ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

練習とお世話

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 ***


 俺達が帰る頃にはすでにスナックの営業が終わっていて、てっきり「もー遅いジャナイ!!」とグレイに騒がしく出迎えられると思っていたが、

 シーン

 店内は消灯され、静まり返っていた。

「グレイ…こんな時に外出って、まさかつじつま合わせか?」
「かもしれんな。駄犬の件が拗れる前から忙しそうにしていたから…私達の知らないところで走り回っているに違いない」
「そっか…」 

 思い起こせば、ここ数日、グレイに連絡しても繋がらない事が多かった。

「何かヤバイ事に巻き込まれてねえといいけど…」
「グレイなら仕損じる事はない。一人で動けるのならむしろ足手まといがいなくてやりやすいはずだ」
「…それもそうか。じゃ、ただ待ってるのもあれだし順番にシャワー浴びよう。フィンから入っていいぜ」
「ライはいいのか?」
「俺はあんまり汚れてねえし、狼が離れようとしねえから…相手しとくよ」
「ふむ、わかった。ではお先に」

 フィンは俺の周りをくるくる回る狼を見て不思議そうな顔をしつつ、服や体が汚れているのが気になっていたのか大人しくシャワーへと向かった。残った俺と狼は店内の照明を最低限つけてから向き合う。狼の耳と尻尾を生やしたままの状態ですでに一時間以上経っているがソルの意識が戻ってくる気配はない。一ヶ月前に完全体になった時はグレイの霧でうまく切り替えていたが今はそれもできない。
 (無理矢理押し込んでストレスを溜めるのもよくないし今は好きにさせておくか…)
 そこまで考えた所で俺は食器棚からコップを取り出した。

 ジャ――…

 水道水をいれていくと、狼が興味津々といった感じに覗き込んでくる。

「ん?あんたも飲みたいのか?」

 コップを口元に持っていくとピチャピチャと舌で舐め始めた。狼的にはこの飲み方が普通なのだろうが、人型で必要とする量をこのやり方で飲んでいたら日が暮れてしまう。俺は一度狼からコップを取り上げて(すごく悲しい顔をされた)自分の口で飲むフリをして見せた。

「こうやって飲むと早いぞ」
「???」

 狼は首を傾げていたが俺がその両手にコップを持たせると、恐る恐るといった感じで俺の真似をして口元に持っていく。

 ビシャ

 しかし、コップの角度が悪く、思いっきり顔面に水をぶっかけてしまう。

「?! げほっげほっ」
「うん、よしよし、よく頑張った。持てただけでもすげえからさ」

 シュンと尻尾を垂らす狼の背中を撫でてやり、もう一度コップを持たせてみる。

「ほらもう一回。今度はゆっくり傾けるんだぞ」

 俺の指示通り少しずつ傾けて、口元にやってきた水をまたペロペロ舐めようとしたので「口を開けるんだ」とジェスチャーで伝えた。狼は言われるまま大きく口を開けて、おそらく一気に水が入ってきた事に驚いたのかまたもやゲホゲホ!と思いっきり噎せるのだった。

「…まだコップで飲むのは難しいかな。ゆっくり覚えていこうな」

 カウンターに水の入った皿を置くと狼が顔をつけてピチャピチャと舐めだす。それを苦笑と共に見守り、床にぶちまけられた水を雑巾で拭いた。そこで綺麗になったフィンが廊下から現れる。

「ん?ライ、何か溢したのか」

 フィンがすかさず駆け寄ってくるが、それを手で制して立ち上がった。

「大丈夫、ただの水だよ。狼が飲もうとして溢したやつ」
「ああ…なるほど」

 カウンター席で永遠に皿の水を舐め続ける狼を見てフィンは納得するように頷いた。

「では今度は私が見ておくから、ライもどうぞ」
「ありがとう。早めに終わらせて戻るから」
「ゆっくりでいい」

 フィンの言葉に笑みで応えてから廊下を進む。脱衣所に行くと、フィンが持ってきてくれたであろう寝巻きが見えた。それを脱衣所のカゴに置いてからシャワー室に入る。いつもの流れで髪と体を洗っていくと、

 ガタガタンッ

 脱衣所の方から騒々しい音がする。

「フィン?忘れ物…、うわっ?!!」

 どたたっ

 扉を開けた瞬間、何者かが乱入してきてギョッとする。しかもその男は下半身が脱げた状態で、

「なっ?!狼?!ど、どうした…??」

 挙動的に狼なのはわかったが見た目的にはソルなので一瞬殴りそうになった。とっさに構えた拳を下ろし、その肩を押し戻していると廊下からバタバタと足音が近づいてくる。

「狼どこに行った!!…なっ?!何してる!ライから離れろ!」

 フィンはシャワー室に乱入しようとする狼を発見して、慌てて羽交い締めにした。そのまま引きずり出そうとするが、狼も踏ん張って抵抗する。人型とはいえ狼化してる為、フィンでも力任せは厳しそうだった。俺は何がなんだかと放心しかけながらどうにか我に返ってフィンに尋ねた。

「えっと、なんで、狼…下半身丸出しなんだ…?」
「それが…水を飲み終えた後、店内で小便をしようとして…」
「!!」
「トイレに連れていこうとしたのだが、どうしても外に行きたがって…仕方なくズボンと下着を剥ぎ取って店の外に放り出したんだ。奴が用を足してる間に店内の収拾をつけようと一瞬目を離したら、今度は店頭から姿を消していて…」
「裏口に回って侵入したって事か」
「おそらく。まったく…獣の気性のまま知性を得ると厄介だな。行動の予測ができないし、そもそもどこから裏口の鍵を持ってきたんだ…」

 フィンは「ほら行くぞ」と羽交い締めにした狼を引っ張っていこうとする。その腕に手を置き、止めた。

「フィン、…いいよ。もうちょうどいいし、このまま狼を洗っちまうわ」
「!?」
「ソルの意識が戻らないとシャワーも入れないまま放置になるだろ?全身泥だらけじゃ可哀想だし(主にソルが)、俺…今回の件で何もできてねえから、これぐらいはやってやりたいんだ」
「しかし…」

 フィンが納得のいかなそうな顔をする。

「俺さ、狼の事…ベルから色々聞いたんだ。で、なんか、同情…いや、共感する所があって、」

 家族を失い、孤独に苦しみ、やっと見つけた安寧の地。それが俺やグレイ達なのだ。

 (狼には俺達しかいないんだ…)

 誰にも頼れず、別種族として生きる事を強いられた狼の心情を思うと、その世話ぐらい何でもないと思えた。さっき服を着せるのが不快じゃなかったのもそういう事だろう。…もちろんに服を着せるのは絶対嫌だが、狼相手なら違う感情になる。それこそ、兄弟や愛犬、家族に対する愛情に近いものを感じるのだ。


「俺がやってやらないと…って、思うんだ」


 よしよしと羽交い絞めされた狼の頭を撫でた。狼は嬉しそうに目を細めて尻尾を揺らしている。フィンはため息を吐き「わかった」と呟いた。

「…ライは出会った当初から駄犬達に甘いからな」
「ごめん」
「いい。私は、ライの全てを愛している」

 そう言ってフィンは優しく微笑み、腕の力を緩めていく。

「ここで待機しておくからライは洗うのに専念してくれ。何かあればすぐに止めに入る」
「…ありがとう、頼んだ」

 フィンは狼の羽交い絞めを解いて脱衣所で待機姿勢をとる。拘束がなくなったのを知った狼が飛びついてきそうになったので

「ストップ」

 狼の鼻先に掌を掲げ「待て」と指示した。狼はキョトンとして掌と俺の顔を交互に見てくる。

「ここは狭いからじゃれつくのは禁止。足を滑らせて転んだら危ないだろ」
「…」
「わかったらそこでジッとしてくれ」

 俺が低めのトーンで注意すると狼は少しテンションを下げてゆらゆらと尻尾を揺らした。残念そうではあるが飛びかかってくる様子はない。…やはり言えばそれなりにわかってくれるようだ。俺はさっさとソルのパーカーを脱がせて、シャワーヘッドを掴みお湯を出した。ちょうどいい温度になったところで狼の足元からゆっくりとかけていく。

 ウウッ

 熱いお湯に反応して狼が尻尾の毛を逆立てた。野生動物からすれば熱い水は違和感しかないのだろう。

「ソルが浴びてるのいつも見てるだろ?ほら、痛くも痒くもない」

 俺が自分の体にあてて示すと、狼は渋々ながら尻尾を下げた。ゆっくりと足からかけてお湯に慣れさせてから、背中や肩、首、腹側を順番に流していく。股間はなるべく見ないでおいた。だいぶ狼INソルに慣れたとはいえ、顔と股間を直視するのはちょっと変な感じになる。

「髪も流すから、目を閉じとけよ…こう、な」

 ザバッと自分でやって見せると、狼も真似をして目を閉じた。今のうちにと狼の髪を流していく。泡が目に入ったらパニックになるかもしれないのでシャンプーはせず、手足などの砂や泥でひどく汚れているところだけタオルで擦って洗った。

 ウウ…

 右手が洗い終えた頃、狼が小さめに鳴いた。見ると耳が後ろにぺたりと倒れている。逆に尻尾はふさふさと揺れていた。嫌がってる感じではなさそうだ。
 
「気持ちいいか?」

 語りかけながら左手も取り、同じように洗った。

 (後は足か…って、)

 見ないようにしていた足の間にふと、目がいってしまい…気まずくなる。何故なら、

 (た、勃ってる…)

 見ないフリをしてタオルで足先を洗っていくが、一度見てしまったせいで、それが頭から離れなくなった。ここまでずっと平気でいれたのに、ソルの体だという事を実感すると妙にソワソワしてくる。

 (おおおおちつけ、相手は狼、相手は狼…)

 言うなればペットの生理現象だ。動揺するのはおかしい。必死に言い聞かせて体を離した。

 ジー…

 視線を感じて横を向けば、フィンが恨めしそうにこちらを見ていた。
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