明らかに“しまった”という表情に変わりました。
自分で率先して教皇に招待状を出したのに、阿呆ですか? 貴方は……。
「おおっ、そうだったのか。では、話が食い違っとるのお。皇太子殿、まさか、ワシに嘘偽りを話しとるわけじゃないよな?」
教皇の威圧感がグッと増した気がしました。
クラムー教では欺瞞は最も魂を穢す罪悪とされてますからね。その場しのぎの嘘は自分の首を絞めることになりますよ。
「いや、グレイスとは婚約破棄しておりまして――」
「いえ、まだ婚約破棄はしておりませんわ。殿下が結論を先延ばしにされたではありませんか」
間髪を入れずに私は口を開きました。皇太子はすごい目つきで私を睨んできます。
「ぐっ、しかし、ほとんど婚約破棄したようなものだ。だから、クラリスをアルティメシア家の養子にしたんじゃないか。クラリスが【聖女】になったらこの家と皇族の関係がなくなるのだぞ!」
皇太子は大声で叫ぶように私に言い放ちました。
「しかし、我が家から【聖女】が誕生するという大変な名誉は頂けます。もちろん、私の出した条件を受け入れられるのでしたら、いつでも婚約破棄して差し上げます」
「だっだっ黙れっ! この悪女がっ! 僕とクラリスは“真実の愛”で結ばれてるんだっ! お前、やっぱり邪魔な悪女だなっ! クラリス、僕らの愛は永遠だ……。さあ、こっちにおいで……」
皇太子は興奮して私に怒鳴り散らし、クラリスに手を差し伸べました。
ふぅ、以前のクラリスなら、皇太子を庇ったでしょうが――。
「“真実の愛”――が本当なら、どうして殿下は嘘ばかりなのですか? あたしのことをコレとか、モノとか、なんでそんな言い方が出来るんですか? それに、赤ちゃんが居るって、あたしには一言も教えてくれなかった。殿下は嘘つきなのですか!?」
クラリスは今まで見せたことのない憤怒の表情で皇太子に向かって叫びました。
あまりの剣幕に彼は一言――。
「えっ――」
とだけ、口に出し、信じられないという表情で固まってしまいました。
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