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二話
おかえり
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がばっ!!
「ハアッ、ハアッ…!」
飛び上がるように起き上がった。慌てて見回せば、グレイの店の控室にいた。営業時間前なのか掃除道具がなくなっている。下を見ると全身を手当された状態の体が見えた。ぱっと見は痛々しいが動かすのに問題はない。
(…あんな火事の中で倒れたのにほとんど軽傷って事か…?)
どんな奇跡が起きたのだろう。
「よくわかんねえけど、生きてる…」
腕を広げ生きてる事を実感するが、まるで他人事のように感情が浮かなかった。
『たすけて』
ふと、助けを求める声が響いて、俺は弾かれるように顔を上げた。
「今の声…!」
ボーっとしててよく聞いてなかったが、フィンを木箱から救いだした時に聞こえたものと同じに思えた。慌ててベッドから出て廊下に移動するが、
「待て…違う、」
すぐにパーティでの事を思い出し、立ち尽くす。
「フィンは死んだんだ…声が聞こえるわけがない」
この目で灰になるのを見た。今のは幻聴だと控室に戻ろうとすると
『たすけて』
「!!」
もう一度、今度は更に大きい声で聞こえた。恐る恐る…声のした方に進む。店の裏口から外に出ればもう夕方で空も薄暗かった。裏口を見回すが、誰も立っておらず、その代わり、地面に取っ手がある部分を見つけて近寄った。
「確か…酒や備品を入れとく地下倉庫だったっけ…」
ガコッ
取っ手を引っ張れば、すんなりと開いてしまう。
(入って何もなければすぐに出よう)
少しだけ、少しだけ見て帰ろう。そう言い聞かせて階段を進む。土のすえた匂いがする。壁側にボタンがあったので押してみる。ライトがついた。
「!」
地下倉庫は控え室ぐらいの広さがあった。物はほとんど置かれておらず、中心にぽつんと箱があるだけだった。1m四方のその箱は無機質な素材でかなり丈夫そうだ。
「…あの時フィンが入ってた木箱と同じ大きさだな」
まさかここで遺体を安置してるのか。
(いや、最後に見たフィンは灰になっていた)
わざわざ灰をこんな大きい箱にいれるとは思えない。思えないが、どうしてもその箱から目が離せなかった。
ごくり
緊張で喉が張り付く。俺は深呼吸の後、ゆっくりと箱を開けた。
「!!」
箱の底には焦げて黒くなった羽が敷き詰められていた。
「え…?羽…?」
吸い寄せられるように羽に手を伸ばすと
ブワッ
羽から突然、炎が吹き出した。
「うわ!!」
とっさに手を引っ込める。間一髪火傷するのは避けられたが、炎は箱いっぱいに広がり、地下倉庫の天井に届くほど大きくなった。
「や、やべえッ!!」
階段まで走って逃げる。こんな密室で炎に飲まれるなんて冗談じゃない。死に物狂いで走って出入り口の所まで逃げた所で、燃え盛る炎の中に“何か”がいること気づく。
「……?」
目を凝らす。熱風のせいで目がしみて涙がでた。涙を拭いて再度見れば、炎を纏いながら男が現れるのが見えた。白金の髪にオレンジの瞳、彫刻のように美しい体。
「あ、あんたは…!」
「…ただいま、ライ」
にこりと微笑むその姿は、フィン以外の何者でもなかった。
***
「んもう、一週間ぶりに目を覚ましたと思ったら速攻ボヤ騒ぎ!?倉庫の中身、外に出してなかったら店ごと消し飛んでんだからネ?!燃えるなとは言わないけど、燃やす場所は考えてチョーダイ!!ンも――!」
プンプンと説教モードのグレイ。俺は地下倉庫で裸のフィンと再会したあと、駆けつけたグレイによって三十分ほど説教されていた。はい、はい、申し訳ありません、と俺とフィンは正座した状態で謝り続ける。ちなみにフィンはまた服を貸してもらい「裸の男」から「ださTシャツ男」へと人権を取り戻している。
「そもそもフィン、あんた死んだってヴォルドちゃんから聞いてたけど?なんで生きてるのヨ??」
「それは、その…まずは謝らせてほしい。最初の自己紹介で私は炎の幻獣と言ったが、それは間違いだ。私は不死鳥…フェニックスという幻獣で…、どんなことをしても死ぬことはない体なんだ」
「なんですって…、ふ、不死身って事??」
「ああ」
「ンまあ…」
さすがのグレイも目を丸くして絶句している。不死と言われて驚かない者はいないだろう。この世にそんな存在がいるなんて思えない…思えないが、実際に俺は目の前でフィンが死ぬのを見た。
(灰になったのにまたこうして会話ができてる…生きてるんだ)
信じられない事が現実として起きている。信じるしかないようだ。
「二人共、隠していて申し訳なかった」
「いえ…不死身なんて稀少すぎるし、隠すのも当然ダワ。不死っぽい能力はありふれてるけど本物の不死身は格が違う。そんな力があったら命がいくらあっても足りない。あんた、大変な人生だったでしょうに」
「…」
グレイの言葉にフィンは表情を暗くした。そのまま黙り込む。それを見たグレイが咳払いをして説教モードを解いた。
「こほん。何はともあれ、記憶修正のついでに灰と羽を回収しておいたあたし、グッジョブって事ネ」
「本当にありがとう、グレイ。もしも龍矢に回収されていたら…また地獄の日々が始まる所だった。この恩はいつか返そう」
「はいはい、期待しておくワ」
「おいおい、営業時間なのに店に誰もいねえじゃねえか」
「「!」」
店の方からヴォルドが顔を出した。途端に部屋が暑苦しくなった気がする。ヴォルドが俺に気づいてよっと手をあげた。
「お、ライも気がついたか。元気そうじゃねえか。まったく、ベランダで見つけたときは死んじまったかと思ったぜ、ハッハ!」
「…」
「ふふ。ヴォルドちゃん、あんた達パーティーで大活躍だったんデショ?人名救助に、瓦礫の撤去、消火活動…こういったらあれだけど怪我の功名よね。良い宣伝ができたんじゃない?」
「ああ!おかげさまで依頼は想定の十倍以上もらえたぜ」
ヴォルドは腕を組み誇らしげに言う。そうか、巨人たちがあの場を収めたくれたのか。彼らならちょっとした炎なら屁でもないだろう。てか、もしかして俺が重い火傷をおわずに帰ってこられたのって巨人族のドレスを着ていたおかげだったりするのだろうか。
(流石巨人族クオリティ…)
送迎車の中で文句を言ってしまった事を反省する。そしてヴォルドの方を見た。
「ヴォルド…あんたが俺を火の中から助けてくれたのか」
「お?ああ、そうだぜ。なんだ惚れたか」
「…ありがとう」
「おいおい急に素直になられると調子が狂うぜ。まあお前らも大変そうだったのは現場見てわかってる、気にすんな」
ヴォルドなりに何かを察してくれてるのか茶化してこなかった。
「で、結局被害の全貌はわかったノ?」
「パーティー会場は全焼、大火傷をおった者もいた。だが今のところ死者は出てない。火の広がり方のわりに運がよかったみてえだ」
「それは何よりダワ~」
死者は出ていない。ヴォルドの言葉に胸を撫で下ろした。
(よかった…)
故意ではないとはいえ、あの火事は俺達が起こした事になる。少なからず責任を感じてしまう。それはフィンも同じらしく表情を固くしたまま俯いていた。
「てなわけでパーティーにおけるライの活躍はゼロ。約束していた報酬はなし…と言いたいとこだが、結果的に商談は成功したしな。すこーし分けてやるぜ。俺の愛に感謝しろ」
「愛ならいらね…うぐっ」
グレイにチョップされた。報酬を受け取れと睨まれる。ヴォルドの方へ向き直った。
「なんだ。やけに不満そうだな。俺のハグの方が嬉しかったか?ハッハ!」
「それはもっといらねえ」
「つれねえなあ。さっきのしおらしいモードは一瞬かよ」
ほらよとヴォルドの大きな手から宝石を渡される。まさかの現物支給。宝石なんて日頃関わりがないのでこれがどれくらいの価値なのかパッと見はわからなかった。とりあえずグレイにそのまま渡す。
「あら、いいの?」
「ああ。少しでもテーブルとか備品に使ってくれ」
特に今欲しいものはないしグレイには世話になってばかりだ。グレイは少し悩んだあと小さな琥珀色の石を俺に戻した。
「これはあなたのものにしておきなサイ。労働には対価がないと、違法になっちゃうワ」
「幻獣の世界に憲法なんてあるのか」
「一応、暗黙の了解、てな感じであるわヨ」
「へえ」
巨人や不死鳥…魔法のようなとんでもワールドだが一応ルールがあるのかと一つ学んだ。ふと、隣のフィンと目があった。
すっ…
反射的に目をそらしてしまう。フィンがなにか言いたそうに口を開くが
「さて!お客さんも来ちゃったしあたしは戻るワ~!!ライ、あんたも疲れてると思うけど、暇なぐらいなら手伝いなさい。あっフィンは元気と思うからこの買い出しよろしくネ」
「わかった…」
「ああ、任せてくれ」
互いを包む何とも言えない気まずさをそのままに俺達は店の手伝いへと走るのだった。
***
その夜、いや明け方。俺とフィンは仕事を終えて控室に戻った。グレイはこの後もまだやる事があるので俺たちが先に寝るのが今までの流れなのだが
「…」
「…」
気まずい。この空気のまま寝るのは嫌すぎるので自分から声をかける事にした。
「えっと、遅くなったけど…おかえり」
「!!」
俺の言葉にフィンが安心したような顔をする。距離を保ちつつフィンは膝をついた。
「よかった…もう二度とライに話しかけてもらえないものかと…」
「ンなわけねえだろ…色々整理してたんだよ。そもそも仕事中はちょこちょこ話してただろ?」
「仕事上の会話と私用の会話は違う」
「なんだそれ」
軽く笑ったが、フィンは表情を固くしたまま見つめてくるだけ。なんだよ、と視線をやればおずおずと尋ねてくる。
「ライは私が怖くないのか?」
「…怖くねえ、って言ったら嘘になる。あんたが灰になるのを見た。なのに目の前で動いてる。混乱するなんてレベルじゃねえ」
「…」
「それに、何もかも燃やし尽くすあの炎も…怖い」
火の海を前にした無力感。絶望。それは簡単に説明できるものではない。フィンは俺の言葉に深く頷いた。
「怖がらせて申し訳ない。なるべくライの前では炎は控える。私の能力は…いや私は、人間にとって恐ろしい化物でしかないはずだ」
そう言ってフィンが表情を曇らせる。俺はその顔を見て、首を振った。
「でも…その炎に何度も助けられたのも事実なんだ」
「!」
怖いが感謝もしている。普段フィンが意図的に出す炎は人を焼かない。きっとそうするには…フィンにとってかなりの苦労があるはずで、
(その努力は他者を想っている証拠だ)
どんなに炎が怖くてもフィンの優しさは信じたいと思った。
「炎の恐ろしさも、優しさも…どっちもフィンだ。だから…化物なんて言うんじゃねえ」
「……ライ、」
「明日からはなるべく普通に接する。だからあんたも、普段通りにしてくれ」
「…ああ、……ありがとう、ライ…」
フィンが消え入りそうな声で呟いた。その肩を軽く叩いてベッドの方を見る。
「ほら、もう寝ようぜ。俺ら一週間ぐらい勤務放棄してたし、明日は早起きして働いて返さねえと」
「そうだな」
くすっと笑い、フィンはソファに移動した。俺がベッドでフィンはソファ。これが定位置なのだが、毎回申し訳なくなる配置でもある。
「あのさ、やっぱり日替わりで場所交換しねえ?」
「だめだ。ライにはしっかり寝てもらわないといけない」
「それはフィンもだろ。俺だってそっちでも寝れる。というか体の大きさ的に俺がソファの方が良いって。フィンだと足はみ出るじゃん」
「平気だ。もっと酷い環境でずっと過ごしていた。それに比べたらここは天国のようだよ」
「…」
過去を引き合いにだされると深入りできずそれ以上言えなくなる。ちょっとずるいと思う。俺がふてくされてるとフィンが茶化すように言ってきた。
「では、ベッドで一緒に寝るか?」
「…えっ?」
今なんと?
一瞬時が止まったかと思った。しばしフィンと見つめ合う。
「ハアッ、ハアッ…!」
飛び上がるように起き上がった。慌てて見回せば、グレイの店の控室にいた。営業時間前なのか掃除道具がなくなっている。下を見ると全身を手当された状態の体が見えた。ぱっと見は痛々しいが動かすのに問題はない。
(…あんな火事の中で倒れたのにほとんど軽傷って事か…?)
どんな奇跡が起きたのだろう。
「よくわかんねえけど、生きてる…」
腕を広げ生きてる事を実感するが、まるで他人事のように感情が浮かなかった。
『たすけて』
ふと、助けを求める声が響いて、俺は弾かれるように顔を上げた。
「今の声…!」
ボーっとしててよく聞いてなかったが、フィンを木箱から救いだした時に聞こえたものと同じに思えた。慌ててベッドから出て廊下に移動するが、
「待て…違う、」
すぐにパーティでの事を思い出し、立ち尽くす。
「フィンは死んだんだ…声が聞こえるわけがない」
この目で灰になるのを見た。今のは幻聴だと控室に戻ろうとすると
『たすけて』
「!!」
もう一度、今度は更に大きい声で聞こえた。恐る恐る…声のした方に進む。店の裏口から外に出ればもう夕方で空も薄暗かった。裏口を見回すが、誰も立っておらず、その代わり、地面に取っ手がある部分を見つけて近寄った。
「確か…酒や備品を入れとく地下倉庫だったっけ…」
ガコッ
取っ手を引っ張れば、すんなりと開いてしまう。
(入って何もなければすぐに出よう)
少しだけ、少しだけ見て帰ろう。そう言い聞かせて階段を進む。土のすえた匂いがする。壁側にボタンがあったので押してみる。ライトがついた。
「!」
地下倉庫は控え室ぐらいの広さがあった。物はほとんど置かれておらず、中心にぽつんと箱があるだけだった。1m四方のその箱は無機質な素材でかなり丈夫そうだ。
「…あの時フィンが入ってた木箱と同じ大きさだな」
まさかここで遺体を安置してるのか。
(いや、最後に見たフィンは灰になっていた)
わざわざ灰をこんな大きい箱にいれるとは思えない。思えないが、どうしてもその箱から目が離せなかった。
ごくり
緊張で喉が張り付く。俺は深呼吸の後、ゆっくりと箱を開けた。
「!!」
箱の底には焦げて黒くなった羽が敷き詰められていた。
「え…?羽…?」
吸い寄せられるように羽に手を伸ばすと
ブワッ
羽から突然、炎が吹き出した。
「うわ!!」
とっさに手を引っ込める。間一髪火傷するのは避けられたが、炎は箱いっぱいに広がり、地下倉庫の天井に届くほど大きくなった。
「や、やべえッ!!」
階段まで走って逃げる。こんな密室で炎に飲まれるなんて冗談じゃない。死に物狂いで走って出入り口の所まで逃げた所で、燃え盛る炎の中に“何か”がいること気づく。
「……?」
目を凝らす。熱風のせいで目がしみて涙がでた。涙を拭いて再度見れば、炎を纏いながら男が現れるのが見えた。白金の髪にオレンジの瞳、彫刻のように美しい体。
「あ、あんたは…!」
「…ただいま、ライ」
にこりと微笑むその姿は、フィン以外の何者でもなかった。
***
「んもう、一週間ぶりに目を覚ましたと思ったら速攻ボヤ騒ぎ!?倉庫の中身、外に出してなかったら店ごと消し飛んでんだからネ?!燃えるなとは言わないけど、燃やす場所は考えてチョーダイ!!ンも――!」
プンプンと説教モードのグレイ。俺は地下倉庫で裸のフィンと再会したあと、駆けつけたグレイによって三十分ほど説教されていた。はい、はい、申し訳ありません、と俺とフィンは正座した状態で謝り続ける。ちなみにフィンはまた服を貸してもらい「裸の男」から「ださTシャツ男」へと人権を取り戻している。
「そもそもフィン、あんた死んだってヴォルドちゃんから聞いてたけど?なんで生きてるのヨ??」
「それは、その…まずは謝らせてほしい。最初の自己紹介で私は炎の幻獣と言ったが、それは間違いだ。私は不死鳥…フェニックスという幻獣で…、どんなことをしても死ぬことはない体なんだ」
「なんですって…、ふ、不死身って事??」
「ああ」
「ンまあ…」
さすがのグレイも目を丸くして絶句している。不死と言われて驚かない者はいないだろう。この世にそんな存在がいるなんて思えない…思えないが、実際に俺は目の前でフィンが死ぬのを見た。
(灰になったのにまたこうして会話ができてる…生きてるんだ)
信じられない事が現実として起きている。信じるしかないようだ。
「二人共、隠していて申し訳なかった」
「いえ…不死身なんて稀少すぎるし、隠すのも当然ダワ。不死っぽい能力はありふれてるけど本物の不死身は格が違う。そんな力があったら命がいくらあっても足りない。あんた、大変な人生だったでしょうに」
「…」
グレイの言葉にフィンは表情を暗くした。そのまま黙り込む。それを見たグレイが咳払いをして説教モードを解いた。
「こほん。何はともあれ、記憶修正のついでに灰と羽を回収しておいたあたし、グッジョブって事ネ」
「本当にありがとう、グレイ。もしも龍矢に回収されていたら…また地獄の日々が始まる所だった。この恩はいつか返そう」
「はいはい、期待しておくワ」
「おいおい、営業時間なのに店に誰もいねえじゃねえか」
「「!」」
店の方からヴォルドが顔を出した。途端に部屋が暑苦しくなった気がする。ヴォルドが俺に気づいてよっと手をあげた。
「お、ライも気がついたか。元気そうじゃねえか。まったく、ベランダで見つけたときは死んじまったかと思ったぜ、ハッハ!」
「…」
「ふふ。ヴォルドちゃん、あんた達パーティーで大活躍だったんデショ?人名救助に、瓦礫の撤去、消火活動…こういったらあれだけど怪我の功名よね。良い宣伝ができたんじゃない?」
「ああ!おかげさまで依頼は想定の十倍以上もらえたぜ」
ヴォルドは腕を組み誇らしげに言う。そうか、巨人たちがあの場を収めたくれたのか。彼らならちょっとした炎なら屁でもないだろう。てか、もしかして俺が重い火傷をおわずに帰ってこられたのって巨人族のドレスを着ていたおかげだったりするのだろうか。
(流石巨人族クオリティ…)
送迎車の中で文句を言ってしまった事を反省する。そしてヴォルドの方を見た。
「ヴォルド…あんたが俺を火の中から助けてくれたのか」
「お?ああ、そうだぜ。なんだ惚れたか」
「…ありがとう」
「おいおい急に素直になられると調子が狂うぜ。まあお前らも大変そうだったのは現場見てわかってる、気にすんな」
ヴォルドなりに何かを察してくれてるのか茶化してこなかった。
「で、結局被害の全貌はわかったノ?」
「パーティー会場は全焼、大火傷をおった者もいた。だが今のところ死者は出てない。火の広がり方のわりに運がよかったみてえだ」
「それは何よりダワ~」
死者は出ていない。ヴォルドの言葉に胸を撫で下ろした。
(よかった…)
故意ではないとはいえ、あの火事は俺達が起こした事になる。少なからず責任を感じてしまう。それはフィンも同じらしく表情を固くしたまま俯いていた。
「てなわけでパーティーにおけるライの活躍はゼロ。約束していた報酬はなし…と言いたいとこだが、結果的に商談は成功したしな。すこーし分けてやるぜ。俺の愛に感謝しろ」
「愛ならいらね…うぐっ」
グレイにチョップされた。報酬を受け取れと睨まれる。ヴォルドの方へ向き直った。
「なんだ。やけに不満そうだな。俺のハグの方が嬉しかったか?ハッハ!」
「それはもっといらねえ」
「つれねえなあ。さっきのしおらしいモードは一瞬かよ」
ほらよとヴォルドの大きな手から宝石を渡される。まさかの現物支給。宝石なんて日頃関わりがないのでこれがどれくらいの価値なのかパッと見はわからなかった。とりあえずグレイにそのまま渡す。
「あら、いいの?」
「ああ。少しでもテーブルとか備品に使ってくれ」
特に今欲しいものはないしグレイには世話になってばかりだ。グレイは少し悩んだあと小さな琥珀色の石を俺に戻した。
「これはあなたのものにしておきなサイ。労働には対価がないと、違法になっちゃうワ」
「幻獣の世界に憲法なんてあるのか」
「一応、暗黙の了解、てな感じであるわヨ」
「へえ」
巨人や不死鳥…魔法のようなとんでもワールドだが一応ルールがあるのかと一つ学んだ。ふと、隣のフィンと目があった。
すっ…
反射的に目をそらしてしまう。フィンがなにか言いたそうに口を開くが
「さて!お客さんも来ちゃったしあたしは戻るワ~!!ライ、あんたも疲れてると思うけど、暇なぐらいなら手伝いなさい。あっフィンは元気と思うからこの買い出しよろしくネ」
「わかった…」
「ああ、任せてくれ」
互いを包む何とも言えない気まずさをそのままに俺達は店の手伝いへと走るのだった。
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その夜、いや明け方。俺とフィンは仕事を終えて控室に戻った。グレイはこの後もまだやる事があるので俺たちが先に寝るのが今までの流れなのだが
「…」
「…」
気まずい。この空気のまま寝るのは嫌すぎるので自分から声をかける事にした。
「えっと、遅くなったけど…おかえり」
「!!」
俺の言葉にフィンが安心したような顔をする。距離を保ちつつフィンは膝をついた。
「よかった…もう二度とライに話しかけてもらえないものかと…」
「ンなわけねえだろ…色々整理してたんだよ。そもそも仕事中はちょこちょこ話してただろ?」
「仕事上の会話と私用の会話は違う」
「なんだそれ」
軽く笑ったが、フィンは表情を固くしたまま見つめてくるだけ。なんだよ、と視線をやればおずおずと尋ねてくる。
「ライは私が怖くないのか?」
「…怖くねえ、って言ったら嘘になる。あんたが灰になるのを見た。なのに目の前で動いてる。混乱するなんてレベルじゃねえ」
「…」
「それに、何もかも燃やし尽くすあの炎も…怖い」
火の海を前にした無力感。絶望。それは簡単に説明できるものではない。フィンは俺の言葉に深く頷いた。
「怖がらせて申し訳ない。なるべくライの前では炎は控える。私の能力は…いや私は、人間にとって恐ろしい化物でしかないはずだ」
そう言ってフィンが表情を曇らせる。俺はその顔を見て、首を振った。
「でも…その炎に何度も助けられたのも事実なんだ」
「!」
怖いが感謝もしている。普段フィンが意図的に出す炎は人を焼かない。きっとそうするには…フィンにとってかなりの苦労があるはずで、
(その努力は他者を想っている証拠だ)
どんなに炎が怖くてもフィンの優しさは信じたいと思った。
「炎の恐ろしさも、優しさも…どっちもフィンだ。だから…化物なんて言うんじゃねえ」
「……ライ、」
「明日からはなるべく普通に接する。だからあんたも、普段通りにしてくれ」
「…ああ、……ありがとう、ライ…」
フィンが消え入りそうな声で呟いた。その肩を軽く叩いてベッドの方を見る。
「ほら、もう寝ようぜ。俺ら一週間ぐらい勤務放棄してたし、明日は早起きして働いて返さねえと」
「そうだな」
くすっと笑い、フィンはソファに移動した。俺がベッドでフィンはソファ。これが定位置なのだが、毎回申し訳なくなる配置でもある。
「あのさ、やっぱり日替わりで場所交換しねえ?」
「だめだ。ライにはしっかり寝てもらわないといけない」
「それはフィンもだろ。俺だってそっちでも寝れる。というか体の大きさ的に俺がソファの方が良いって。フィンだと足はみ出るじゃん」
「平気だ。もっと酷い環境でずっと過ごしていた。それに比べたらここは天国のようだよ」
「…」
過去を引き合いにだされると深入りできずそれ以上言えなくなる。ちょっとずるいと思う。俺がふてくされてるとフィンが茶化すように言ってきた。
「では、ベッドで一緒に寝るか?」
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今なんと?
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合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
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