ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十一話

★心だけは

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 ちゅくっ

「ひっ?!」

 ギョッと下を見ると、フィンが耳から胸元に移動しており、胸の中心…から少しずれた位置に吸いついていた。胸も弄られるのかと体を強張らせたが、フィンはそこには触れず腹の方へと下りていく。

「え、あっ…、フィン…?」

 思わず呼び止めると、フィンが腹筋の溝を舐めながら見上げてきた。

「どうした?ライ」
「…!!」

 フィンは普段から察しが良いし、特にセックスの時は心を読んでるんじゃないかと思えるほど俺の求めを的確に汲み取って責めてくる。なのにあえて知らんぷりするフィンを見て悟った。


 “私はライが嫌がることはしない”

 “胸にも触らない…ライが求めるまでは、絶対に”


 フィンは俺に言わせたいのだ。胸を舐めてくれ、愛撫してくれ、と俺が浅ましく求めるのを。


 (い、言えるかっ…!!)


「…そうか、では続けるぞ」


 俺が躊躇いに瞳を揺らすのを見て、フィンは愛撫に戻ってしまう。舌先で腹筋の凹凸を弄り、腹の後は恥骨を辿っていき、そのまま膝を立たせた内腿も愛撫する。足の付け根ぎりぎりにくるとかぷりと甘噛みされ、押し当てられた歯の間からぬるりと熱い舌が這わされた。

「うぁあっ…!」
「ふふ、ライ、可愛い声だが、駄犬達が起きてしまうぞ」
「!!」

 思いっきり喘いでしまった俺をニヤリと笑い窘めてくる。慌てて口を覆ったが、聴覚の優れたソル達にこの程度の防音では意味がない事はわかりきっている。勘弁してくれと必死に首を振るがフィンは追い打ちをかけるようにすっかり勃ち上がった俺のをぐちゅぐちゅと上下に擦った。

「ッ~~!!!」

 (こんなん声を我慢するどこじゃない!!)

 限界だ、と力一杯にフィンの胸を押し退けた。これは一旦行為を中断させてフィンと話し合いをすべきだと思った。思ったのだが…フィンはそうは思わなかったらしい。押し退けようとする俺の手を束ねて頭上にある枕に押し付けてしまう。そして

 ガチャリ

 ベッドボードと俺の両手を繋いでしまった。

「?!」

 (なんで手錠がここに?!!)

「流石、駄犬だ。セックスに使えそうなものは何でも用意されているな」
「はあ?!てかあんた、それ…何、持ってるんだ??!」

 フィンの手には謎のチューブが握られていた。ハンドクリームと思いたかったが、毒々しい蛍光ピンクの帯を見てやんわりと枕側にずり上がる。

 (い、嫌な予感…)

「手錠と共に置いてあったのだ。多分潤滑剤だろう」
「た、多分って……、それ…使って大丈夫な奴なんだよな…?」
「駄犬やグレイが危険物を部屋に置きっぱなしにするとは思えんが…そうだな、ライに何かあってはよくないし、確認しておこう」

 くるりと回して内容を確認していく。しかし数秒もせずに「だめだな」とフィンは嘘くさい仕草で肩をすくめて見せた。

「外国語表記でよくわからん」
「ちょっ…あんた俺より外国語得意だろうが!もういい!俺が読むから!貸してくれ!」
「ふふ、ライ、そんなに怖がらなくても大丈夫だ。人語表記があるのだから人間に使っても問題ないモノのはずだ」

 死にはしない、と囁くフィンの目は笑ってなかった。
 
「なんだそのいい加減な判断っ!あんた、普段の異常なほどの過保護はどこに行った!」
「ははは」

 フィンは俺の必死の訴えを笑い飛ばし蓋を開ける。ぶちゅりとチューブの中身を人差し指にのせて、親指と擦り合わせて中身を確認した後、躊躇うことなく俺の体に塗りつけた。

 ぬりぬり

「うう、ほんとに塗るのかよ…っ、てか、なんで胸まで…」

 潤滑剤であれば後ろに塗るだけで十分なのに、どうしてかフィンは性器や胸にまで塗り込んでくる。何するんだと睨み付ければ、オレンジの瞳がにこりと細められた。

「そうだな。後ろもちゃんと解さなければ」
「ち、ちがうっ…!」

 違う、そうじゃない。今求めているのは行為の進行じゃない。必死に首を振るがフィンは聞く耳を持たずクリームを纏わせた指を押し入れてくる。

 ぐちゅり

「ひっ…!うあっ…!!」

 フィンはまだ固いままの内側を解すべく、ゆっくりと指を動かしていく。

「うう…くっ、フィン…っ」

 最近は自分で前もって解す事も多かったから妙に落ち着かない。耐え切れず名前を呼ぶと、喘ぐ口を塞がぬように頬に口付けられた。

 ちゅ…ちゅ、かぷ

「!!」

 啄むように頬を吸って、最後に鼻先を齧る…その仕草はさっきロウがやったのとまったく同じで、ドキリとした。フィンは、あえてしたらしく獰猛な笑みを浮かべて見下ろしてくる。

「先ほどここに噛みつかれた時やけに頬を染めていたが、ライは駄犬達の事をどう思っているのだ?」
「ん、はぁ、どうって…」
「私に体を洗われるのはあんなに嫌がったのに、駄犬達の体は自ら進んで洗おうとするし、必要に迫られれば自慰だって手伝ってしまう。まさか…私よりも愛しているとは言わないだろうな?」
「そ、んなわけ、ねえだろ…っ」

 ロウはともかく、ソルを愛してるとかはない。もちろん友情とかそっち系の情はあるが、ソルも俺も互いに相手がいる同士だしなんだかんだ線引きはできている…と思う。

「どうだかな」

 俺の心の声が聞こえたかのようにフィンは首を振った。

「駄犬はライに友情を越えた感情を抱いているように思う」
「…」
「ロウだってそうだ。ライにだけは心を開き、まるで親や恋人のように甘えている。駄犬もロウも、ライが迎え入れればきっと迷わず飛び付…」

「俺にはあんただけだよ」

「!」

 不安そうに溢すフィンに、俺はハッキリと返した。

「愛しているのも、触れたいと思うのも、怖くなったり不安になった時…みっともなく縋りつけるのも…フィン、あんただけだ」
「ライ…」
「あんたになら何をされても嫌じゃない。そう思えるほど、俺はあんたを愛しているよ」
「…!」

 手錠を揺らしながら、こんなムチャぶりされてもな?と伝えれば、フィンはぱちくりと瞬きをした後…ぎゅううっと抱きしめてくる。

「ううっ、くる、しっ」
「…私も…ライを愛している」
「!」
「昨日、ライが駄犬に抱かれて一緒に寝入る姿を見た時……どうしようもなく、胸が苦しくなった。“ロウの暴走"には私も責任を感じていたし、駄犬達の事情も把握していたから…今回はライと駄犬の好きにやらせようと思った。しかし結局待ちきれず、この体たらくだ。ライは駄犬達を助けようとしているだけなのに……心の狭い恋人で申し訳ない」
「心が狭いなんて事…ねえ…よ。恋人がいる身で他の奴と寝るとか普通じゃないし、嫌な気持ちになるのが当然だ」

 おかしいとするなら“あれが必要な事だ”となってしまう俺達の込み合った関係性だろう。ただ、その関係性に何度も救われているのも事実なので完全否定する気はなかった。

 (俺達の複雑さが取り払えないとしても…せめて心だけは…きちんと寄り添いたい)

 その為には本音で話す事が必要だ。

「フィン…たくさん我慢させてごめん。フィンは俺達のために遠慮してくれてたのに…俺ってば“もうフィンに求められてねえのかも"だなんて勘違いして、一人空回ってた」
「…!」
「もっと早くフィンの本音を確かめて誤解を解いてたら、あんたを無駄に苦しませずにすんだのに…ほんとごめんな」

「……ライ、…私が、ライを求めてない、だなんて思っていたのか?」

 フィンが眉をひそめて顔を覗き込んでくる。正気を疑うような顔だった。その顔を見て「しまった」と口を閉じる。オレンジの瞳に宿っていた光が、弱々しいものからギラついたものに変わって…やばい、と本能が告げてきた。
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