ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

★バードショー

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「「「 ベルちゃーーん!! 」」」


 観客が声を揃えてその名を叫んだ。すると、一匹のネコがステージ端から現れた。全身白毛のラグドールで、そこまで珍しいネコではないと思うが観客からはワアアッと今日一番の歓声が上がる。

「バードショーでネコ…?」
「ここの看板猫らしいぜ。元々は捨て猫で飼育員が保護したら住み着くようになったとかなんとかぁ……ふあ~あ…」

 ソルがスマホを弄りながら解説してくれた。
 (どうりで園内のポスターに必ずネコのイラストがあったわけだ…)
 ベルはとても芸達者で、お手・お座りから始まり、綱渡り、空中回転(宙返り)、スラロームなどのスタッフとの連携芸もなんなくこなした。しかも、ベルの魅力は賢さだけでなかった。

「じゃあベル、この花を皆にプレゼントして」

 スタッフに花束を渡されて、ベルは一つずつ咥え、座席にいる子供達に差し出していく。

「ありがとう!ベルちゃん!」

 子供が嬉しそうに花を握り締めるのをベルはぺこりと頭を下げて応えた。次の子供には尻尾を擦りつけて甘えるように応えて、それからまた一人、もう一人とそれぞれ異なった“ファンサ”をしながら渡していく。なんて愛想の良いネコなのだろうと感動した。
 (これは確かに看板として愛されるだろうな…)
 まるでアイドルのように観客の心を掴んでいくベルを驚きと共に見守る。

「じゃあべルちゃんとのお写真タイムに入ろうと思います!ベルちゃんと撮りたい人~!」

「「「はいはい!」」」

 元気に子供達が挙手する。スタッフがランダムに子供達を選び、ステージ上に上がらせていく。その時だった。


 キィイイッ!!


 ステージ裏からつんざくような鳥の鳴き声が響く。一瞬そういうイベントなのかと思ったが

「落ち着いてください!!」
「皆!こっちに隠れて!」
「頭を下げて!」

 スタッフが焦った様子でステージ上の子供達を誘導していくのを見て、只事じゃないとわかる。


 キィイイーッ!


 再び鳴き声が響き、屋根スレスレの位置で飛んでいくタカが見えた。演目が終わったタカの足には紐がくくられ逃げられないようにされていたはずだが、何かのトラブルで切れてしまったのだろう。キャアアっと観客が悲鳴をあげるとタカは更に興奮状態になってステージと座席の上をビュンビュン飛び回って暴れた。あの速さで嘴や爪がかすれば大怪我になる。座席に身を隠せる観客はいいがステージ上は障害物も少ない。

「いやあああっ」

 嫌な予感は的中し、ステージの端で一人だけ尻餅をついてる子供がいた。障害物に隠れるでもなく腰を抜かしたように泣いてるその子は、よく見れば先程ソルにぶつかってきた子供で、白毛のネコ…ベルを大事そうに抱きかかえている。俺は思わず立ち上がりかけて、

 スパッ

 左耳のすぐ横をタカがかすめていく。

「ッつ…!」

 耳を抑えつつステージ上に目を向ければ、タカが泣き叫ぶ子供へと突っ込んでいくのが見えた。

 (ダメだ!!襲われる!!)

 その時、俺の横で立ち上がる気配がした。


 グルァアウッ!!!


 恐ろしい獣の咆哮が響く。

 (え…?)

 横を見れば、狼の耳を生やしたソルが威嚇するように牙を剥いていた。目は血走り牙も鋭く伸びている。
 (嘘だろ…なんで、狼化して…)
 吠えられたタカはバササッとステージ裏へ逃げ帰っていった。

 ざわざわ

 タカが来ないとわかると、観客がざわつき、頭を上げようとする。それに気付いた俺は弾かれるように立ち上がり、

「――このっ、馬鹿っ!」

 ソルのパーカーのフードを掴んで、立派すぎる狼耳を覆い隠した。その勢いのままソルを引っ張り、座席に座らせて、お互い上半身を倒した状態でひそひそと言い合う。

「ちょっ!あんたッ!こんな所で何してんだっ!(小声)」
「アァ?何って…やめろって叫んだだけだろが」
「はあ??今の!ガチもんのオオカミボイスだったぞッ!!(小声)」
「えっ」

 幸運にも一番後ろの席だったおかげで目撃者はいなかったようだが「え、今の何?犬?オオカミ?」「結構近くなかった?」とざわつく声が聞こえてきて、サアアッと血の気が引いた。

「ヤバい!一旦逃げるぞ!これ巻け!(小声)」

 俺の上着を腰に巻かせて狼の尻尾を隠し、慌ててバードショーを後にするのだった。



「はあ、はあ…はあッ…」
「は、はあ…っ」

 人気のない道をとにかく進み、動物園の最北部、シカエリアまで戻ってきた所で足を止めた。中央部でバードショーをやってるからかこの一帯は人っ子一人いないようだ。念のためメイン通りから外れた細い道に入ってから…恐る恐るソルのフードを外す。

 ぴょこ

「…」

 銀色の耳が元気に飛び出してきて、俺はすぐにフードを戻した。ダメだこりゃ。

「ゴラァ!なんでフード戻すんだよ!暑いだろがっ!」

 ソルがイライラとフードを脱ごうとしたので慌てて両手で封じる。

「馬鹿!脱ぐなって!誰かが見てたらどうすんだ!」
「アア??人なんていねえだろが!」
「いなくても見られてるかもしれないだろ!防犯カメラもあるし…!某夢の国じゃないんだからじゃ通らないんだぞ!」
「ンなもん知るか!見ろよこれ(パーカーを腹からめくる)!シャワー浴びたみたいになってんだろが!」

 坂を駆け上がる形で走ったソルの体は汗だくになっていた。引きこもりの癖に無駄に代謝が良いと思ったが、狼の毛皮+フード+上着で全力疾走したのだから暑いに決まってる。

「わかった、わかったから。頼むから隠られる場所に行ってから脱いでくれ。じゃないと露出狂&狼男として各方面に捕まる…って……ん?」

 ふと、俺達がいる道の先に建物がある事に気付いた。全面を透明のガラスで覆われたガラスハウスで、内側は生い茂る植物に覆われどうなってるのかわからない。見た感じ小さな植物園のようだが、人通りがない上に妙に廃れていて、入っていい建物なのか一瞬迷ってしまう。

「立ち入り禁止の看板はないけど…あんなのあったんだ」
「あの中なら隠れられんじゃねえの?」
「…行ってみるか」

 開けっ放しになってる扉から中に入ると、湿った空気が体を包み込んでくる。
 (湿気はあるけど外より涼しい…)
 植物の為に一定の温度で調節されているのだろう。心地良い温度だった。何より空気がすごく澄んでいてマイナスイオンを感じる。都会では見る事のないジャングルのような木々の中を進んでいくと、キーキーという鳥の声が聞こえてきた。

「!」
「機械音声だな」

 ソルが即座に嗅覚と聴覚で探りを入れ「ガラスハウス内に動物の匂いはしねえぜ」と言った。流石狼と心の中で感心しつつ、生き物が潜んでそうな木々の窪みに目をやり、なるほどと納得する。

「動物がいないからこんなに人がいないのか…」
「だろーな。防犯カメラも入り口の一台だけだし元々人の往来は期待されてねえ場所なのかもな」

 そこまで話した所で前方に小さな噴水が見えた。噴水の周りにはいくつものベンチがあり、その更に外側を鳥籠のような柱が囲む…やけにオシャレな休憩ブースだった。

「あー助かったぜ」

 ソルは腰に巻いてた上着をベンチの背にかけて、パーカーも荒々しく脱ぎ捨てた。一気に半裸になったソルは服をかけてるのとは別のベンチにドカッと腰を下ろす。ハウス内のひんやりとした空気で汗だくの体を乾かしながら背もたれに頭を預ける。その仰け反った形で晒された首筋から汗が垂れ、鎖骨、胸板へと流れていく様を見てしまい…慌てて視線を外した。

「あ…汗引いたらちゃんと服着ろよ」
「わーってるわーってる」

 適当な返事に呆れつつ、そーっと距離を開けてからスマホを開けた。狼の耳と尻尾が生えたままでは電車に乗るどころかタクシーを呼ぶことすら厳しい(動物園から怪しまれずに脱出できる気がしない)ので、グレイを呼ばなくてはいけない。

 プルルルル…

 しかしいくら粘っても繋がらなかった。どうやら取り込み中らしい。

「誰にかけてんだぁ?」
「うわ?!」

 いつの間にか半裸のソルが真後ろに立ち、俺の手元を覗き込んでいた。スマホの画面で「ああ、グレイか」と納得し、おもむろに俺の耳を指差してくる。

「それよりライ、てめえ…耳切ってんぞ」
「え、」

 言われて耳を確認すれば

 ネチャ…

 さっきタカが横を飛んだ時に切られたらしく血がついていた。赤く染まった掌を見て顔をしかめる。

「ほんとだ…しまった。手洗い場探さねえと…」
「…」

 ソルはジッと俺の手を眺めた後

 ぺろっ

 何を思ったのか、血だらけの掌を舐めてきた。

「っ?!!」

 血の味を確認するように舌なめずりしたソルは、今度は血が垂れてるであろう首筋に舌を這わせてくる。

 ぬるっ

「ひっ…!?」

 ぺろ、ぺろ…

 ほとんど羽交い締めされた状態で首を舐め回され…色んな意味で恐怖を感じる。

「ちょ!おいっ!やめろって!」

 慌てて額を掴んで引き離せば「…アぁ?」と据わった目で睨まれた。いつもより鋭い瞳に一瞬体が竦みそうになるが、再びぬるりと耳を舐められ、それにゾクリと背筋を震わせた瞬間、思いっきり腕を突っ張らせた。
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