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やはり殿下の真意が分かりません
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「ったく、君は人をイライラさせる上に粗忽者なんだな。ほら、ブローチを忘れて行っていたぞ。別にお前の母の形見などどうでも良いが、目障りだから早くしまえ」
遂にやって来ました。
ウォルフ殿下との対決の日。つまり魅了魔法にかかった演技をする日です。
殿下からは早くも小言を頂いてしまい、いつもなら私の気分も落ちてしまうところなんですが、今日はワクワクしていますのでニヤニヤが止まりません。
顔に出ないように注意しませんと。演技をする前から負けてしまいます。
ハンス、あなたに作らせた台本どおり演技をしますから後ろで見ていて下さい――。
「ウォルフ様ぁ、ああ、ウォルフ様……。す、すみません。前の会食以来、ウォルフ様のことばかり考えてしまい、シャルロットは緊張してウォルフ様の目を見ることが出来ませんの……」
一生懸命に練習したハンス曰く「甘えた声」。
猫なで声とでも言いましょうか、まるで赤ん坊に接するが如くの優しい口調で私はお手洗いを我慢するような仕草をしながらウォルフ様から目を逸らします。
ハンス、あなたの書いたとおりのセリフを述べましたよ。
これで、ウォルフ殿下は私が魅了魔法にかかったと勘違いされるのですよね? 信じていますよ。
「し、し、シャルロット……? ま、まさか、上手くいった、のか? しかし、これは――」
ふっふっふ、珍しく動揺しているじゃありませんか。
ハンスから「恥ずかしそうにモジモジする」という演技をするように言われて、どうしても会得出来なかったので、敢えてお手洗いを我慢しながらセリフを読む特訓などをしたのですよ。
まったく、もう少しで侯爵家の令嬢としての尊厳を失うところでした。
この一週間ほどの間、私は血の滲むような努力をしましたから。
今の私は完璧に魅了魔法にかけられた令嬢という役をこなすことが出来ます。
まさか役者の才能が私にあるとは。やってみなくては分からないことということもありますね。
さぁ、どうしますか? ウォルフ殿下。あなたのサーブです!
ここから、どのようにして私を婚約破棄に追い込む卑劣な策に出ようとするのか見せてご覧なさい!
――あ、あれ? 顔近くありませんか? 何故、私の手を握るのです?
「いや、失礼した。シャルロット、今日の君はいつもにも増して一段と美しいな。僕は君よりも可憐な女性を見たことがない」
――何か、思っていたのと反応が違います。
その声はとても甘美で、私を見つめる瞳は普段には無かった熱を帯びているみたいでした。
落ち着くのです。落ち着くのですよ、シャルロット・キャメルン。
こんなことで動揺していて、キャメルン家の命運を背負えるものですか。
ハンスとの特訓を思い出すのです。決して演技を中断させてはなりません。
「まぁ、それは真ですか? シャルロットはウォルフ様のその言葉を受け取るだけで、天にも昇る気持ちです。う、ウォルフ様、こそ……、いつもよりも素敵で、そのう。こうしていると、胸が、胸が張り裂けそうになります……」
ゆっくりと顔を俯かせて、私はウォルフ殿下の容姿がいつも以上に素敵だと感じていることを主張します。
魅了されると面倒なんですね。私も社交辞令的な持ち上げ方はしますが、このようにあざといセリフは避けていました。
ハンスが「こういうストレートな方が魔法にかかってるっぽい」と力説しましたので、こうしていますが……。
――今のところは成功していそうですね。
「そ、そうか。僕も君の手を握って幸せな気持ちになるのと同時に緊張してしまっている。……さぁ、座るが良い。時間はたっぷりあるんだ。まずは食事を楽しもうではないか」
こ、これはどういう意図でしょう?
殿下自らが椅子を引いて私をエスコート?
今まで一度もそんなことをしてくれなかったのに……。
それに「時間はたっぷりある」って、あれだけ早く帰そうとしていたウォルフ殿下の口から出たセリフだとは思えません。
「うむ。座っているシャルロットもやはり趣が違うというか。良いな……」
あまりジロジロ見ないで下さいよ。恥ずかしいではありませんか。
ま、まさか、これが狙いですか? 私を極度の緊張状態に追い込んで、粗相を起こさせようという。
いや、それなら魅了魔法を使うなんてことしなくても良いような……。
と、とにかく演技だけは継続せねば。
「ウォルフ様ぁ、あまり見られると恥ずかしいですわ。ただでさえ、お慕いしている方と食事をすることに緊張しているのです」
「……ぬっ、あ、いや。そうだな。失敬、失敬。シャルロットが居てくれて、嬉しくて……つい、な」
「も、もちろん私も嬉しいです。ドキドキして、眠れぬ日々を過ごしておりましたから」
「そうか、そうか。眠れぬ日々を……、か。僕もどうして君がここまで美しいのか考えて一睡も出来ぬ日があったな」
――何で張り合っているのですか。
寝てない自慢でマウントの取り合いをしているつもりは無いのですが……。
変です。このウォルフ殿下、いつもと全然違って優しくて、紳士的な美男子って感じで不気味すぎます。
魅了魔法にかかったフリをして、殿下の真意を探ろうとしていますのに、益々分からなくなってしまいました――。
遂にやって来ました。
ウォルフ殿下との対決の日。つまり魅了魔法にかかった演技をする日です。
殿下からは早くも小言を頂いてしまい、いつもなら私の気分も落ちてしまうところなんですが、今日はワクワクしていますのでニヤニヤが止まりません。
顔に出ないように注意しませんと。演技をする前から負けてしまいます。
ハンス、あなたに作らせた台本どおり演技をしますから後ろで見ていて下さい――。
「ウォルフ様ぁ、ああ、ウォルフ様……。す、すみません。前の会食以来、ウォルフ様のことばかり考えてしまい、シャルロットは緊張してウォルフ様の目を見ることが出来ませんの……」
一生懸命に練習したハンス曰く「甘えた声」。
猫なで声とでも言いましょうか、まるで赤ん坊に接するが如くの優しい口調で私はお手洗いを我慢するような仕草をしながらウォルフ様から目を逸らします。
ハンス、あなたの書いたとおりのセリフを述べましたよ。
これで、ウォルフ殿下は私が魅了魔法にかかったと勘違いされるのですよね? 信じていますよ。
「し、し、シャルロット……? ま、まさか、上手くいった、のか? しかし、これは――」
ふっふっふ、珍しく動揺しているじゃありませんか。
ハンスから「恥ずかしそうにモジモジする」という演技をするように言われて、どうしても会得出来なかったので、敢えてお手洗いを我慢しながらセリフを読む特訓などをしたのですよ。
まったく、もう少しで侯爵家の令嬢としての尊厳を失うところでした。
この一週間ほどの間、私は血の滲むような努力をしましたから。
今の私は完璧に魅了魔法にかけられた令嬢という役をこなすことが出来ます。
まさか役者の才能が私にあるとは。やってみなくては分からないことということもありますね。
さぁ、どうしますか? ウォルフ殿下。あなたのサーブです!
ここから、どのようにして私を婚約破棄に追い込む卑劣な策に出ようとするのか見せてご覧なさい!
――あ、あれ? 顔近くありませんか? 何故、私の手を握るのです?
「いや、失礼した。シャルロット、今日の君はいつもにも増して一段と美しいな。僕は君よりも可憐な女性を見たことがない」
――何か、思っていたのと反応が違います。
その声はとても甘美で、私を見つめる瞳は普段には無かった熱を帯びているみたいでした。
落ち着くのです。落ち着くのですよ、シャルロット・キャメルン。
こんなことで動揺していて、キャメルン家の命運を背負えるものですか。
ハンスとの特訓を思い出すのです。決して演技を中断させてはなりません。
「まぁ、それは真ですか? シャルロットはウォルフ様のその言葉を受け取るだけで、天にも昇る気持ちです。う、ウォルフ様、こそ……、いつもよりも素敵で、そのう。こうしていると、胸が、胸が張り裂けそうになります……」
ゆっくりと顔を俯かせて、私はウォルフ殿下の容姿がいつも以上に素敵だと感じていることを主張します。
魅了されると面倒なんですね。私も社交辞令的な持ち上げ方はしますが、このようにあざといセリフは避けていました。
ハンスが「こういうストレートな方が魔法にかかってるっぽい」と力説しましたので、こうしていますが……。
――今のところは成功していそうですね。
「そ、そうか。僕も君の手を握って幸せな気持ちになるのと同時に緊張してしまっている。……さぁ、座るが良い。時間はたっぷりあるんだ。まずは食事を楽しもうではないか」
こ、これはどういう意図でしょう?
殿下自らが椅子を引いて私をエスコート?
今まで一度もそんなことをしてくれなかったのに……。
それに「時間はたっぷりある」って、あれだけ早く帰そうとしていたウォルフ殿下の口から出たセリフだとは思えません。
「うむ。座っているシャルロットもやはり趣が違うというか。良いな……」
あまりジロジロ見ないで下さいよ。恥ずかしいではありませんか。
ま、まさか、これが狙いですか? 私を極度の緊張状態に追い込んで、粗相を起こさせようという。
いや、それなら魅了魔法を使うなんてことしなくても良いような……。
と、とにかく演技だけは継続せねば。
「ウォルフ様ぁ、あまり見られると恥ずかしいですわ。ただでさえ、お慕いしている方と食事をすることに緊張しているのです」
「……ぬっ、あ、いや。そうだな。失敬、失敬。シャルロットが居てくれて、嬉しくて……つい、な」
「も、もちろん私も嬉しいです。ドキドキして、眠れぬ日々を過ごしておりましたから」
「そうか、そうか。眠れぬ日々を……、か。僕もどうして君がここまで美しいのか考えて一睡も出来ぬ日があったな」
――何で張り合っているのですか。
寝てない自慢でマウントの取り合いをしているつもりは無いのですが……。
変です。このウォルフ殿下、いつもと全然違って優しくて、紳士的な美男子って感じで不気味すぎます。
魅了魔法にかかったフリをして、殿下の真意を探ろうとしていますのに、益々分からなくなってしまいました――。
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