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街の明かりと冬の匂い
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『街の明かりと冬の匂い』
近衛 優馬(このえ ゆうま):高校二年生。男
芹沢 彩香(せりざわ あやか):高校二年生。女
優馬(語り) 11月も下旬、空気は冷たく肌を刺し、車の排気ガスが混じったような少し鼻につく臭いがする。空はすでに暗くなってきていて、街の明かりが少し眩しい。隣を歩く幼馴染は、寒そうに手をこすり合わせて震えている。
彩香 「ふぃ~、もうすっかり冬だね~」
優馬 「そうだな」
彩香 「そうだ、コンビニ寄ってかない? 肉まんが食べたい」
優馬 「どうせ俺が払うんだろ」
彩香 「あたり~、今日はお財布忘れちゃったから」
優馬 「今日も、だろ」
彩香 「そうとも言う~」
優馬 「まったく。今度なんか奢ってもらうからな」
彩香 「今度ねー」
信号が赤になり、二人の足が止まる。
彩香 「あ、雪虫」
優馬 「……そろそろ雪が降るな」
彩香 「あー、除雪を思うと憂鬱だねー」
優馬 「そうだな。でも、うちのアパート、業者入るから」
彩香 「そういえばそうだったねー。うらやましい」
優馬 「って青だ。行こう」
彩香 「うん。……そういえばさ、進路、どうするの?」
優馬 「今のところは公務員だな。彩香は……?」
彩香 「うーん、製菓の専門学校にしよっかなって」
優馬 「お菓子作り、得意だもんな」
彩香 「うん。……って、この話、何回目?」
優馬 「彩香から始めただろ、この話」
彩香 「そうだっけ?」
優馬 「そうだよ。そういえば、専門学校って市内?」
彩香 「うん、ここらへんかな」
優馬 「彩香だったら、もっといいとこ行けるんじゃねえの?」
彩香 「もう、買いかぶりすぎ。それに、ここがいいの」
優馬 「そうかよ」
彩香 「優馬は?」
優馬 「市内、だといいな」
彩香 「じゃあ、まだ一緒にいれるね」
優馬 「……腐れ縁だろ」
彩香 「そうとも、言うね……」
優馬 「……にしても、すっかり冬になってきたな」
彩香 「そだね」
優馬 「あ、そうだ、肉まんな」
彩香 「うーん、気分じゃなくなったからいいや」
優馬 「お前ってやつは」
彩香 「てへへ~」
優馬 「……ふ」
彩香・優馬 「ははは」
その会話を最後に、二人の会話は途切れた。
地下への階段を降り、地下鉄の駅まで歩く。
SE)地下鉄到着
彩香 「……ねえ、久しぶりに優馬の家いっていい?」
優馬 「今からだったら遅くなるだろ」
彩香 「いいの! どうせ一人で寂しくしてるんでしょう?」
優馬 「なわけないだろ。この生活なんて、もう5年目だぞ」
彩香 「まあまあ、いいじゃん。こんなかわいい幼馴染が押しかけてやるって言ってるんだよ」
優馬 「うっせー。おばさんはともかく、おじさんにバレたら殺されかねない」
彩香 「優馬は、いや? 私が優馬の家に行くの」
優馬 「いや、そういうわけじゃないけど」
彩香 「優馬、変な理由つけて、私のこと家に入れないよね。いつからだったかは忘れたけど」
優馬 「いや、それは……、ほら、周りになんか変な勘違いされたくないし」
彩香 「……勘違い、されたらダメなの?」
優馬 「んなっ!」
彩香 「ありゃ、意外と効果あり。私ってば魔性の女……!?」
優馬 「お前……!」
彩香 「ほら、もう着くよ」
優馬 「え? ああ」
二人は地下鉄を降り、改札を通る。
彩香 「スーパー、寄っていいでしょ」
優馬 「いいけど、彩香、財布は?」
彩香 「やっぱりあったから大丈夫。というか、優馬の分も買うから7割くらいは出してよー」
優馬 「俺の分?」
彩香 「うん、だって、優馬の家に行ったらご飯作らなきゃだし」
優馬 「俺の家に来るって話、冗談じゃなかったのか」
彩香 「なんか、今日行かなかったら、私たちずっとこのままな気がして……」
優馬 「…………」
彩香 「だから、優馬の家、行ってもいいでしょ?」
優馬 「……スーパー、行くんだろ? だったら早く行こうぜ」
彩香 「うん!」
優馬 「ここ出てすぐのとこでいいよな?」
彩香 「うん。まあ、こだわりないし」
優馬 「あ、お前、おばさんに連絡しとけよ?」
彩香 「そだね」
彩香 「……えーと、『優馬の家でご飯食べます。もしかしたら泊まるかも……』」
優馬 「おい、冗談はよせ!」
彩香 「あはは、打っただけ打っただけ! ……あ」
優馬 「どうした?」
彩香 「押ささっちゃった……!」
優馬 「なっ! 早く取り消せ!」
優馬は彩香のスマホを取り上げ、取り消そうとするが、すでにメッセージの下には既読の文字が表示されていた。
優馬 「…………!!」
彩香 「え、どうしたの?」
彩香母 『あら! 明日はお赤飯にしなくちゃね。頑張ってね♡』
彩香 「お母さん!!」
優馬 「おばさん、いつも通りだな」
彩香 「ちょっと優馬をからかおうと思っただけなのに」
優馬 「彩香、帰った方がいいんじゃないか?」
彩香 「……いや、このまま帰ったら、お母さんがお父さんにあることないこと吹き込むから、家族会議になっちゃうよ」
優馬 「いや、そうはならないだろ」
彩香 「それがなるんだよ」
優馬 「じゃあ、最初からそんな紛らわしいことすんな」
彩香 「いやー、そんなこと言わずにお願い」
優馬 「……まあ、承諾したのは俺だしな」
彩香 「やった! めちゃくちゃ美味しいごはん作るから!」
優馬 「……期待してるわ」
階段を上がり、地下一階のスーパーに入る。夕飯時から少しずれてるからか、混雑はしていなかった。
彩香 「優馬は、なに食べたい?」
優馬 「ん? なんでも……」
彩香 「なんでもいい、はなしだからね」
優馬 「ぐっ! ……じゃあ、彩香の作りやすいものでいいよ」
彩香 「じゃあ、パンにジャムでいいね」
優馬 「俺が悪かった」
彩香 「わかればよろしい。それで、なにが食べたい?」
優馬 「そうだな、鍋とかかなー」
彩香 「お、いいねー。じゃあ、手羽先と大根のやつにしよう」
優馬 「あ、美味しいやつだ」
彩香 「うん、早く材料買って帰ろ」
二人は会計を済ませ、スーパーを出た。
彩香 「よし、早く帰ってお鍋の準備しなきゃ」
優馬 「そうだな」
彩香 「ほんと久しぶりだなー、優馬の家。少し遊んでっていいでしょ?」
優馬 「いいけど、遅くなると、それこそ家族会議になるだろ」
彩香 「まあまあ、少しくらいいいじゃん、どうせ明日学校休みなんだし」
優馬 「お前な、少しは警戒しろよ、俺だって男なんだぞ」
彩香 「えー? 優馬は優馬だよー」
優馬 「いや、だから、そういうことじゃなくて……」
彩香 「じゃあ、どういうこと?」
優馬 「その、俺だって男なわけだし、彩香にヘンなコトするかもしれないだろ?」
彩香 「……優馬だったらいいよ?」
優馬 「は? お前、なに言って……!」
彩香 「って、なに言ってるんだろう、私! 早く行こ」
優馬 「お、おう」
彩香 「き、今日だけじゃないよね? 優馬の家行けるの」
優馬 「当然だろ」
彩香 「ほんと?」
優馬 「本当だ」
彩香 「やった! ……へくちっ」
優馬(語り) 地上に出ると、空気は冷たく澄んでいて、街の温かさを感じる匂いがした。もうすでに日は落ちて、街の明かりがキラキラと輝いている。俺は、少し前を歩く幼馴染の少し赤くなっている手を取った。
彩香 「え、優馬?」
優馬 「こうしたら、少しは寒さも紛れるだろ?」
彩香 「……! うん、あったかいね」
近衛 優馬(このえ ゆうま):高校二年生。男
芹沢 彩香(せりざわ あやか):高校二年生。女
優馬(語り) 11月も下旬、空気は冷たく肌を刺し、車の排気ガスが混じったような少し鼻につく臭いがする。空はすでに暗くなってきていて、街の明かりが少し眩しい。隣を歩く幼馴染は、寒そうに手をこすり合わせて震えている。
彩香 「ふぃ~、もうすっかり冬だね~」
優馬 「そうだな」
彩香 「そうだ、コンビニ寄ってかない? 肉まんが食べたい」
優馬 「どうせ俺が払うんだろ」
彩香 「あたり~、今日はお財布忘れちゃったから」
優馬 「今日も、だろ」
彩香 「そうとも言う~」
優馬 「まったく。今度なんか奢ってもらうからな」
彩香 「今度ねー」
信号が赤になり、二人の足が止まる。
彩香 「あ、雪虫」
優馬 「……そろそろ雪が降るな」
彩香 「あー、除雪を思うと憂鬱だねー」
優馬 「そうだな。でも、うちのアパート、業者入るから」
彩香 「そういえばそうだったねー。うらやましい」
優馬 「って青だ。行こう」
彩香 「うん。……そういえばさ、進路、どうするの?」
優馬 「今のところは公務員だな。彩香は……?」
彩香 「うーん、製菓の専門学校にしよっかなって」
優馬 「お菓子作り、得意だもんな」
彩香 「うん。……って、この話、何回目?」
優馬 「彩香から始めただろ、この話」
彩香 「そうだっけ?」
優馬 「そうだよ。そういえば、専門学校って市内?」
彩香 「うん、ここらへんかな」
優馬 「彩香だったら、もっといいとこ行けるんじゃねえの?」
彩香 「もう、買いかぶりすぎ。それに、ここがいいの」
優馬 「そうかよ」
彩香 「優馬は?」
優馬 「市内、だといいな」
彩香 「じゃあ、まだ一緒にいれるね」
優馬 「……腐れ縁だろ」
彩香 「そうとも、言うね……」
優馬 「……にしても、すっかり冬になってきたな」
彩香 「そだね」
優馬 「あ、そうだ、肉まんな」
彩香 「うーん、気分じゃなくなったからいいや」
優馬 「お前ってやつは」
彩香 「てへへ~」
優馬 「……ふ」
彩香・優馬 「ははは」
その会話を最後に、二人の会話は途切れた。
地下への階段を降り、地下鉄の駅まで歩く。
SE)地下鉄到着
彩香 「……ねえ、久しぶりに優馬の家いっていい?」
優馬 「今からだったら遅くなるだろ」
彩香 「いいの! どうせ一人で寂しくしてるんでしょう?」
優馬 「なわけないだろ。この生活なんて、もう5年目だぞ」
彩香 「まあまあ、いいじゃん。こんなかわいい幼馴染が押しかけてやるって言ってるんだよ」
優馬 「うっせー。おばさんはともかく、おじさんにバレたら殺されかねない」
彩香 「優馬は、いや? 私が優馬の家に行くの」
優馬 「いや、そういうわけじゃないけど」
彩香 「優馬、変な理由つけて、私のこと家に入れないよね。いつからだったかは忘れたけど」
優馬 「いや、それは……、ほら、周りになんか変な勘違いされたくないし」
彩香 「……勘違い、されたらダメなの?」
優馬 「んなっ!」
彩香 「ありゃ、意外と効果あり。私ってば魔性の女……!?」
優馬 「お前……!」
彩香 「ほら、もう着くよ」
優馬 「え? ああ」
二人は地下鉄を降り、改札を通る。
彩香 「スーパー、寄っていいでしょ」
優馬 「いいけど、彩香、財布は?」
彩香 「やっぱりあったから大丈夫。というか、優馬の分も買うから7割くらいは出してよー」
優馬 「俺の分?」
彩香 「うん、だって、優馬の家に行ったらご飯作らなきゃだし」
優馬 「俺の家に来るって話、冗談じゃなかったのか」
彩香 「なんか、今日行かなかったら、私たちずっとこのままな気がして……」
優馬 「…………」
彩香 「だから、優馬の家、行ってもいいでしょ?」
優馬 「……スーパー、行くんだろ? だったら早く行こうぜ」
彩香 「うん!」
優馬 「ここ出てすぐのとこでいいよな?」
彩香 「うん。まあ、こだわりないし」
優馬 「あ、お前、おばさんに連絡しとけよ?」
彩香 「そだね」
彩香 「……えーと、『優馬の家でご飯食べます。もしかしたら泊まるかも……』」
優馬 「おい、冗談はよせ!」
彩香 「あはは、打っただけ打っただけ! ……あ」
優馬 「どうした?」
彩香 「押ささっちゃった……!」
優馬 「なっ! 早く取り消せ!」
優馬は彩香のスマホを取り上げ、取り消そうとするが、すでにメッセージの下には既読の文字が表示されていた。
優馬 「…………!!」
彩香 「え、どうしたの?」
彩香母 『あら! 明日はお赤飯にしなくちゃね。頑張ってね♡』
彩香 「お母さん!!」
優馬 「おばさん、いつも通りだな」
彩香 「ちょっと優馬をからかおうと思っただけなのに」
優馬 「彩香、帰った方がいいんじゃないか?」
彩香 「……いや、このまま帰ったら、お母さんがお父さんにあることないこと吹き込むから、家族会議になっちゃうよ」
優馬 「いや、そうはならないだろ」
彩香 「それがなるんだよ」
優馬 「じゃあ、最初からそんな紛らわしいことすんな」
彩香 「いやー、そんなこと言わずにお願い」
優馬 「……まあ、承諾したのは俺だしな」
彩香 「やった! めちゃくちゃ美味しいごはん作るから!」
優馬 「……期待してるわ」
階段を上がり、地下一階のスーパーに入る。夕飯時から少しずれてるからか、混雑はしていなかった。
彩香 「優馬は、なに食べたい?」
優馬 「ん? なんでも……」
彩香 「なんでもいい、はなしだからね」
優馬 「ぐっ! ……じゃあ、彩香の作りやすいものでいいよ」
彩香 「じゃあ、パンにジャムでいいね」
優馬 「俺が悪かった」
彩香 「わかればよろしい。それで、なにが食べたい?」
優馬 「そうだな、鍋とかかなー」
彩香 「お、いいねー。じゃあ、手羽先と大根のやつにしよう」
優馬 「あ、美味しいやつだ」
彩香 「うん、早く材料買って帰ろ」
二人は会計を済ませ、スーパーを出た。
彩香 「よし、早く帰ってお鍋の準備しなきゃ」
優馬 「そうだな」
彩香 「ほんと久しぶりだなー、優馬の家。少し遊んでっていいでしょ?」
優馬 「いいけど、遅くなると、それこそ家族会議になるだろ」
彩香 「まあまあ、少しくらいいいじゃん、どうせ明日学校休みなんだし」
優馬 「お前な、少しは警戒しろよ、俺だって男なんだぞ」
彩香 「えー? 優馬は優馬だよー」
優馬 「いや、だから、そういうことじゃなくて……」
彩香 「じゃあ、どういうこと?」
優馬 「その、俺だって男なわけだし、彩香にヘンなコトするかもしれないだろ?」
彩香 「……優馬だったらいいよ?」
優馬 「は? お前、なに言って……!」
彩香 「って、なに言ってるんだろう、私! 早く行こ」
優馬 「お、おう」
彩香 「き、今日だけじゃないよね? 優馬の家行けるの」
優馬 「当然だろ」
彩香 「ほんと?」
優馬 「本当だ」
彩香 「やった! ……へくちっ」
優馬(語り) 地上に出ると、空気は冷たく澄んでいて、街の温かさを感じる匂いがした。もうすでに日は落ちて、街の明かりがキラキラと輝いている。俺は、少し前を歩く幼馴染の少し赤くなっている手を取った。
彩香 「え、優馬?」
優馬 「こうしたら、少しは寒さも紛れるだろ?」
彩香 「……! うん、あったかいね」
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