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十一話
二つの情報
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「で、てめえは曲入れねえの?」
ソルが充電器に繋げたままのスマホを操作しながら言った。俺は一瞬何を言われたのか処理しきれずワンテンポ遅れて口を開く。
「え、…曲?」
「そうだよ。カラオケなんだから歌うだろフツウ」
「俺は別に…歌いたい曲とかないし…」
「はぁ?てめえカラオケ行ってもいっつもそうなのかよ」
「いや…俺ほとんどカラオケ行った事なくて」
「はぁ?!」
新種の生物と遭遇したかのように驚かれた。俺はやんわりと横にずれながら言った。
「学生の頃は金なかったし…会社員の時の飲みで二次会がカラオケになる事はあったけど、ほとんど皆酔ってて愚痴宴会っつーか…大合唱になって終わるからさ」
「…つまり今日のこれがほぼ初回ってわけか?!」
「うん」
「それ早く言えよッ!!?」
謎にキレられた。俺がカラオケに行った事があるかどうかなんて他人からすればどうでもいいと思うが、カラオケ好きゆえのショックなのだろうか。
「はぁ~…んじゃ、急に歌えって言われても困るか…」
ソルは呟くように言って手元のスマホをソファの隅に放り投げた。
「ならいいや。だったら別の事しようぜ」
「別の事?」
スル…
左腕、つまり俺側の腕をソファの背に乗せ、滑らせてくる。そして手首から下だけを下ろし…俺の肩に触れてきた。
「!」
まさか、別の事ってそういう意味か?!と焦ったところで
ブーブー
俺のスマホが鳴った。
「…、電話だ。ちょっと出てくる」
そそくさと立ち上がり、部屋から退出した。
(助かった…)
廊下に出てからふうと一息ついた。そしていまだに振動し続けるスマホの画面を確認する。思った通り情報屋からだった。今朝、依頼しておいた件だろう。
<国枝雷、問い合わせがあった二件について報告する>
「!…頼む」
<まず一件目の寄生型の幻獣についてだが、寄生型は大きく分けて二種になる。物理的に肉体に侵食する文字どおりの寄生と、霊や神を降ろして肉体に結びつける神体としての寄生だ。狼男は後者に近い>
「神体として…」
<ああ、ただどちらの寄生型でも、脳を潰された場合を除き、感覚が似通ってくる。寄生した方・された方どちらも影響を受けるが、狼男の場合は狼の方が影響が大きいと考えられる。狼は人に寄生する事で人間の脳で思考する事ができるようになるからな。それを繰り返せば、国枝雷が見たような、人らしい行動を行ってもおかしくない。…問題は狼が人と同じ知性を獲得していく段階で、肉体の持ち主である人側がオリジナリティを失っていかないかだ>
「オリジナリティ??」
<ああ、感覚が似通るという事は体に染みついた癖や好み、思考すら共有される事になる。寄生型はそうして均衡を崩し成り代わる事で完成となる>
「オリジナリティを失うと乗っ取られちまうのか…」
<そういうことだ。くれぐれもオリジナリティを失わないように気を付ける事だ。そして狼にはある程度人の体の使い方を教えた方がいい。現代社会との摩擦を抑える事で余計なストレスが減らせるし、処分される可能性もかなり減る>
「と言われてもな…」
ちゃんと言葉が通じてるかもわからない相手に体の使い方なんてどうやって教えたらいいんだ。
ガチャリ
「!」
音がして横を向くと、カラオケスタッフがVIPルーム内に入っていくのが見えた。ドリンクを運んだらしくお盆を手に持って部屋から出てくる。その背中を無言で見送っていると情報屋が「二件目だが」と続けた。
「!…わかった。メッセージでも念の為送っといてくれ…ありがとう、助かった」
二件目の情報は一瞬で完了した。俺は礼を言って通話を切った。さて戻るかと、ソルの待つVIPルームの扉に手をかけ…動きを止める。
(そうだ…さっきソルに肩…)
「……」
肩ぐらいなら友人でも触れるしルール内ではあるが、カラオケで二人きりになって触れ合うのは少々意味が違ってくる。これが非常時でなければソルを置いて帰っていただろうが、
(置いてけねえし…店に一緒に帰るにしても一旦話さねえとな…)
俺は意を決して、VIPルームの中へ再び入っていった。
ガチャリ
「お、やっと戻ってきたか」
ソルは先ほど届いたばかりのドリンクをすでに半分ほど飲み終えており…顔は真っ赤になっていた。
「なっ?!あんたその顔…!酒を飲んだのか?!」
「おう、暇だったから頼んだ。てめえのもあるぜ。いらねえならオレが飲むけ――」
「のっ!飲むから!あんたはそれ以上飲むな!」
二杯目をいかせるわけにはいかないと慌てて自分のグラスを引き寄せた。念のため一メートルぐらい開けた距離に腰を下ろすと、ソルが不機嫌そうに文句を垂れた。
「ライ~遠いだろうがよぉ~」
「うるせえ。セクハラ常習犯の酔っ払いに絡まれたくねえんだよ」
「チッ」
ソルはイライラをぶつけるように手元の酒を煽った。薄暗い室内で細かな変化がわかりにくいが、さらにソルの顔が赤くなった気がする。
「おい、あんた…酒弱いんだからほどほどにしとけよ…」
残ってる分を取り上げるべくソルの方に手を伸ばすと、ひょいと避けられた。
「ソル…!聞いてんのか!」
「う~~るせえなぁ。別に酒を飲んだぐらいでオリジナリティは失わねえだろうがぁ」
“オリジナリティ”という言葉にギクリとする。ソルはニヤリと笑って自分の耳を指さした。
「狼の聴覚舐めんな。全部聞こえてたぜぇ、くくっ」
「…」
「ま、狼男の情報に関してはおおよそ予想通りだ。だが、二つ目の情報は驚いたぜ。てめえ、なんで過去の男の連絡先なんて調べやがった」
「!!」
俺は顔をしかめつつ、情報屋とのメッセージ履歴を確認した。
『真人 ***-***-****』
これが情報屋に問い合わせたもう一つの情報だった。真人の安否…そして生きていた場合は電話番号も、と頼んでおいたのだ。
「不死身野郎に飽きて味変かぁ?」
「違う」
「ははっ、まあそうか。浮気するにしては辛気臭い面してるもんなぁ」
「…」
ソルの言葉に俺は俯き、数秒の間を置いた後、口を開いた。
「なあ、ソルは過去に関係を持った人とはどうしてる?」
「アぁ?」
「連絡したり会ったりするのか…って質問」
「あー即ブロだな」
「…グレイと一旦関係が切れた時も?」
「おう」
「…」
関係値は問わず終わったら即ブロック。
(ソルらしいな…)
黙り込む俺を見て、ソルがからかうように笑った。
「くくっ、なんだよ、昨日の添い寝であっさり不死身野郎が許可するからおかしいと思ったが、てめえら絶賛マンネリ中だなぁ?んで、当てつけに過去の男を掘ってみたってか?くくく、あーあ、不死身野郎にチクっちまおうかな~」
「別にいいぜ」
「はあ??」
俺はこの電話番号で真人とよりを戻そうとは思ってないし、ただ少し探りを入れて…必要であれば真人の体に何が起きたのか話そうと思った…ただそれだけだ。他意はない。
「帰ったら話すつもりだったしあんたの好きにしたらいい」
「意味わっかんねえ。じゃあなんだ?てめえは情報屋使って過去をほじくり返しただけってのか??」
「…」
「過去の関係なんて振り返ったところで余計拗れるだけだぜ。時間の無駄だ」
「そんなのわかってる。でも…俺はあんたみたいに全て綺麗には…切り捨てられないんだ」
「はっ!オレだって別に全部切ってるわけじゃねえぜ」
ソルが不貞腐れるように言った。
ソルが充電器に繋げたままのスマホを操作しながら言った。俺は一瞬何を言われたのか処理しきれずワンテンポ遅れて口を開く。
「え、…曲?」
「そうだよ。カラオケなんだから歌うだろフツウ」
「俺は別に…歌いたい曲とかないし…」
「はぁ?てめえカラオケ行ってもいっつもそうなのかよ」
「いや…俺ほとんどカラオケ行った事なくて」
「はぁ?!」
新種の生物と遭遇したかのように驚かれた。俺はやんわりと横にずれながら言った。
「学生の頃は金なかったし…会社員の時の飲みで二次会がカラオケになる事はあったけど、ほとんど皆酔ってて愚痴宴会っつーか…大合唱になって終わるからさ」
「…つまり今日のこれがほぼ初回ってわけか?!」
「うん」
「それ早く言えよッ!!?」
謎にキレられた。俺がカラオケに行った事があるかどうかなんて他人からすればどうでもいいと思うが、カラオケ好きゆえのショックなのだろうか。
「はぁ~…んじゃ、急に歌えって言われても困るか…」
ソルは呟くように言って手元のスマホをソファの隅に放り投げた。
「ならいいや。だったら別の事しようぜ」
「別の事?」
スル…
左腕、つまり俺側の腕をソファの背に乗せ、滑らせてくる。そして手首から下だけを下ろし…俺の肩に触れてきた。
「!」
まさか、別の事ってそういう意味か?!と焦ったところで
ブーブー
俺のスマホが鳴った。
「…、電話だ。ちょっと出てくる」
そそくさと立ち上がり、部屋から退出した。
(助かった…)
廊下に出てからふうと一息ついた。そしていまだに振動し続けるスマホの画面を確認する。思った通り情報屋からだった。今朝、依頼しておいた件だろう。
<国枝雷、問い合わせがあった二件について報告する>
「!…頼む」
<まず一件目の寄生型の幻獣についてだが、寄生型は大きく分けて二種になる。物理的に肉体に侵食する文字どおりの寄生と、霊や神を降ろして肉体に結びつける神体としての寄生だ。狼男は後者に近い>
「神体として…」
<ああ、ただどちらの寄生型でも、脳を潰された場合を除き、感覚が似通ってくる。寄生した方・された方どちらも影響を受けるが、狼男の場合は狼の方が影響が大きいと考えられる。狼は人に寄生する事で人間の脳で思考する事ができるようになるからな。それを繰り返せば、国枝雷が見たような、人らしい行動を行ってもおかしくない。…問題は狼が人と同じ知性を獲得していく段階で、肉体の持ち主である人側がオリジナリティを失っていかないかだ>
「オリジナリティ??」
<ああ、感覚が似通るという事は体に染みついた癖や好み、思考すら共有される事になる。寄生型はそうして均衡を崩し成り代わる事で完成となる>
「オリジナリティを失うと乗っ取られちまうのか…」
<そういうことだ。くれぐれもオリジナリティを失わないように気を付ける事だ。そして狼にはある程度人の体の使い方を教えた方がいい。現代社会との摩擦を抑える事で余計なストレスが減らせるし、処分される可能性もかなり減る>
「と言われてもな…」
ちゃんと言葉が通じてるかもわからない相手に体の使い方なんてどうやって教えたらいいんだ。
ガチャリ
「!」
音がして横を向くと、カラオケスタッフがVIPルーム内に入っていくのが見えた。ドリンクを運んだらしくお盆を手に持って部屋から出てくる。その背中を無言で見送っていると情報屋が「二件目だが」と続けた。
「!…わかった。メッセージでも念の為送っといてくれ…ありがとう、助かった」
二件目の情報は一瞬で完了した。俺は礼を言って通話を切った。さて戻るかと、ソルの待つVIPルームの扉に手をかけ…動きを止める。
(そうだ…さっきソルに肩…)
「……」
肩ぐらいなら友人でも触れるしルール内ではあるが、カラオケで二人きりになって触れ合うのは少々意味が違ってくる。これが非常時でなければソルを置いて帰っていただろうが、
(置いてけねえし…店に一緒に帰るにしても一旦話さねえとな…)
俺は意を決して、VIPルームの中へ再び入っていった。
ガチャリ
「お、やっと戻ってきたか」
ソルは先ほど届いたばかりのドリンクをすでに半分ほど飲み終えており…顔は真っ赤になっていた。
「なっ?!あんたその顔…!酒を飲んだのか?!」
「おう、暇だったから頼んだ。てめえのもあるぜ。いらねえならオレが飲むけ――」
「のっ!飲むから!あんたはそれ以上飲むな!」
二杯目をいかせるわけにはいかないと慌てて自分のグラスを引き寄せた。念のため一メートルぐらい開けた距離に腰を下ろすと、ソルが不機嫌そうに文句を垂れた。
「ライ~遠いだろうがよぉ~」
「うるせえ。セクハラ常習犯の酔っ払いに絡まれたくねえんだよ」
「チッ」
ソルはイライラをぶつけるように手元の酒を煽った。薄暗い室内で細かな変化がわかりにくいが、さらにソルの顔が赤くなった気がする。
「おい、あんた…酒弱いんだからほどほどにしとけよ…」
残ってる分を取り上げるべくソルの方に手を伸ばすと、ひょいと避けられた。
「ソル…!聞いてんのか!」
「う~~るせえなぁ。別に酒を飲んだぐらいでオリジナリティは失わねえだろうがぁ」
“オリジナリティ”という言葉にギクリとする。ソルはニヤリと笑って自分の耳を指さした。
「狼の聴覚舐めんな。全部聞こえてたぜぇ、くくっ」
「…」
「ま、狼男の情報に関してはおおよそ予想通りだ。だが、二つ目の情報は驚いたぜ。てめえ、なんで過去の男の連絡先なんて調べやがった」
「!!」
俺は顔をしかめつつ、情報屋とのメッセージ履歴を確認した。
『真人 ***-***-****』
これが情報屋に問い合わせたもう一つの情報だった。真人の安否…そして生きていた場合は電話番号も、と頼んでおいたのだ。
「不死身野郎に飽きて味変かぁ?」
「違う」
「ははっ、まあそうか。浮気するにしては辛気臭い面してるもんなぁ」
「…」
ソルの言葉に俺は俯き、数秒の間を置いた後、口を開いた。
「なあ、ソルは過去に関係を持った人とはどうしてる?」
「アぁ?」
「連絡したり会ったりするのか…って質問」
「あー即ブロだな」
「…グレイと一旦関係が切れた時も?」
「おう」
「…」
関係値は問わず終わったら即ブロック。
(ソルらしいな…)
黙り込む俺を見て、ソルがからかうように笑った。
「くくっ、なんだよ、昨日の添い寝であっさり不死身野郎が許可するからおかしいと思ったが、てめえら絶賛マンネリ中だなぁ?んで、当てつけに過去の男を掘ってみたってか?くくく、あーあ、不死身野郎にチクっちまおうかな~」
「別にいいぜ」
「はあ??」
俺はこの電話番号で真人とよりを戻そうとは思ってないし、ただ少し探りを入れて…必要であれば真人の体に何が起きたのか話そうと思った…ただそれだけだ。他意はない。
「帰ったら話すつもりだったしあんたの好きにしたらいい」
「意味わっかんねえ。じゃあなんだ?てめえは情報屋使って過去をほじくり返しただけってのか??」
「…」
「過去の関係なんて振り返ったところで余計拗れるだけだぜ。時間の無駄だ」
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