ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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二話

手負いの獣

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 見つめあった後、ふっとフィンが吹き出した。

「冗談だ。さあ、ライ。もう寝よう、おやすみ」

 電気を消そうとするので慌てて引き止める。

「ちょっとまて」

 フィンは意外そうな顔をした。

「おや、私が変なことを言ったから目が覚めてしまったか?」
「そうじゃねえ、…いいぜ」
「?」
「一緒に寝てもいいぜ、って言ったんだよ」
「!!!」

 フィンが驚愕のあまり後ずさる。
 (自分で誘ったくせになんであんたがびびるんだ)
 俺も俺で今さら自分が言った台詞に戸惑っていたが、言ってしまったものは仕方ない。
 (このまま延々とフィンをソファに寝かし続けるのも気が引けるしな…)
 いくら不死身とはいえ、生き返るにはかなり体力を消費するんじゃないだろうか。少しでも休ませたい気持ちが強くある。

「俺がソファで寝たらあんた床で寝そうだし。お互いベッドで寝ればWin-Winだ」
「…ら、ライ…」

 パチン

 自分で電気を消して、ベッドに向かう。背の高いグレイ用だからか、ダブルベッドぐらいのサイズ感はある。

「な?寝るだけなら二人でもなんとかなるだろ」
「……」
「あ、寝相悪くて蹴っても怒るなよ」
「…」

 一向に返事がない。暗いので顔もよく見えないが待ってても仕方ないので奥の壁側に移動して寝転がった。埃っぽさは俺らの掃除のかいがあって改善されている。

 ぎしっ

 やっとフィンもベッドに寝転がったらしい。フィンの体重で地味に中央部分に引き寄せられた。

「…」
「…」

 一分ぐらいして、フィンが寝返りを打つ。その後また寝返りを打ち、俺の方を見てきた。

「ライ…」
「なんだよ…まだ文句あるのか?」
「違う。その…」
「?」
「これは、誘われてるわけじゃ…ないんだな…?」
「はあ?!」

 カーテンの隙間から朝日が差し込んできてる。その朝日に照らされ、フィンの姿が見えた。オレンジ色の瞳と目が合った。

 ぎしっ

 フィンは俺に覆い被さってきて、上から真剣な表情で見つめてくる。前髪の隙間からオレンジ色の瞳が見え隠れする。この距離感、体勢にドキリとした。無駄に色気のある視線を向けられとっさに目をそらす。

「フィンを誘うって…何いってんだよ!俺とフィンの関係で…急に誘ったらキモいだろ…」
「キモくない、嬉しいよ」
「…っ」

 嬉しいまで言われてしまうと逆に否定しにくい。
 (本気なのか冗談なのか分かりにくいって…!)
 ジョークはこの距離感にいる時は勘弁してほしい。俺は戸惑いつつ手をあげた。

「冗談にならねーって、落ち着けよ」

 フィンの肩を押す。しかし、逆にその手を握られ、フィンの左胸に押し当ててくる。どくんどくんと高鳴っていた。

「…っ」

 俺まで緊張してきた。真人と初めて寝た日よりよっぽど緊張している気がする。
 (なんでこんな…今日はソワソワするんだ)
 戸惑う俺にフィンが甘く囁いてくる。

「ライが嫌がることは絶対にしたくない。だがいくら私でも自分の感情を持ってるし…欲もある。ライは私にとって大切な存在だ。大切であり愛おしい。この状況で…落ち着いて寝ることはできない」
「…っ」

 直球すぎる台詞に顔が熱くなる。そこで俺はやっと理解した。
 (フィンの緊張がうつってるのか、俺も)
 台詞は直球で堂々としているが、フィンの声は震えていた。本人もどうしたらいいのかわからないのかもしれない。俺の上で困ったように眉を寄せていた。心臓の鼓動は早く、体も熱い。
 俺も俺で色んな感情が混ざりあっていたがこの場でやるべきことはわかっていた。

「…フィン」

 とんとん

 フィンの背中をさすってやる。びくりとフィンが驚いて固まった。

「ラ…イ…?」

 男に襲われかけてる、普通なら恐怖を覚えてもおかしくない状況だが、不思議とそれはなかった。逆に大型犬が尻尾を垂らしてるみたいに見えて、可愛いとすら思えてしまう。真人の時も思ったが俺は素直な存在に弱いのかもしれない。

「悪いけど、俺はまだ前の恋人…真人の事を忘れられていない。…だから今はフィンと向き合うことはできねえ」
「…!」
「フィンは仕事仲間としても、一緒に暮らす隣人としても、大事な相手だ。だからこそいい加減な事はしたくないんだ」

 これがどうでもいい相手からの誘いだったら、場の流れにのっていたかもしれないが。目の前にいるフィンはそうじゃない。俺の言葉にフィンは俯いて、それから真剣な顔で見つめてきた。

「まだ…」
「?」
「まだという事は未来はわからないという事でいいのか?」

 期待の眼差しを向けられ、懲りないやつだなと笑いがこぼれた。

「まあ、そういうこと…かな」
「そうか!!それならいい!ライは魔性の男だな。私をこんなにワクワクさせる人間は今までいなかったぞ」
「そりゃどうも」

 フィンはそういって俺の上から移動していく。あと左足だけというところで動きが止まった。

「…ライ、ひとつ良いか」
「ん?」
「触れるのはアウトだろうか?」
「触れ…るのは色々接触してるしもう今更だろ」
「じゃあこれは?」

 俺の手に重ねてくる。暖かい手だ。フィンは不死鳥だからか体温も高い。その熱っぽさにドキっと心臓が跳ねる。

「…セウト」
「せうと?」
「セーフとアウトが混ざった感じってこと」
「つまりダメか」
「はは、いいよ」

 (暖かいの好きだし)
 寒いよりよっぽど良い。眠気もちょうどやって来た頃で、フィンの手の暖かさを感じながら目を瞑った。笑ったことでお互い体の力が抜けリラックスしている。このまま泥のように寝てしまおう。

「ライ、あなたは…」

 フィンが何か言っていたが俺はもう深い眠りに入っていてよく聞こえなかった。


 ***


「龍矢様…お体の調子はいかがでしょうか」
「…いい、から…報告を」

 ベッドで横たわっていた龍矢がうめく。点滴と包帯でかなりの重傷だとわかる。

「しかし…もう少し休まれてからの方が…」
「早く、し、ろ」

 包帯の隙間から鋭く睨まれる。側にいた男が顔を真っ青にして報告した。

「ひい!ふ、フェニックスを追わせてるチームから連絡がありました。奴らは歓楽街の店に逃げ込んだようです」
「店…?そんな…もの、潰、せ…っ」

 ガラガラの声で潰せと命令する。

「すすすすみません!!それが…っ、店に近づくと霧が出てうまく進めないとの報告があり…対処できる者が着くまで待機中とのことです」
「霧…?」
「はい、今のチームでは対応できない類いのものらしく…」
「フェニックス以外の、化け物…が近くに、いるのか…」

 龍矢が悔しそうに歯軋りする。タイミングを見計らったように男の電話が鳴った。龍矢が「でろ」と顎で指示する。

「失礼します……はい、は!?なんだと?!ああ、ああ…そんな、バカな…」
「一体、今度は、何が起き、た、?」
「フェニックスを追わせていたチームが…全滅しました…」
「!」

 全員の連絡が突然同時に途絶えたという。他チームが異変を感じて近くに行ったが灰以外何もなかったらしい。

「ははっ、はっあははっ!はっ!がはっ、ゴホッ」
「龍矢様!!」

 龍矢が狂ったように笑ったあと吐血する。慌てて男が駆け寄った。それを制止して龍矢は続けた。

「手負いの、獣は…恐ろしい…ましてや、奴だ…人間なんて、紙く、ず程度…ははっ化け物め!」
「龍矢様…」
「すぐ、に撤退、だ…」
「はい!」

 バタバタと慌てて男は飛び出した。廊下が一気に騒がしくなる。それを聞きながら龍矢は痛みにうめいた。

「くそっ…よく、も、僕、にこんな…」

 龍矢が重々しく顔をあげる。火傷でほとんど動かせない体だったが必要なものは近くに全て置かれていた。その一つに…周りと毛色の違うものがあった。大きめに作られた女性物の靴だった。龍矢が乞うように手を伸ばす。

「また、君に…会いたい、な…巨人族の…お姫様…」


 ***


「おい!酒が足りねえぞ~!」
「はいはい今いくワ~」
「グレイねえさん!こっちも追加で!」
「ンモー!あたしは一人しかいないのよ!ライにいってチョーダイ!」

 店は巨人たちの打ち上げで大盛況だった。明日、次の場所に旅立つらしい。ガバルドが寂しげに語っていた。

「あーあー。またしばらくグレイねえさんとはお別れだな…寂しいぜ…」
「いやあねえ、またすぐ会えるわよ。それにそんな悲しい顔してたらお酒不味くなっちゃうわヨ~」
「ううっそうだな…よし!今日はとことん飲むぞ!おめえら!一番飲んだ奴にボーナスくれてやる!潰れるまで飲め!この店潰すつもりで飲めええ!」
「「うおおおお!」」
「潰されたら困るけどどんどん飲んで~♪」

 (うわあ、清々しいぐらいのアルハラだな)
 巨人にハラスメントはないのだろうか。呆れつつ次から次へと届くグラスや皿を洗っていく。簡単な飲み物なら作れるようになったのでそれもこなしながら巨人たちの注文をさばく。

「おい、ライ。病み上がりにしては動けんじゃねえか」

 俺の前を陣取ってる巨人が一人。誰かは言わなくてもわかると思うので以下略とする。俺が無視していると酒をすすめてくる。

「お前も飲め!怪我にきくぞ」
「きくわけねえだろ。巨人はともかく、人間は病み上がりに酒は逆効果だからな」
「そうなのか?ひ弱な種族だぜ」
「そのひ弱な種族に負けたお強い巨人は誰だっけ?」
「っかー!可愛げのねえ口だ」

 やれやれとヴォルドが肩をすくめた。酒を水のように飲み干す。おかわりを追加してやると上機嫌で受け取った。

「そういや保護者はどうしたよ?ここら辺で噛みついてくると思ったが」
「確かに…今日は買い出しはないしな…」

 俺に何も言わず消えるなんて珍しい。何かあったのだろうか。

「ちょっと見てくる」
「おおい、客ほっぽりだすんじゃねえー!」

 ヴォルドを無視して控え室に移動した。いない。裏口から外も確認したがそこにもいなかった。

「一体どこにいったんだ…」
「誰を探してるんだ?」
「うわあ!」

 真横から囁かれ飛び上がる。フィンだった。いつもの穏やかな笑みを浮かべている。

「フィン!」
「もしかして私を探してくれたのか?嬉しいよライ!」
「ーっ!おっと!」

 抱きつかれそうになるのを避ける。フィンが口を尖らせた。

「つれないな…」
「ったく、こちとら遊んでる場合じゃねえんだって。巨人の団体客が来てて、猫の手も借りたい状況なんだよ」
「そうか、残念だがグレイを困らせるわけにはいかない」

 フィンと店の中に戻った。廊下を歩いてると、ふと焦げ臭い匂いがした気がして横を向く。

「フィン…あんた、何か焦げ臭いな」
「おや、そうか。先ほど近くで火事があったみたいだから確認してきたんだが…すまない、匂いがついてしまったな。着替えてこよう」

 (なんだ、火事があったのか。巨人がうるさすぎてわからなかったな)
 フィンの背中を見つめながら頭をかいた。

「先いってるからなー」

 フィンが控え室に入るのを見届けて俺は騒がしい店内に戻った。

 ざわざわ

 巨人たちの声でうるさいはずなのに頭の中はシーンと静まり返っている。キーンと耳鳴りがしてきた。
 (気にしすぎだよな…?)
 フィンに火事を起こす理由はないし、本当に火事を見に行っただけだよな。焦げ臭いってのも俺の勘違いかもしれないし。
 (最近火の関係で良い思い出がないし過敏になってるだけだよな)
 俺は忘れようと頭をふった。

「やっと戻ってきたかライ!こっちこい!俺と腕相撲しろ!」
「はあ?」
「お前が負けたら嫁にこい!」
「やるか馬鹿!」

 ガバルドや他の巨人たちがワアワアと盛り上げてくる。

 (こちとら病み上がりだっつってんのに)

 接客の難しさに顔をしかめる。だが巨人たちにつられて気分が明るくさせられているのも事実だ。接客は面倒なことも多いが、こちらがもらう事もあるらしい。

 (奥が深いな)

 俺はまた一つ学ぶのであった。
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