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一章最低最悪な出会い

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「はじめまして、架谷甲斐です。よろしくおねげーしまーす」

 佐伯先生に案内された二年Eクラスの教室でさっそく自己紹介。
 みんなワーッと拍手をしてくれて、雰囲気的に割と歓迎されているようである。
 幼馴染の神山さん、小柄な宮本君、坊主頭の本木君もいる。もちろん目をキラキラさせている健一も。
 とりあえず俺が来たからには彼らを秘密の花園とやらの餌食になんてさせない。糞四天王からの襲撃も防ぐ。デブ理事長と髭ヅラ校長もいつか絶対豚箱に放り込む。この学校の洗礼なんかに負けるか。

 Eクラスの顔ぶれを眺めていると、窓際の後ろの席でぼうっと外を眺めている金髪ショートの美少女が目に付いた。
 見た目はDQNってカンジだが、どこか薄幸そうな雰囲気を漂わせていて、こちらに全く興味を示そうとせず、ひたすら外ばかり眺めている姿に興味を引かれた。 
 神山さんや佐伯先生とはまた違った美しさというかクール系美少女だ。可愛い系というより美人系か。
 ぶっちゃけるとあのボーイッシュな感じが結構タイプ……なーんてな。俺は二次元では金髪ショート女子が好きなので反応しちゃっただけだ。

 そんな中で、金髪美少女らのように一部自分の世界にこもっているようなのが何人かいたが、中学時代ボッチを体験している俺からすれば気持ちがわからないでもない。ようするに面倒な事に関わりたくないからボッチを貫き通すってやつか。一人でいる方が楽だもんな。わかるぞ、うん。

 それにしても勉強の出来などでクラスが決まるって話だが、Eクラスに入れられるのは成績が悪いってのもあるんだろうけど、なんの由緒もない家柄も理由になる話だから、クラス編成は単純な振り分けだけではないようだ。
 外部編入生は無条件にEクラス行きとは聞いているが、家柄や成績が総合的に優れていればEより上のDクラス以上になる事もあるので、外部編入生だからといってEクラスになるというわけではないらしいし。

 なんか優劣をつけられているみたいで嫌な学校だな。これぞ学園カーストというやつか。
 貧乏人な俺にとっては面倒くせぇ世界だよ。そもそも村人その1レベルの俺にとってはお貴族社会に紛れて生活するのはひどく畑違いで憂鬱な気分。お先真っ暗。
 ちなみに俺は成績関連で当然Eクラスにぶち込まれるのはわかっていた。まじで勉強だけはダメだからな。あと家も貧乏な方なので間違いなく下級階級である。


「転校生と聞いて甲斐だったなんてびっくりしたよ」

 自己紹介後、中学以来の健一と改めて再会を祝った。
 中学の卒業式以来の再会で、卒業間近に佐伯先生相手に告白して玉砕した思い出がよみがえってくる。
 あの時、どうあがいても教師と生徒の関係なんて許されないし、歳の差十歳差な先生からしたらそりゃお断りするだろうとわかっていた。その通り、見事に玉砕した健一は落ち込んでいたが、甘酸っぱい青春の思い出ができてこれで俺も成長したぜと前向きだったのがよかった。でも開星に入ってまた佐伯先生と再会して健一としては複雑だろうな。過去の失恋を掘り返す形となってさ。

「都内の高校を受験するとは言っていたけど開星だったんだな」
「実家の呉服屋が繁盛しまくってな、そのおかげでこの金持ち御用達学園ってわけよ。赤点マシーンな俺が入れる高校なんて限られてるし、せいぜいDQN高校くらいしか入れない俺だから開星一本しかなかったわけなんだけどな。開星なんて金さえあれば入れる学校だろ?高校には入っとけって事で開星に放り込まれたわけよ。入学した途端後悔しまくったけど。聞いてるだろ?ここの学園の噂とか」
「まあ、それなりに」

 四天王の糞野郎共とか秘密の花園とかな。あんな奴らがのさばっているこの学園は異常だ。

「甲斐もよく開星に来たよな。こんな学費がクソ高い学園に。世間では華の開星と言われているが、中身は最低最悪な学園カーストがまかり通る変態学園。フツーなら絶対入学したくないよ」
「いろいろあって成り行きで入学できたんだ。最初はこんなお高い学園になんて入らずに定時制高校行くつもりだったんだけど、パトロンというかなんというか……そんな人がいて、だな。あと見学会でEクラスの苦労とかを聞いたら放っておけなくて」

 百合ノ宮にいる友里香ちゃんの顔が思い浮かぶ。あの銀髪野郎の妹だなんて信じられないくらいのまともな妹さんである。ちょっと腹黒で高飛車そうだったけど。

「へぇーやっぱ甲斐はすげーなぁ。Eクラスのためってのもありがたいけど、いろいろスケールが違うというか」
「なにが?」
「パトロンなんてさすが親びんだなと思って。そんなのどこから見つけたんだ?」
「それは偶然なんだよ偶然。妹関連でちょっとした出会いがあってだなー、つかそれよりお前……佐伯先生のクラスの担任になったけど平気なのかよ」

 話を変えるように健一の初恋相手の話題に切り替えた。パトロンなんて話は情けなくてあまりしたくないしな。あ、でもこの話題も下手すりゃ地雷かも……すまん。

「あー佐伯先生な。俺、考えたんだけどさ、学生だからダメだと思ったんだよ。まだ収入も親の助けを借りないと生活できないガキだろ。ようするに、ちゃんと収入を得て立派な社会人にならねーと同じ土俵に立ったとは言えないし、見向きもされないだろうなあって思って」
「その台詞だと諦めてないって事か?」
「まあね。やっぱ再会しちゃったからには先生が結婚するまでは諦めきれなくなってさ。ちゃんとした社会人になってから改めて先生に告ろうと思うんだ」
「そうか。困難だろうががんばれよ、応援してる」

 恋に前向きな健一は見ていて楽しいものだ。青春っていうジャンルは二次元でも羨ましかったからね。俺的には主人公の恋を応援するお助けキャラ的な位置でいたい。
 しかし、俺は色恋沙汰は二次元などで(エロ含む)知識を豊富に得ている方だが、所詮は現実では通用しない手法なのでいいアドバイスは送れない。が、相談にはいつも乗ってあげようと思っている。初めてできた友人の記念すべき初恋だからな。大事にしたいのだ。

「とりあえずはこのクソ学園を無事に卒業できるかどうかだよな」
「それな」

 これからいろいろ面倒なことに巻き込まれていくのかなと思うと暗澹たる思いだ。
 でもそれを乗り越えれば平穏が必ずくるはず。
 まずは無事卒業まで乗り切ること。クソ四天王をやりすごし、秘密の花園とやらの壊滅が目標。
 

「君が噂の架谷君なんだね」

 健一と会話をしていると、赤毛の大きなシニヨンが印象的な今時のギャルを筆頭に数人が集まってきた。その中に神山さんや宮本君や本木君もいる。三人とも久しぶりだな。

「聞いたわよ。変態理事長共から仲間を助けてくれたんだってね。理事長の周りにいる用心棒共をしかもあっさりやっつけたって話で、みんな架谷君が来てくれるのを待ってたのよ」
「えーと……あんたは?」
「あたしは二ノ宮由希にのみやゆき。架谷君の幼馴染の悠里ちゃんとは中学が一緒だったのよ」

 神谷さんの方を見ると照れたように頷いている。

「へぇーそうなのか。てことは神山さんは都内に転校してたんだ」
「うん、そうなんだ。都内暮らしに慣れない私をいつも助けてくれたのが由希ちゃんだった。開星でも理事長らにいい寄られていた時は、いつも由希ちゃんが私を守ってくれたから頼りになる姐御なんだよ」
「あら頼りになるだなんて照れるじゃない。じゃあこれからは架谷君に守ってもらいなよ。強くて頼もしいって話だし」
「……え、あ、ぅうん……!」

 真っ赤になっている神山さん。照れ屋だな。

「神山さん?」
「なんでもないよ!」

 慌てて顔を振る神山さんはあの頃とは変わっていない。小学校の時より女の子らしくなっている。

「なあ甲斐。いつの間に神山さんといい感じになってたんだよ!俺、知らないぞそんな話っ」

 健一がこそこそと俺に耳打ちをしてくる。

「え、いい感じ?そうかな」
「そうかな、じゃないだろ!あんな美少女と幼馴染だったなんて!しかも甲斐を見る目が完全にときめいてる感じだったよ」
「そりゃ光栄だなあと思うよ。いい幼馴染だと思ってる」
「いい幼馴染みって……それだけか?」

 健一が訝しそうに俺を覗いてくる。

「それだけだろ」

 それ以上に何を思えと。

 神山さんは俺にとって特別だ。俺が小学校時代に唯一、俺自身を信じてくれた女の子だから特別なのである。別にそれ以上どうかなんて思えない。だって俺キモオタだもの。女嫌いなキモオタは二次元にハアハアしてりゃあ満足。現実の色恋には興味ナッシングなわけ。

「架谷君て、あの四天王の矢崎直を相手に啖呵を切ったって宮本君が自慢のように話をしていたわよ」
「じ、自慢のようにって……そんな事……」

 今度は宮本君が頬を赤くさせている。あれ俺ってそんな御大層なことしたっけ。

「最初はにわかに信じられなかったけど、宮本君や本木君が興奮しながら話をしていたから本当みたいね。あの四天王に口答えできるって相当すごい事なんだから。しかもあの恐ろしい矢崎直相手に。架谷君て度胸あるよね」
「度胸かどうかわからないけど、あいつに偉そうにされて黙ってられなかったんだ。あ、甲斐でいいよ。呼び方」
「じゃあそう呼ぶわ。で、相手はあの日本最大の矢崎グループの御曹司な事知ってるでしょ?」
「知ってるけど……」

 あとで仕返しされるかもしれないから身辺には注意しとかないとな。

「あ、そういえばさっき矢崎の野郎から従者にしてやるとかなんとか言ってやがったけど、従者ってよくわかんないんだけど」
「じゅ、従者って……」
「うそー……」

 俺以外のその場の皆が青白い顔をして固まった。なんなんだ従者って。もしかしてその言葉通りのパシりってことか?

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