ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

飛べない体

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 ガシャ

 左手を動かしてみるが、

 ガチャガチャ

「…くそっ」

 どれだけやっても外せそうになかった。無駄に手首が擦れて痛むだけ。顔の位置ぐらいまでしか下ろせない左手を睨み付けて俺はガクリと項垂れた。
 (玩具ならともかく本物の手錠なんて破壊できるわけがない…)
 視線だけで車内を確認するが、鍵を置いていくほどセツは間抜けではないし、手錠を破壊できそうなものも置いてない。さっきセツが荷台から装備を取り出していたから、そこにいけば何かしら使える物が手に入るのだろうが…まあ、助手席から荷台なんて届くわけもなく、限界まで腕を伸ばしつりそうになったところで諦めた。もうグリップ部分を破壊した方が早い気がする。

「グレイじゃあるまいし素手でそんな事できるか…!そもそもなんだよ、守るべき市民…って、…」

 “俺の仕事は市民を守ることだ。お前だってその一人に含まれる”

 失踪した時にかなり心配させてしまったのはわかるが、これだけ幻獣の事に顔を突っ込んでる身からすると(むしろ職場も恋人も幻獣しかいないし)今更過ぎる配慮だ。

「調子狂うな……」


 ダンッ


 ふと、車の外で何かを殴打するような音がした。重いものがぶつかるような音にも思えたが…

 (なんだ…?)

 顔を上げると、暗い駐車場の合間、ちょうど消防側からは大型車両が死角を作っていて見えない空間に、すらりと背の高い白金の髪の男が立っているのが見えた。

「フィン?!!」

 驚いていると、フィンは優雅な笑みを浮かべて、ゆっくりと近寄ってくる。俺は右手を運転席に伸ばしてなんとか車のロックを解除して…助手席のドアを開けた。まだ左手は繋がれたままなので外に出る事はできないが、軽く足を出してフィンを迎える。

「フィン…!なんでここに!」
「メッセージを確認して、GPSを辿ってきた。しかし、ああ、ライ…何故ライの手がこんな事になってるんだ」

 フィンが痛々しそうな顔をして、手錠に吊るされた俺の左手を見てくる。

「民間人は中に入るなってセツに止められちまってさ…」
「セツ、例の旧友か」
「ああ…って、ちょっと、何やってんだ?」
「拘束を解く。手元が狂うと危ないから動かないでくれ」
「??」

 フィンの長い指が手錠をするりと撫でてきた。
 (拘束を解くって、まさか)
 嫌な予感がして俺が身じろぐと、フィンは「じっとして」と優しく釘を刺してから手首とグリップを繋ぐ鎖部分を指先で摘んだ。

 ジュウ…

「!!」

 途端にぐにゃりと鎖が溶け落ちる。破片が俺に落ちないようにあらかじめフィンはもう片方の手を下に構えていた。ポトポトと溶かされた破片が落ちていくのを俺は完全停止した状態で見つめ…やがてフィンは後ろの地面に腕を振って掌の中身を捨てた。

 ジジッ

 破片と触れた地面が小さく焦げ付く。どれだけ高温なんだよと青ざめた。あれが膝とかに落ちなくてよかった…。

「ライ、手首は熱くないか」
「ん、ああ、平気」

 うまい具合にやってくれたのか俺の手首に触れている輪っか部分はなんともなかった。

「ふむ、よかった。まだ手首の部分は残っているがこれで一旦は動けるはずだ」

 そういって手を差し伸べてくる。俺は恐る恐るその手を掴み立ち上がった。まだ少し熱い指先に触れるとドキドキする。

「残った部分は後で外そう。焦ってやってライの手を火傷させたくない」
「いや…うん、十分だよ。助かった。ありがとな、フィン」

 車を破壊する事なく助手席から出られて心底ほっとした。俺は体を解しながらセツが向かった方角を見つめる。

「これで狼を探しに行ける…と思ったけど、あれじゃ通してくれないか」
「だろうな。私が着く頃にはすでにあの包囲網が作られていた。軽く中も覗いてきたが内側の部隊も良い動きをしていた。人間のわりに戦闘慣れしている」
「中にいる幻獣は捕まっちまうかな」
「時間の問題だろうな。妖精は逃げる事に長けてるが…あの部隊が相手ではずっと逃げ続けるのは難しいだろう。そもそも奴は外に逃げる気がないようだ。人間の部隊に追い回されても園内に留まっているし…何か大事なものでもあるのかもしれんな」
「大事なもの…」
「ああ、だがこうして人間に包囲された以上…それを探る時間もなくなった。もう我々にはどうしようもない。今できるのは、この混乱に乗じて狼を回収することのみだ」
「…見殺しにするのか?」

 園内の幻獣は柵や建造物を破壊して“人間に害を与える存在”となってしまった。消防に捕まればまず間違いなく処分される。俺の言葉を聞いて、フィンは厳しい顔をして首を横に振る。

「ライ、ここは人間の支配する世界だ。幻獣側にどんな理由があっても、支配者である人間に“外敵”と認知されてしまえば処分は免れない。それがというものだ」
「…」
「ライがどうしても止めたいというのであれば協力するが手加減はできないぞ」
「いや……いい、俺が悪かった」

 フィンが本気を出せば部隊を丸ごと消すことだってできるだろう。でもそれをしてしまえば俺達は人の世界で生きていけなくなる。
 (それはダメだ…)
 俺は顔をしかめて首を振った。フィンは黙ってそれを見ていたがふと視線をずらし、

「…ライ、見てくれ」

 裏口に向かう並木道を指さした。木々の合間を埋め尽くすように白い霧がかかっていた。自然現象かとも思ったがこんな都会で、しかも湿度も高くない状態で出るわけがない。

「灰色じゃないからグレイのでもなさそうだな」
「ああ、よくわからんがこれはチャンスだ。視界が遮られている内に侵入してしまおう」
「そうするか」

 突然の霧に消防側も慌てふためいている。その隙に俺とフィンは駐車場を回り込み霧の中へと入っていった。



 裏口に着くと複数人の消防隊員が立っていた。駐車場の隊員達と同様に霧の発生で動揺していたが持ち場を離れようとはしない。流石に場慣れしている。俺とフィンは彼らに捕まらないよう、裏口から十メートルほど離れた木々に身を隠し顔を見合わせる。どうする?と目で訴えればフィンが金網の壁を指さした。
 (まさか、あれを登る気か…?)
 金網の高さは余裕で二階建てぐらいはある。掴んで登るのはなかなか骨が折れるだろう。だが、裏口のゲートは扉の部分以外全て金網で覆われていて、左右を確認しても、見える範囲ずっと金網の壁が続いている。扉を使わないのなら登るしかない。げんなりしてると、フィンが近づいてきて横抱きにしてくる。

「?!」

 とっさに声をあげかけて慌てて口を覆った。フィンは“良い子だ”と言うように微笑んで、それから後方の金網を見つめる。
 (おい、あんた何を考えて…)
 俺が緊張で体を強張らせるより先に、フィンはぐっと両足に力を込めて…助走もなくその場で飛び上がった。

「~~~!!?」

 まるで羽でも生えているのかという異次元な身のこなしで高すぎる金網の壁を越えて、

 ダンッ

 そのまま園内に着地する。フィンの足元を見れば土の地面が面白いぐらい抉れていて、あ、さっき駐車場で聞こえた衝突音はフィンの着地の音だったのか…と今更気づく。きっとあの時も遠くから俺の元へジャンプ(?)してきたのだろう。

「ふう、人の姿は飛べないし重いから不便だな」

 フィンが眉をひそめて言った。いや、十分あんた飛べてると思うよ、と内心ツッコんだ。


「ん?なんだ、今の音は」


 そこで霧の向こうから消防隊員の声が聞こえてくる。
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