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51.運命の番の災い(2)

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 その数十年後、また別の国でも運命の番が結ばれて、アルファの王子と平民のレアオメガが将来を約束していた。

 今度はそれを許さない宰相や貴族達が、その二人を引き裂こうとあの手この手と策を練ったが、宰相は突然心臓を悪くして倒れ、その貴族達も全員心臓発作で急逝した。動揺する間もなく、その国すらもなんの前触れもなく不幸が重なってまた滅びた。


「それが何度も何度も何百回も、この数千年の間にいろんな国で起こるものだから、あきらかに災いじみていると判断した何十代も前の皇帝が、運命の番同士はどうあっても引き裂いてはならないと全世界に通達したんだ。そうしなければ災いが降りかかり、どんなに国の基盤が強固で平穏そのものであっても国が滅びるだろうとね。だから、運命の番だけは世界共通で平民相手でも王侯貴族は結婚できるんだ」
「そうだったんだ……。なんか運命の番ってすごい効力なんだね。無理に引き離すと災いが起きるなんて、神様の悪戯みたい」

 運営製作者が運命の番を引き離すのは絶拒マンだとか言ってそういう設定にしたのかもしれない。

「神様が見ているのかもね。だからパスカルと運命の番ですっごく嬉しかった。オレとキミの仲を引き裂けない加護をもらえた気分だからね。中には事情を知らない悪辣な貴族連中が引き裂きに来るかもしれないけど、パスカルに危害を絶対加えさせないし、なんなら夜会中はずっとオレの隣にいてくれればいい。見せつける事だってできるから」
「メル……」
「むしろ誰にも会わせたくないって思う。貴族共の汚い世界なんて見せたくないよ。だけどそうもいかないのが悔しい。パスカルに変なお邪魔虫がつきそうだから」
「俺にお邪魔虫なんてつかないよ。平民でぱっとしないし」
「わかってないなぁ。平民だからこそ興味が出てくる奴もいるかもしれないじゃない。それに利用しようとしてくる連中もいるかもしれない。純粋培養なパスカルが心配だからオレがずっと付いててあげる」
「純粋培養って程でもないんだけどなぁ」

 これでも前世ではエロアニメやエロゲをしまくった知識だけはあるヲタクだったのだ。彼女いない歴年齢で童貞ではあったけれど、20代後半まで生きてブラック企業の汚い世界をこれでもかと見てきたというのに。

「それでお互いの両親に改めて紹介しあって、結婚の日取りを決める事になるだろうね」
「結婚……か」
「前に言ったよね。運命の番同士なら男同士でも結婚出来るって」
「い……言ってたね」

 まさかそれが自分に当てはまり、本当にそうなるとは思わなかった。あの時は軽い気持ちで聞いていただけなのだが、まさか男相手とこんな関係になるなんて自分でも想像すらしていなかった。

「怖気づいてる?」
「や、いきなりメルが運命の番だってわかって、それで挨拶や結婚の話題に飛躍したから驚いてるんだよ」
「ま、そうだよね。いきなりそうなっちゃったら心の準備もしてないよね。運命の番ってわかって項を噛んでプロポーズをすっ飛ばしたようなものだから。でもオレ、はやくパスカルと一緒になりたいよ。一緒になって幸せにしたいし、幸せにもなりたい」


 幸せ、か。
 レアオメガとして生まれた時は不幸のどん底で、幸せになんて感じる事はもうほとんどなくなると思っていたが、その幸せを自分も感じる事が出来るのだろうか。

「俺も……メルと幸せになりたい」
「パスカル……」
「ずっと今までどうせ早く死ぬんだろうって諦めていたけど、今はメルと番ってから寿命が延びて、生きたいって思うようになった。生きるならやっぱり幸せになりたいし、メルと……家族になりたいな」
「っ……うん!家族になろう、パスカルっ。それでいっぱいイチャイチャして子作りえっちしようね」
「そ、それはまだ先だよっ!」

 子作りだなんてまだ想像ができない。そういう行為をヒート中に想像した事がないと言えば嘘になるが、自分が足を開いてあんな事をするなんて信じられないのだ。前世も男として生きてきたわけなので。

 そもそも、尻にそれが入るのかとすら疑問に思う。

「先じゃないよ。遠慮なくいくって言ったじゃん。結婚だってするんだからそういう事は覚悟しなきゃだめだよー」
「まだご両親に挨拶すらしてないじゃん」
「退院したらすぐだよ。ていうかパスカル相手なら三秒で完勃ちできそうだしぃ。つか今夜のおかずはパスカルのお風呂での裸かなぁ」
「もー何言ってるんだよっ!メルのすけべ!」
「だってパスカルが可愛くて大好きなんだもん。セックスしたいって思うのは普通でしょ」
「そんなでかい声でせっく……なんて言わないでよっ。まだ心の準備全然だから」
「じゃあ早く心の準備が終えるよういっぱいイチャイチャして慣れないとね」
「うう……恥ずかしいけど……嬉しいかも……」


 *

 それからすぐにパスカルの退院が決まった。オメガ肺炎はほぼ完治し、体力もほぼ以前の時と同じように元に戻った。

 今後も定期的な検診は必要だが、それ以外は普通に生活しても問題ないとの事。あまりストレスを溜めこまない事と、体力的にも精神的にも疲労などを感じたらすぐに静養する事は義務付けられた。

 運命の番を見つけた事でヒートがこない体になったとはいえ、性欲は普通のベータやオメガ以上には溜まるらしいので、ストレスを溜めないようそれも適度に発散するようにと言われた。

 つまりは番同士と性行為をしろと遠回しに指示を出されたのだ。

 パスカルは恥ずかしくなったが、メルはそれ以上にニコニコして楽しそうだった。メルの考えている事が手に取るようにわかり、そう遠くないうちに自分の処女がメルに捧げられる未来が来そうだと思ったのだった。



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