ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

独りの獲物

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「場瀬さん…」
「通報のあった“獣”は…お前の連れだな」
「!」
「奴らはすぐそこまで来ている。一般人はほとんど神社内から追い出されたから派手に動いてくるかもしれない。事が大きくなる前に奴らの元に帰れ」
「…また、俺を逃がすんですか」

 場瀬の意図が読めず、どうして、と目で訴えれば無表情のまま場瀬は眉を寄せた。

「小学生の時から蓮を見ているが、お前に向ける関心はどんなモノよりも強い。虜になっていると言っていい」
「…」
「特に例の動画でお前を見つけてからは酷い…。一度逃げられているから今度は絶対逃がすまいと躍起になっている。普段の蓮では考えられないほど愚かな、後先考えない行動の数々。…ハッキリ言って今の蓮は見てられない」

 場瀬は扉に拳を叩きつけた。ゴン、と重い音が響く。

「蓮が身を滅ぼす前にお前を引き離す必要がある。だから逃がす。それだけだ」
「場瀬さん…、」
「わかったなら早く出て行け。あと五分もすれば蓮が戻ってくる。今の怒り狂った蓮は何をするかわからない。下手したら殺されるぞ」

 俺に死体の処理をさせる気か、そう告げるように場瀬が睨みつけてくる。俺は床から腰を上げ、そしてその目を真っ向から睨み返した。

「…ダメです」
「なんだと?」
「俺にはまだここでやる事がある…だから逃げません」

 ここ、本殿には桐谷の悪事の証拠が詰まってる。地下牢で寝かされている人達、祈祷という名のレイプ現場、今の俺の体だって…証拠になりうる。これら全てを揃えて訴えれば確実に桐谷を追い詰められる。スマホは盗られて手元にないが、鳴海は「生贄は元の位置に戻す」と言っていたし、諸々の荷物が地下牢のどこかに保管してあるはずだ。
 (荷物を探して、スマホで証拠の写真を撮って…地下の人達も助けねえと…)

 がしっ

 俺が地下牢へ向かおうとすると、場瀬に腕を掴まれた。振り向けば物凄い形相の場瀬が見下ろしてくる。こんなに感情を露わにした場瀬は初めて見た。

「お前のその負けん気…どうにかならないのか??そういう所が蓮をそそのかすんだぞ!お前が泣き事の一つでも言えば蓮も興味が失せたのに、そうやって噛みつき続けるから桐谷は三年間も手放さなかった!」
「…離してください」
「その上お前は周囲に助けを求める事もしない!たった一人で集団を率いる蓮に立ち向かえると思ってるのか?いいか、蓮は集団の中にいる獲物は狙わない。一人で行動する事もしない。それは独りの弱さを知っているからだ。強がり、独りでいる事を選ぶお前は、蓮たち捕食者にとって良いカモなんだといい加減理解しろ!」
「…!!」

 場瀬の言葉にハッとさせられた。図星だった。俺は頼るべき時に頼れない。自分の弱さを見せたくないというちっぽけな自尊心を守る為に相手を遠ざけてしまう。ふとフィンの顔が浮かぶ。

 “せめて一言ぐらいは残してくれ。本当に心配したんだぞ、ライ”

 その気遣う言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられた。中学の時も、今も、幸運な事に俺には手を差し伸べてくれる者がいた。なのに俺はそれを突っぱねて自ら桐谷の元へ行っていた。もちろん悪行を働く桐谷が一番悪いのだが、
 (俺も自業自得だ…)
 俯き、自分の腕に食い込む場瀬の指先を捉え、更に顔をしかめる。

「…場瀬さん、ありがとうございます」 

 この指先も歪ではあるが差し伸べられた手の一つだ。俺はそれを一つずつ剥がして、場瀬に正面から向き合って…頭を下げた。

「何の真似だ」
「場瀬さんの助言がなかったら中三の時、桐谷から逃げられませんでした。あの時はいっぱいいっぱいで…礼を言えてなくてすみません」
「…お前の礼を聞く為にやったわけじゃない」
「それでも、言わせてください。ありがとうございます。場瀬さんにはたくさん…今週だってずっと助けてもらって…、本当に感謝してます」

 精一杯の感謝を込めてもう一度頭を下げてから…顔を上げた。

「できたら恩人である場瀬さんの願いを叶えたい。そう思ってます。でも、すみません。これだけは譲れないんです」

 俺が立ち去らないままでいると、場瀬は怒りを眉間の皴に刻んだままガシガシと短い黒髪を掻いた。

「蓮の気持ちが…少しわかった。お前のそういう所が腹立つんだろうな」
「…すみません」
「改める気がない謝罪に意味はない」

 その通りだなと思い、口を閉じた。しかし数秒の間の後、俺はどうしても引っ掛かる事があって、迷った挙句口にしていた。

「あの、どうして場瀬さんは桐谷を気にかけるんですか?」
「どういう意味だ」

 唸るように言われ、その探るような目を真っすぐ見つめた。

「あんたは桐谷の事を、ずっと、それこそ一番近くで見てきていたはず。だったらアイツの…悪行も、クズさも知ってますよね。笑って犯罪を犯すようなあんな男の傍に、なんであんたは居続けるんですか」

 ここまでの行動で場瀬には少なからず良心が存在するとわかっている。行為後の俺にタオルを渡したり、森の中で気絶した俺を起こしたり、たとえ行動の動機が“桐谷の為"だとしても放っておけばいい所にわざわざ手を貸してるのだ。ありきたりな人助けの良心が場瀬にはある。それが桐谷といる事で苦しめられないのかと思った。
 (小学生から見ているって事は二十年以上の関係だ)
 金、腐れ縁、脅し、どの理由も男同士で二十年以上一緒にいるには理由が弱い。幼馴染として月一で会うのとは話が違う。ほとんど毎日顔をつき合わせる形で二十年。よっぽどの理由のはず。
 
「…」

 俺の問いに場瀬は一瞬迷うように瞳を揺らし、それから本殿の床の、くしゃくしゃに乱れた白い布へ視線を移す。言うか迷ってるのか唇が震えていた。待ち続けていると、場瀬は一度首を振って、深いため息を吐いた。

「…お前達、被害者からしたら……蓮はクズ野郎にしか見えないだろうが…、友人としての蓮は…そこまで悪い奴じゃない」

 重苦しい表情で絞り出された言葉。驚く程優しく吐き出された“友人”という単語。それで、ストンと腑に落ちた。
 (友人としての蓮、か…)
 場瀬にとって桐谷は大切な友人で、だから支え続ける。一緒にいる。桐谷が一番信用しない金の絡まない“感情"故の動機。それがこんな近くに潜んでいる事は桐谷もきっと知らないだろう。

「そう…なんですね」

 今の台詞で場瀬の事を少し理解できた俺は、場瀬の立ち位置を思い、余計苦しくなった。

「場瀬さん、このままじゃ…あんたは絶対後悔する」
「…」
「大切にするってのは罪を隠す事じゃない。本当に桐谷の事を思うのなら…」
「――黙れ!!」

 ドン!!

 場瀬は俺の言葉を遮って、強い力で胸を押してくる。あまりにも強い力で後退ってしまう。

「もうお喋りはいい。俺は忠告した。それでも逃げないのなら…お前はここでの行為にとして、いくら泣き喚こうが、獣が来ようが誰も立ち入らせない。助けない。自分の選択を恨め」
「場瀬さん!」

 ガタンッ

 荒々しい音と共に扉が閉められた。俺は薄暗い本殿で一人立ち尽くし、

 カサ

 何かが擦れる音がして視線を下に向ける。

「…なんだこれ」

 浴衣の隙間にお面が挟まっていた。胸を押される際に押し付けられたのだろうが、お祭りによくあるプラスチック素材のキャラクターもののお面はやけに既視感があった。 

「どこで見たっけ…?あ、」

 “あそこには寂しがりの神様がいるって知ってる?”

 屋台で声をかけてきた男。あの男もこれと同じお面をつけていたのを思い出す。まさかそんな偶然が起きるものなのかと驚いたが、お面の裏側を見て、更に驚かされる。

「!!」

 シャン、シャン、

 遠くから鈴の鳴る音がしてギクリと体が固まる。神社内の鈴じゃない。鈴なりになったものが重なって振られるような音は徐々に近づき、やがて本殿の扉の前で止まる。

 ガタン…

「さぁて、さっきの続きをしようぜ、雷クン」

 般若の形相の桐谷が、鳴海を従えて、本殿に入ってきた。
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