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第十六話

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「や、やぁ、ルージア。久しぶりだな。何でも頼んでくれ。今日は僕の奢りだ」

「結構ですよ。殿下は倹約で大変でしょうから」

 珍しくマークス殿下自らが予約したお店に誘われた私。
 皇太子である彼の誘いには応じない訳にはいかないのが辛いところですよね。
 護衛は勿論いますが、そろそろ面倒なことをが起きそうで非常に気分が悪いです。
 
 呼び出しの理由は、やはり財団への寄付の催促でしょうか……。

「そうか、そうか。君が僕の倹約精神を理解しているとは思わなかった。それなら早速だが本題に移ろう」

 マークス殿下は何か頼めと言った割には自分は水しか頼んでいません。
 まったく、これでは私が食事を頼みにくいじゃないですか。そういう所は相変わらずです。
 どうやら、奢るという発言――かなり無理をしているみたいですね。
 それでも、無銭飲食を繰り返していた時よりもマシだと受け取りましょう。

「単刀直入に言う。僕と結婚してほしい」

「はぁ……?」 
「んっ?」

 しまった。余りにも斜め上過ぎる発言に思わず素の声が出てしまいました。
 マークス殿下は鈍い人ですから私の侮蔑が込められた声に気付いていないみたいですから。

 今後に及んでもう一度縁談を切り出すとはどの面を下げて。
 しかも、娼婦との間に子を成したということを公表してるというのに――。

「殿下、ご自分の仰っていることを理解していますか? あなたが私との婚約を破棄したのですよ」

「もちろん、覚えてるさ。贅沢に冒された女との結婚などあり得なかったからな」

「では、何故ですか!? お答えください!」

 どうやら記憶を失った訳ではないみたいですね。
 贅沢な貴族の令嬢よりも、素朴な平民の娘が良いとか言ったことを。

 自らの吐いたツバを飲み込むような行為――そんなことが許せるはずがないと考えれば分かりそうなものですが。

「国一番の贅沢者を僕が教育せねばならんと考えを改めただけだ。バーミリオン家――僕が君と結婚して財産を頂く。それが一番手っ取り早い倹約だということに気付いたのさ。借金も返さなくて良くなるし」

「本当に今更のことを仰るのですね。私が殿下の求婚にイエスと答えるとでも思っているのですか?」  

「…………」

 マークス殿下は私と結婚してバーミリオン家の財産を全て手中に収めると正直に全部話しました。
 そんなことを言って私が結婚に承諾すると思っているのでしょうか。
 しかし、殿下のあの勿体ぶったような不気味な沈黙……。
 まさか、何らかの脅迫方法でも――。

「……えっ? 結婚、断るの? 僕は皇太子だぞ……」

「…………」

「だって、女の子って王子様との結婚が夢なんだろう? 勝ち組になれるんだぞ!」

 いえ、殿下と結婚したら負け組の中の負け組確定です。
 マークス殿下は王子なら無条件で愛されると思ってるご様子。
 こんなにも歪んだのはヘムロス宰相の教育の結果なのか、それとも。

 どっちにしろ、マークス殿下。私とあなたが結婚することは未来永劫あり得ません。
 あの日、あなたがそう仰ったのですから。

 ご自分の発言に対しての不義理だけは許しませんよ――。
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