【完結】薄幸レアオメガは謎のホームレスと幸せになりたい

６２．バカヒロインとチョロキュー共

　困惑していた貴族の者達も、運命の番なら仕方がないと八割方納得していく。いや、納得をせざるを得ない。でなければ災いが災いを呼び、最悪国が亡国となりえる事だってあり得るのだ。今までの長い歴史がそう物語っているのだから。

　ただ、納得できない者達は運命の番の災いを知らぬ者達ばかりで、平民なんかより我が娘と結婚にと鼻息荒くして反対の声をあげようとしている。

「皆の者、運命の番の災いを知っておるか。知っている者はそれが何を意味するかわかっていると思う。知らぬ者は知っている者から聞くか調べて参れ。時代は数千年前からさかのぼる歴史をな」

　陛下が横から口を挟むと、反対の声をあげようとしていた貴族達は、知っている者達から詳しい話を聞いている。

『運命の番を引き離そうとした者は、もれなく災いが降りかかり、身の回りに不幸の連鎖が重なり、最終的に国すらも滅ぼしてしまう。それも例外なく必ず破滅を迎えている。つまり、引き離す行為自体が神と帝国に背くものと同等。何十代前の皇帝が運命の番による平民の結婚を認めたのはその理由があるため。今後、異論のある者は神に背いても構わないとそういう意味と捉えます。先々代の決定に、この私メルキオールが有無を言わせない』

　強い口調で言葉尻に圧を掛けると、先ほどまで反対していた勢力が災いの話を聞いて渋々納得した模様。それでも次期皇帝陛下の妻となる者が平民というのが納得いかないのか、側妃やお飾り妃でもいいからと我が娘を推薦しようとする者もいて、皇族の権力にすがろうと必死な様子が他貴族から嗤われていた。その者は後でお灸を据えておこうと決め、話を進める。

「息子のメルキオールとその少年との婚約を快く受け入れて祝福してほしい。なにせこのアカシャの皇族に久しぶりに運命の番が現れたのだ。これは嬉しい事であり、我が国の繁栄はますます約束されたも同然だ。運命の番を引き離そうとすればするほど災いを呼ぶが、祝福すればするほど逆に幸福を呼び寄せる。神のご加護が宿っているのだから」

　陛下の言葉に異論のあった勢力はほぼ消える。表向きは納得したように見えて隠れて反対している者もいるだろうが、厄介な連中以外は泳がせておく事にする。

　こうしてメルキオールの婚約発表を終えた。



　その後、夜会は滞りなく進み、メルキオールの番の相手は平民だとこの場にいる全王族と貴族達の間に広まり、たちまち話題となった。祝福する声が圧倒する中で、やはりまだ納得のいかない声もチラホラ上がっている。しかし、運命の番の災いを呼び寄せてしまう恐れがあるので、大っぴらに不満を言える者はいない。

　メルキオールに一方的な恋慕を抱きながらも運命の番に横取りされて涙を流す貴族令嬢もいれば、皇妃の座に目がくらんでその立場を狙っていた某国の姫君は悔し気にハンカチを噛んでいる。ぜひ娘を皇妃にと目論んで小さい頃から皇妃教育をしていた父親は出鼻をくじかれて肩を落とし、テジャス国の宰相は自国の姫君との縁談を進めようと懸命にロビー活動を頑張ったがその甲斐むなしく潰えていた。

　それぞれの国の貴族達の思惑は、運命の番という絶対的に引き離すことのできない繋がりに敗れ去った。そして、個人的感情を抱くだけならいざ知らず、私利私欲目的で縁談を企てようとした者達の周りには、後になって小さな不幸がそれぞれの国で起こり、後悔するも後の祭りであった。


「メルキオール殿下！」

　メルがベールで顔を隠しているパスカルと会話をしていると、レナードがカクテル片手にやってきた。

「レナード……お前はまだあの女と付き合っているのか」
「え、そりゃあもちろん。やはりどんな彼女も受け入れてあげるのが恋人の役目でして「聞き捨てなりませんな、レナード殿下」

　そこには眼鏡をかけた七三分けの髪型の男が眼鏡をくいっと持ち上げている。

「リリアはぼくのものですよ。ぼくだけの女神なのですから、いい加減に殿下は諦めてください」
「レイモンド、またキミか。いつも私がリリアとデートに向かう先々で待ち伏せとかシュミが悪いにも程があるよ。暇なのかなキミは」
「それはこちらの台詞ですよ、殿下。王太子ならたくさんのお仕事があるのでは？」
「あんっ、二人とも私のためにケンカをしないでっ！私、どっちも大好きなんだからっ！」

（リリア！？）

　なんでこの女がここにいるんだよ！と、口を金魚のようにパクパクさせて見ているパスカル。そして、そのつまらない茶番のようなやりとりを呆れて見ているメルキオール。