ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

★目覚め

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「落ち着け…、それは、メスに向けるあれだってば!」

 ぴちゃぴちゃと耳を舐め回されながら、俺はその衝動を向けるべき対象じゃないと必死に訴えた。だが狼は構わず耳だけでなく顎下や、喉、鎖骨まで舐めてくる。

「ううっ、止まれって…ひっ!?」

 言葉の途中で腰をへこへこと押し付けられギョッとする。腹に当たるそれはすでに半勃ちのレベルではなく、ソルが前に“犬の射精は早い"とか色々言ってたが、このままでは体が触れただけで暴発しかねない程張っていた。俺は起き上がろうとしていたのを止めて、なるべくそれと接触しないようソファに背を付けて横になった。しかし、そうすると今度は狼が舐めやすい姿勢になり、正面に顔が戻ってくる。

「いっ、この…いい加減に!うぷ、んっ!?」

 正面で舐められるのをいいことに狼は頬だけじゃなく口元も舐めてきて、

「~~~っ!!!」

 俺は慌てて口を閉じて顔をそらした。狼は追いかけるように、俺の顔の横に両手をつきながら、体を更に前に倒し唇の形を辿るように舌を這わせてくる。

 ぺろ、ぴちゃ…

 (これってキスじゃ…いや違う…!狼はじゃれてるだけ…!)

 違うそんなわけないと必死に言い聞かせるが、狼はまたもや体から何かを感じ取ったのか、ただぺろぺろするのではなく…舐めながら顔を傾けたり、角度を変え始める。そして、まるで本当にキスするかのように、ゆっくりと唇を舐められ、

 ちゅ…

「!!?」

 やがて唇が重なった。ドキリと心臓が跳ねる。これは確実に、俺の中で「キスだ」とわかるそれだった。でもだからこそ…耐えるのが限界だった。

「ん、……と、にっ、やめろ!!」
 
 狼の顔面を殴りつける。平手打ちじゃなく、拳で思いっきり側頭部を狙った。

 ゴッ

「ウウッ」

 狼は唸りながらソファから転げ落ちた。テーブルの下を這い、尻尾も耳も垂らしたまま四つん這いで壁際に逃げていく。俺に拒絶されたのが相当ショックだったのか、狼は悲しそうな顔をしてこちらを見てくる。透き通るほど純粋な瞳で子犬のように見つめられると酷い罪悪感に襲われた。

「あ、えっと…」

 バタバタ

 何か言うより先に狼は体当たりする勢いで部屋の外へ出ていってしまう。

「おい!待て…!!!」

 俺は急いで起き上がり、充電器に繋がれたソルのスマホを回収して廊下に出た。狼の姿はすでになくトイレや階段、エレベーターの中も確認したがどこにも見当たらない。一階のフロントで聞いてみたが、どうやら客から通報は入っていないらしく“狼が他の部屋に侵入した"という線もなさそうだった。…となると行き先は外しかない。こんな街中に狼が出たらどうなってしまうのか…俺は顔面蒼白になってカラオケ店の自動ドアから外に出た。

 プップー

「!」

 出てすぐに、正面の大通り…ではなく横道に路駐していた車からクラクションを鳴らされる。運転席を見れば見知った顔が乗っていた。

「…セツ!?」
「ライ、よかった無事だったか」
「なんでお前がここに…消防は動物園に出動しているんじゃ」
「俺は別動隊でな。狼男を見張るのが仕事なんだ」
「!」
「いいから早く乗れ、狼男を追うぞ」

 セツに促されるまま助手席に乗りこむ。すぐに車は発進して、駅から離れる方へ走り始めた。運転席横のスマホ立てを見れば、地図アプリが表示されていた。そこには地図上を赤い点滅が動いているのが見えて…

「狼男につけた首輪のGPSだ」
「!」
「一応今の所は誰かを襲ったり、暴れたりする様子はない。毒が打たれれば動かなくなるしこちらにも信号が送られるからな。…しかし驚いたぜ。まさか監視一日目から脱走するとはな。やっぱり狼男が人間と共存するなんて無理だったんだ」
「そんな事ない…!今のは…その、俺が悪くて」
「いくら庇っても結果が全てだ。奴は獣化して脱走した」

 セツは真剣な表情で地図アプリの赤い点滅を睨み付ける。

「狼男を外に出す事を許可したのは俺だ。狼男の始末は俺がつける」
「始末って…」

 この脱走を理由にソルは処分されてしまうのだろうか。問いかけてもセツは首を振るだけだった。


 ***


 それから三十分もせず狼のに着いた。セツは関係者用の駐車場に車を停めてすぐに出ていく。俺もついていこうとしたら「ここにいろ」と止められた。

「少し話してくる。ライはここで待機だ」
「……ああ…」

 駐車場の傍らで部下が待機しており、セツは彼らの元へ走っていった。俺は車内から周囲を確認した。

 (ここはたしか…)

 二日前にソルと動物園に行った時の、柴沢が待機していた裏口側の駐車場だ。あの時はガラガラだったが今回は消防の車両が何台も停まっていて物々しい雰囲気に包まれている。園内で暴れている幻獣を警戒しているのだろうが、裏口でこれだけ人がいるのだから正面ゲートは厳戒態勢になっているに違いない。

 (なんでこんな状況で動物園ここに入っちまうんだよ…)

 これでは自分から捕まりに行くようなものだ。もしも狼が間違って消防や一般人を襲う事があれば…その場で処分されてしまうだろう。道中でフィンとグレイに「狼が暴走して動物園に向かってる」とメッセージを送ったのだが…二人共未読のままだから先回りして回収してもらう事もできない。

 (そもそも、狼は何をしに来たんだ?腹が減ってシカやウサギを襲いに来た?それとも同種のオオカミに会おうと…?)

 会うと言っても狼はリアルオオカミを同種とは認識していないはず。性に目覚めたところでそれをリアルオオカミに向けるとは思えない。

「…」

 最後に見た、狼の悲しげな顔を思い出し胸が苦しくなった。

 コンコン

 窓の外からノックされて我に返る。セツがいつの間にか戻ってきていた。

「セツ…!」

 俺が車から出ようとすると肩を掴まれて座席に押し戻される。

「民間人は立ち入り禁止だからお前は車内で待機しててくれ」
「なっ…ここまで来て冗談だろ?!」
「冗談なわけあるか。狼男の件もだが、園内では今凶暴な幻獣が暴れている。民間人のお前を中に入れるわけにはいかない」
「凶暴な幻獣って…チンパンジーの柵を破壊した犯人か?」
「ああ、現場には同じ爪痕が残っていたし同一犯だろう。そっちの幻獣に関してはすでに部隊で追い込んであるから問題ない。ただ、狼男に加勢されると厄介だから俺も前線に出る事になった」

 言いながらセツはテキパキと装備を整えていく。

「前線って…ちょっと待ってくれ!ソルはその幻獣とは無関係だ!悪さをする気もないはず…!見つけても攻撃しないでくれ…!」
「悪いが、このタイミングで現れては通用しない」

 ガチャリ

 セツはどこからか取り出した手錠で俺と車を繋げていく。アシストグリップに左手を吊られる形になった俺は鋭くセツを睨みつけた。

「何するんだよ!」
「頑固なお前は言っても聞かないだろうからこれで軟禁させてもらう」
「はあ?!」

 バタン

 鼻先で扉を閉じられた。俺は抗議するように右手で窓を叩いた。

「セツ!!」
「俺の仕事は市民を守ることだ。お前だってその一人に含まれる。狼男は俺が回収するから…お前はそれ以上、幻獣の世界に深入りするな」
「なっ!おい…セツ!!セツ!!」

 セツは背を向けて部下と共に行ってしまう。俺は片腕を繋がれたまま車内に取り残され唖然とした。
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