ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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二話

仮面の男

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 何故、と驚かずにはいられなかった。目の前の男を信じられないものをみるように見る。

「初めまして、乾杯の挨拶もやったし自己紹介はいらないかな?私は…いや僕は龍矢。君の名前を聞いても?」
「…ライ」
「ライか、素敵な名前だね」

 どうやら龍矢の偽物というわけではないらしい。吐息だけで女性を蕩けさせそうな男の色気を溢れさせている。こんな男が何人もいてたまるか。面白い事に龍矢の周囲には誰も付き添いがいなかった。どうしたのだろう。

「ああ、少し人が多くなりすぎたからね。逃げてきたんだ」

 逃げてきたとお茶目に笑う姿は男の俺が見ても胸をつかまれそうだ。テレビで俳優として出てきても普通に売れそうな雰囲気である。
 (というか仮面で顔隠してるしどっかの有名俳優だったりしてな)
 そんなことを考えてたら龍矢がじっと覗き込んできた。

「逃げてたら同じような顔をした君を見つけたんだ。パーティーをつまらなそうに眺める君をね。同士を見つけたと嬉しくなったよ。ライ。君もパーティーが苦手なんだろう?」
「うっ…まあ、得意ではない」

 飲み終えたスープ皿を横において少し距離を取る。あまり近くにいると、龍矢推しの女性陣に見つかったら殺されてしまう。そんな死に方はしたくない。声が届くぐらいの距離を保ちつつ龍矢の意図を探ろうと横目でみる。目が合う。気まずい。

「ねえ、ライはどこから来たんだい?あまり見たことない衣装だけど」
「巨人族の…付き添いというか…」
「ああ、巨人の一派なのか。なるほど」

 どうやら巨人族の事も知っているらしい。流石だ。

「ということは、君は人間なのに巨人に飼われてるって事なのかな?」
「!」

 バレたのかと焦ってると龍矢がふふっと上品に笑った。

「そんなに動揺しなくて良いよ。僕は勘が良い方でね、僕以外は君が人間だって気付いてないと思うよ」
「じゃあ…もう隠さなくていいな。俺は巨人に飼われてるわけじゃねえ。仕事で来てるだけだ」
「へえ。どんな仕事?」
「…」

 あんたに接近して商談をうまく進める仕事だよ、なんて素直に言うわけにもいかない。言葉に迷っていると、ふと龍矢のグラスに気づいた。白い飲み物が入っていた。

「それ、牛乳か?」
「ああ酒はあまり好まなくてね。さっきまでは酒を持ってたけど今は誰も見てないしすり替えてきた。あ、お酒のめないのって格好悪いかな?」
「いや、別に」

 今時酒でどうにかできることなんてたかが知れてる。

「気が合うね」

 にこりと微笑まれ、気まずさに自分の手元に視線をおとした。皿にはフルーツがいくつか並んでいて、赤い果実…イチゴものっている。
 (あ、そういえば)
 良いことを思い付いた。

「なあ、そのグラス、借りてもいいか?」
「ああ。なんだ、ライも牛乳が飲みたかったのか」
「ちげーって」

 小ぶりなイチゴをスプーンで押し潰して形を崩す。溢れ出た赤い果汁をグラスに注ぎくるくるとかきまぜれば…新鮮イチゴミルクの完成だ。

「ほら。行儀悪いけど、あんたイチゴミルクが好きだって聞いたからさ」
「!」

 龍矢はグラスをキョトンと驚いた顔で見つめ、恐る恐る受け取った。庶民的すぎる行動だったかと焦ったが

「あ、いらなかったら俺が飲むから」
「いらないわけがない。こんなサプライズ初めて受けた、とっても嬉しいよ」

 仮面の隙間からにこにこと嬉しそうな笑みが溢れてくる。どうやらお気に召したようだ。ホッと胸を撫で下ろす。

「うん、すごく美味しい。お酒じゃなくていちごミルクを並べてくれたら、パーティーももっと楽しいものになるんだけどな」

 ご機嫌でイチゴミルクを飲み干す。良い飲みっぷりだった。本当に好きなんだなと内心笑ってしまう。そして教えてくれたマダムにも感謝した。

「ライ、ありがとう。すごく美味しかったよ」
「そりゃよかった」
「ねえ、君の仕事を手伝ってもいい?僕の会社は大体の所とは繋がっているから、何かできると思うんだけど」
「!」

 あんたとの商談を成功させる事なんだが…この流れはありがたい。まずはヴォルドに引き合わせるとしよう。

「龍矢様、少々よろしいでしょうか」

 ふと龍矢の背後からスーツの男が近付いてくる。龍矢に耳打ちする姿にデジャブを感じた。
 (…ん?この男どこかで見たような…)
 龍矢に耳打ちするスーツの男を見て首を傾げる。身なりは整えられているが、髪と仕草を見てホストのようだなと思った。
 (ホスト…?ああ!そうだ、やっと思い出した!!)
 やっと喉に引っ掛かる違和感が繋がった。フィンをいれていた木箱。あれを運んでいたホスト集団が「龍矢様」と名前をだしていたのだ。なんで今まで思い出せなかったのかと自分を殴りたくなった。龍矢なんて珍しい名前そうそう聞かないのに。しかもそれが怪しげなホストといればほぼ確実だ。
 (やべえ…!)
 目の前のホストは会ったことない奴だが、あの時俺を見ていたホストがここにいないとは限らない。俺がバレればその場にいたフィンも危険になる。すぐに逃げた方がいい、そう判断した俺は龍矢に背を向けた。

「あ…ライ?!待って、君との話がまだ…!」

 龍矢の慌てた声が追いかけてきたが、振り返らず走った。



「はあ、はあ…」

 走ったせいでヒールの片方が脱げてしまった。どこで落としたか気づかなかったし、そもそもこの靴、走りにくいったらありゃしない。

「こんなものっ」

 ないほうがまだマシだ。残ってるヒールもぽいっと庭へと投げ捨てた。別に瓦礫の道を歩くわけじゃないし、大理石やカーペットの上を歩くだけなら素足の方が向いてる。ふと前方を見れば、森のように木々が生い茂る庭があり薔薇が咲いていた。夕方に近付きライトアップされている。背景には海が広がっていてなかなか綺麗だった。

「はあ…帰ろうかな…」

 龍矢に近付けなくなった俺にはもうやれることがない。次見つかれば今度こそ誤魔化せないだろう。
 (帰る…前にヴォルドに話をつけねえと…)
 何も言わずに去れば絶対面倒なことになる。何かしら文句をつけてスナックに押し掛けてきそうだ。それは避けたい。

「しょうがない、ヴォルドたちを探すか」

 重い足を引きずるようにしてメイン会場に戻る。会場はダンスタイムに入っていた。会場の中心で皆踊っている。そして一番中心には龍矢がいて、皆そこへと近付こうとしていた。相変わらずモテモテだ。しかし、あの位置に龍矢がいるなら会場内も少し動けそうだ。軽く中を見て回ったが全くヴォルドたちの姿が見つけられない。
 (あのデカさだ、見落とすことはないはず)
 壁側を観察していると、話し込んでいた数人がスタッフに誘導され廊下に移動するのが見えた。気になった俺は後をつけていく。
 (なるほど)
 彼らは廊下を進み二階へと移動した。二階には扉がたくさんあり小部屋がいくつかあった。そこで秘密の話し合いをしているようだ。
 (交渉室…とかそんな感じか?あれのどこかにヴォルドたちがいそうだな)
 スタッフは案内する人を選んでいるようで、俺では連れていってもらえそうになかった。

「じゃあ…強行突破しかねえか」

 トイレを探してたら迷子になっちゃった★作戦で二階に進むことにした。意外にもすんなり上の階にはいけた。しかし二階のフロアにつくとすかさず護衛の者が声をかけてきた。

「申し訳ありません、レディ。ここは立入禁止でございます」

 巨人族の男が先に来てて…と言って突破しようとすると廊下の奥から騒がしい声が聞こえてきた。

 ぎゃあああ!

 悲鳴のようなものも聞こえる。ただ事ではない雰囲気だ。護衛が慌てたように顔をあげた。

「レディは危険ですのでここで待機していてください!」

 そう言って走っていってしまう。これはチャンスだ。誰かに止められる前にヴォルドを探そう。手前の部屋から順番に扉に耳をすませていく。ここも違う。ここも知らない声だ。
 (あとは向こうの二部屋か)
 騒ぎのあった方へ行く事になる。嫌な予感がしたがここまで来て戻るわけにもいかない。廊下を進むとホストの集団が尻もちをついてる姿が見えた。手前では護衛たちが気を失って倒れている。なかなかにカオスな状況で後退ってしまう。
 (またホストがいるし…あいつら絶対龍矢の下っ端だよな…)
 げんなりとしつつ皆が見てる方を見れば、鉢植えが置いてあった。その鉢植えには何も生えておらず、土だけがいれられていた。皆何を見てるのだろうか。不思議に思っていると突然つんざくような悲鳴が聞こえてきた。

 ギィエエエエ!!

 脳を直接揺さぶられるようなけたたましい声が響き、視界がぐらつく。

「ぐっ、うう…!!」

 つんざくような悲鳴は廊下全体に反響し、それを聞いた者達が一人また一人と倒れていった。一声聞いただけの俺でも立てないぐらいの吐き気に襲われたのだから何度も聞いてる奴らはたまったもんじゃないだろう。

「おい!!脱走させないように閉じ込めておけと言っただろうが!なぜ開けたんだ!」
「すみませんっ…!!どうしても見たいと仰られて…!!」
「どうしてもじゃない!取り扱いを間違えれば人を殺せる劇物なんだぞ!」

 ホストが言い合いになってる。足元に身なりの整った老人が倒れているがこの緊急事態はあの男のせいなのだろうか。

 ニョキニョキ

 ふと、変な音がした。ミキミキと軋むような、伸びるような音だった。同時に何か粉のようなものも降ってきた。顔を上げると

「…うわあ!!」

 天井に謎の植物がびっしりと生えていた。天井を覆うようにくっついているそれは一つ一つはランドセルほどの大きさだった。それぞれが重なりあいモゾモゾとゆっくりと動いている。そして一番不気味なのはそれらの植物の中心部に顔のようなものがあることだった。口っぽい部位をモゴモゴとしきりと動かしている。
 (なんだあれは)
 鳥肌が立つ。とにかく不気味すぎる光景だった。

「おい!天井だ!天井に張り付いてるぞ!」
「回収しろー!!」
「マンドレイクだ!!」

 マンドレイク。植物の何かなのは確かだが、ホストたちが慌てて網で回収しようとするのを見て危険物なのは理解した。そしてマンドレイクは天井にべったりと張り付いており、一向に取れる気配はない。

「だめです!取れません!!」
「取れないじゃないだろう!これ以上叫ばれたら死者が出るぞ。龍矢様にご迷惑がかかる!死んでも回収しろ!!」
「はっはいい!!」

 リーダー格と思われるホストが半狂乱で騒んでいる。やはりあの植物がさっきのつんざくような悲鳴をあげた主らしい。信じられないが、フィンやグレイのおかげでこういうことにも慣れてきている自分がいる。さっと見回し俺に今できることを探した。
 (まずは…気を失ってる人たちが危険か)
 マンドレイクを刺激しないようにゆっくりと動きながら廊下で倒れている人たちを避難させていく。するとマンドレイクがまた口を開けて

 ギィエエエエエ!

 真上で再び鳴き出した。

「くっ…ッ!!」

 耳をおさえ倒れ込む。
 (頭が…割れそうだ…っ)
 絶叫だけで脳震盪が起こせそうな破壊力だ。厄介なことに一つが鳴き出すと共鳴して他のも鳴き出す。おかげで死の絶叫がどんどんと連鎖して、廊下が地獄絵図になっていく。

「うっ、助けっ、ぐえっ」
「龍、矢さま…っ」

 一人また一人とホストたちが倒れていく。目の前のホストは白目をむき、泡を吹いていた。

 ギィイエエエエエアア!!

 もはや悲鳴の域を超え、鼓膜を破る勢いだった。耳を塞いでいても聞こえてくる。脳が揺れ、立っていられない。
 
 (だめだ、意識が…遠のく…)

 ぽとっ

 その時、胸から何かが落ちた。フィンに渡された小袋で、藁をも掴む気持ちでそれを開けた。

「羽…?」

 赤い羽根が入っており、それは空気に触れた瞬間、じわりと周辺の空気を揺らした。そして…

 ボオオッ!!

 一気に燃え上がった。視界が赤く染まり、驚く事にその炎は触れても熱くなかった。
 (これは…!フィンの炎なのか…!)
 俺以外の人間も火傷をおっていない。炎は廊下を一瞬で覆い尽くしたと思えば、天井にも燃え移り、びっしりと埋め尽くしていたマンドレイクを飲み込んだ。

 アアアアアア!!

 マンドレイクは断末魔の悲鳴をあげながら灰になっていく。焦げ臭い匂いと同時に遠くで窓の割れるような音がした。

「ライ!!」

 聞き慣れた声が響いて、振り向く。
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