ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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三話

一族を背負う者

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 (誰か、フィンを止めてくれ…!!)

「そこまでじゃ!!!」

 駐車場に突如として鋭い声が響く。ビリビリと鼓膜が痺れるほどの声量。

「っっ…!!」

 俺とフィン、熊すらも動きを止めて声の方をみた。

「なっ…あんたは…!」

 刈り上げ頭の柴沢が立っていた。森の中にスーツ姿の男が立っているという奇妙な光景。まさかの人物に放心していると、柴沢は首をふって否定した。

「申し訳ないが、わしは柴沢ではない」

 そういって柴沢はぐにゃりと姿を変えた。和服に身を包んだ小柄な男が現れる。初老の優しそうな男だった。
 (変化した…のか?!)
 和服には大きく狐の家紋が描かれており、袖からチラリとのぞく肌にはびっしりと刺青が彫られていた。どう見ても一般人じゃない。そもそも今目の前で見せられた姿を変える能力。まさかユウキの親族か。柴沢もどきが俺の視線に応えるように手を振った。

「騙していてすまんかったな。ライと言ったか。うちの倅が迷惑かけて悪かった」
「せがれ…息子…え?!」

 だめだ、もう頭が追い付かない。俺の戸惑いをよそに小柄な男が熊へと近づいていく。それ以上近づいたら熊の攻撃範囲に入ってしまう。

「待て!危な…」

「こんの――馬鹿者ッッッ!!!」

 その小柄な体からどうやって出したのか、驚くほどドスのきいた声が響いた。鋭すぎる叱声に、森中へ広がっていた炎が一瞬にしてかき消された。あのフィンですら姿勢を正してしまっている。

 グァウウ!

 熊は飛び上がって驚いたあと風船のように大きな体が弾けた。残ったのは竦み上がった人型のユウキのみ。今の叱声(爆音)で正気に戻ったらしい。

「お、おおおお、親父!?なんでここにっ」
「なんでもなにも、ずっと化けて見ておったわ!馬鹿者!!」
「えええ?!柴沢に化けてたのかよ!?」

 ユウキもだが俺も驚きを隠せなかった。俺が目を覚ました時からずっと柴沢は側にいた。まさか中身がユウキの親父さんだったとは思わなかったし疑いもしてなかった(柴沢っていう人物を知らなかったし仕方ないけども)。

「やっとユウキが客を連れてきたと期待しておったが、試験はおろか暴走して正気を失うとはな!!見損なったぞ!!」
「ひいいいいごめんなさいっ!!」
「謝っても結果は変わらん!!お前が我を失ってる間…殺戮する化け物に落ちていたのだぞ!!」

 ユウキの親父さんは厳しい顔のまま叱りつける。有無を言わさぬ叱声に誰もが口を挟めずにいた。

「わしらは人ならざる存在。そんなわしらが人の世で生きるには、人よりも賢く、正しく生きねばならん!!お前のような我を忘れて変化し、暴れるような愚か者に一族を背負う資格はない!出ていけ!!!」
「ううう…っ」

 ユウキは言い返せないまま肩をおとした。涙を滲ませて俯く。確かにユウキは変化の力を暴走させ正気を失いかけた。
 (だがそこまで追い込んだのは俺たち…いや、俺のせいだ)
 同級生の喧嘩や恋人のもつれとはわけが違う。俺は大人でユウキは子供だ。下手に希望を抱かせ、懐かせて落とした罪は重い。
 (結果としてはたぶらかしたみたいなもんだ)
 流石にこのままユウキが家を追い出されるのは忍びない。一歩前に出た。

 すっ

「あの、すみません、あなたはユウキの親父さんで合ってますか?」
「あぁ挨拶が遅れたのう。わしは狐ヶ崎の一族をまとめてるハジメいうもんや。わしらの面倒事に巻き込んで本当にすまんかったなあ。怪我の治療費はここに請求してくれ。すぐ対応するからのう」

 名刺を渡される。柴沢と書かれた名刺だった。そこは自分のじゃないのかと内心つっこんだのは内緒だ。

「ありがとうございます…でも待ってください。今回の事は俺のせいなんで、ユウキだけを責めないでもらえると…!」
「いやこっちの落ち度だ。ライの事情は化けている間に聞いておったし知っておる。噂の事もな。この一件に関しては他の幻獣には申し訳ないことをしてしまった。謝罪させてくれ」 
「!!」
「しかし、お前さんが悪くないとはいえユウキの未熟さは消えない。己の能力にのまれるなんて一族の恥。狐ヶ崎の風上にも置けん。責任はしっかりとらせる!!」
「…っ」

 ぴしゃりと言い返され取り付く島もなかった。だが俺もここで引くわけにはいかない。

「今日一日ずっと見ていたならわかるはずです。ユウキは十分なほど変化能力を使いこなせています。初めて変化をみた時、俺は騙されてホテルについていくほどでした」

 ホテル??とフィンから怪しむ視線を向けられたがスルーしておく。親父さんは一言一句聞き漏らさないように俺の方をじっと見ていた。俺もその視線から逃げずに向き合う。

「そして土壇場での機転も良い。精神的な面で言えばまだ幼い部分があるかもしれませんが、一族を背負えるほどの能力・度胸はすでに持っていると思います。彼はきっと狐ヶ崎家の役に立つはずです」
「ライぃぃ…」

 ユウキが涙を流しながら俺を見上げる。味方してもらえると思わなかったのだろう。俺はユウキに一度頷いてから、親父さんに向き直った。そしてユウキの頭を押さえながら一緒に頭を下げた。

「お願いします!どうかもう一度!ユウキにチャンスを与えてやってください!」

 しーんっと場が静まり返る。顔はあげずにぐっと耐えた。するとため息が聞こえてくる。

「お前さん…」
「…」
「熱い、熱いのう!今どきの若いもんとは思えんほど熱く優しい…!竹を割ったような性格はわしは大好きなんじゃ!気に入った、気に入ったぞ!!」
「へ…?」

 親父さんが俺の肩を叩いてきた。さっきとは打って変わりやけに上機嫌である。

「ユウキがお前さんに惚れ込んだのも理解できる!これは男でも惚れるタマだなあ!はっはっは!」
「え、えっと…」
「ライ、お前さんの言葉に免じて許してやるとしよう」
「!」
「ほ、ほんとかーー!親父!!いてっ」

 喜ぶユウキをぺしっと叩いて黙らせる。まだ喜ぶのは早いだろう。親父さんの様子を伺う。俺の視線を受けて親父さんはうんうんと頷いてきた。

「ユウキは生まれてすぐ変化の能力を使いこなした。天才じゃと思った。だからこそどう接すればいいかわからなかった」
「…親父」
「その結果、ユウキを放任してしまった。わしにはそんな能力がなかったからこそ、どう育てればよいかわからなかったのだ。ユウキの幼稚さは、わしにも責任がある。ライよ、…お前さんの熱い言葉のおかげで考えさせられた。ありがとう」

 どうやら一族から追い出される危機は去ったらしい。ホッと胸をなでおろしていると、親父さんがニコニコと目を細めて狐のような微笑みを浮かべている。

「それでライよ。話が少し変わるが、お前さん仕事を失い行く当てがないのだろう?うちの組に入らんか。お前さんなら皆歓迎するぞ。わしもユウキもな」
「い、いやーそれは…やめときます…」
「えええ、ライが来てくれたら俺すっごく嬉しいのに~!!勉強も変化の修行も頑張るよ!!?」
「俺がいなくてもちゃんとやれ馬鹿」
「はっはっは!こんな風に叱ってくれる存在は貴重だぞ、ユウキ」

 親父さんが笑いながらユウキをたたき起こす。ユウキは反省気味なのか小さく頷いて俺の方を見てきた。

「わかってるよ。やっぱり俺にとってライは特別だ」

 じっと見つめられる。その視線の真意はわからなかったが特別という言葉に色んな意味が込められていた気がした。

「俺頑張るからさ。ライ、また遊びに来てくれない?」
「ちゃんと真面目にやってたらな」
「ほんと??!たくさん美味しいものと遊べるもの用意して待ってるからな!!絶対な!」
「はいはい」

 俺の言葉を聞いたユウキはホッとして飛びついてくる。子供ってのは起き上がりが早いのが良い所だ。こうやって失敗してもまた起き上がって進めるならそれでいい。

「ライ~!」
「まったく…苦しいからそろそろ離れろって」

 やれやれと俺がそのままにしていると、横からフィンの手が伸びてきた。ぐぐぐっと問答無用でユウキを引き剥がしていく。

「いででででっ」
「食事は私の分の用意も頼んだぞ。狐の子よ」
「ええええ…!!あんたちょいちょい目が怖いんだよ…」
「ん?」

 文句あるか?とフィンが笑みを浮かべて黙らせた。ユウキは手を上げて降参ポーズをする。説教は足りてるらしい。フィンは表情を戻した後、こちらに向き直ってくる。

「さて。ライ。これで狐の子が落ち着いたし、ドッペルゲンガーの件は片付いたということか?」
「ああ、えっと。ユウキってしばらく試験は」
「中止じゃな。人様に迷惑をかけてまで試験をやるものではない。ユウキが成人するまではまだ半年ほど時間がある。調整して再度試験は受けさせるが、この方法ではやらんから安心してくれ」

 ホッと胸を撫で下ろした。これで一件落着だ。グレイとリリイに報告にいける。

「ええ~俺また試験やらされるの??もういいじゃん…」
「何がよいのだ!そういうところがまだまだなのだ!!お前の精神をわし自ら鍛えてやるからの!!」
「えええ…親父が?!」
「放任していた分を取り戻す為にも厳しくいくからのう」
「死ぬってーー…!!」

 嫌だと叫びつつ、なんだかんだ親父さんといられるのは嬉しそうだった。首根っこを掴まれて説教の続きを始めそうな勢いだったので、俺たちはそそくさと去る準備をする。親父さんが気付いてこちらをみてきた。

「ん?お前さんたち、こんな夜遅くに帰るのか?泊まっていってよいのじゃよ」
「大丈夫です。まだやることが残ってるので」
「なるほど。では、柴沢に車を用意させようかの?」
「えっと」
「いえ、結構です」

 フィンがすかさず答えた。その言葉を裏付けるようにフィンは瞬く間に自分の姿を大鳥へと変えた。そして

 バササッ

 羽ばたいてみせる。これで帰るのだと伝えるように。親父さんは驚いたあと深くは追及せず頷いた。自分たちも幻獣の一族として生きてるためか察しが良い。

「そうか、気をつけて帰るんじゃよ」
「ライ~~またな~~!!絶対遊びにきてよーー」
「はいはい、またな」

 挨拶が終わると同時にフィンにつつかれる。早く乗れと言っているらしい。
 (お、落ちないよな…これ…)
 乗ると言ってもシートベルトなんてものはない。十分座れるスペースはあるが不安の方が大きい。しびれを切らしたフィンが羽で押してきた。バランスを崩した俺はフィンの背中に倒れこむ。

「うわっ、わ!」

 俺が乗ると同時に大鳥は飛び上がった。羽ばたく度に高度が上がり、あっという間に視界が開ける。

「すっげ…!!!」

 俺たちがいた駐車場はすでに親指ほどの大きさになっていた。そのまま大鳥は旋回して街の方へと飛んでいく。キラキラと輝く街の光は今まで見たどんな夜景よりも綺麗だった。
 (俺たちが住む町は…こんなに綺麗なのか)
 ビルや町から色とりどりの光が溢れ連なる景色は、人間が作り上げた現代の奇跡だと思った。こんな夜景、普通じゃ絶対みれないだろう。日本三大夜景に匹敵すると思った。

 ヒュオオ

 フィンの羽が風を切っていく。吹き抜ける風も気持ちよかった。少々風が強すぎて長く瞼を開けられないのが玉に瑕だが。目を擦りながら夜景を眺めているとフィンが心配するようにみてきた。俺が静かになったので不安になったのだろう。

「フィン、大丈夫だ。ありがとな」

 たてがみに覆われた背中を撫でる。すると大鳥は嬉しそうに大きく羽ばたいた。

「わっ!おい!安全運転だぞ!!フィン!」

 ギャオオオン!

 応えるように鳴いてくる。その後もしばらく俺達は夜景を楽しむのだった。


 ***


「あーら!遅かったわネ~!」
「人間ー!遅すぎなんですけどー!!ムキー!」

 賑やかな声に出迎えられ面食らう。夜中なのに元気なことだ。

「悪かったって。色々あったんだよ」
「色々って??てかなんであんた狐一族の服着てるのよ。似合ってるケド」
「実は…」

 リリイの店を出てからの出来事を全て話す。聞き終えたグレイはうんうんと頷いて腕を組んだ。

「なるほどネ!狐家の息子が試験のために化けてて、そのせいでドッペルゲンガー現象が起きてたわけネ~~」
「なーんだ、そんなことだったの。怖がって損しちゃった!はた迷惑な一族ね!!ムキー!」

 グレイとリリイがそれぞれ納得する。はた迷惑なのはどこかの妖精もなのだが、長引かせたくないので静かにしておく。

「さあ!解決したし、換金するわよー!!」

 リリイが弾かれたように中央のテーブルに移動した。ひらりと蝶のように舞いながら着席する。目の前のテーブルに宝石や石を並べていく。

「…なんだ、もう換金できるのか?流通の関係で金を用意できなかったんじゃないのか」
「あんたたちのあとに客が来たから、+αの分は問題ないわ!他は小切手になるけど」

 リリイが当初用意していた小切手とは別にぎっしりと札束の入った封筒をテーブルに置いた。これが追加分らしい。

「グレイ姉様、数えてもらえるかしら」
「ええ、もちろん………うん、ぴったりネ。いつも良い仕事をしてくれて助かるわ、リリイ」
「姉様はお得意様だもの~!また来てね!あ、もう人間は連れてこないでよ!」

 俺にべーっと舌を出してくる。疲れてるので苦笑いを浮かべるだけで終わらせた。グレイがこちらに向き直る。封筒を俺に渡してきた。

「これがちょうどあんたの分ぐらいだから渡しておくワネ。少し多めだけど今回のお駄賃ということでイイデショ?」
「お、おう…ありがたくいただきます」
「ハ~イ」

 封筒を開けて確認すると30万ぐらい入っていた。結構な額にちょっと引いた。
 (俺のって琥珀色の石の分だけだろ?それでこれなんだからヴォルドは一体いくら俺たちに払ったんだ?)
 チラリと小切手の方を確認する。

「ご、ごひゃくまっ…!!!」

 絶句した。グレイとリリイが楽しそうに笑っている。こんな大金を、目の前の幻獣たちはきゃぴきゃぴ笑いながら取り扱っていたのか。
 (恐ろしすぎる…)
 俺が引いてるとグレイがくすくすと笑った。

「命懸けの仕事だとしたら安いものだと思うワヨー?これでテーブルも買えそうだしついでに色々揃えちゃお~っと!」

 上機嫌なグレイを尻目に俺は手元の封筒を眺めた。
 (これがあればベッドは買えそうだな…)
 色々ありすぎて当初の目的を忘れかけていたがこれでやっと買うことができる。といっても夜中になってしまったのでもう家具屋もやってないだろう。明日にでも買いに行くとしよう。

「ライ、よかったな」

 フィンが微笑んでくる。どこか表情が固いが今日は色々あったし疲れているのだろう。

「ライ、フィン。あたしはまだ買いたい物があるから先に帰っててチョーダイ。あ、買い物袋は持って帰ってネ♪」
「まだ遊ぶつもりなのか??」

 どんな体力お化けだと思ったが、月に一度のちゃんとした休暇なのだ。グレイには日頃の疲れを癒すべく、思いっきり羽を伸ばしてもらいたい。俺はグレイの大量の買い物袋を受け取って、フィンと共に帰路に着くのだった。



「フィン、シャワー先にありがとな」

 次どうぞとタオルで拭きながら言うと、ソファに腰掛けていたフィンが俯いたまま停止していた。

「フィン?」
「ん?あ、ああ、シャワーだな。行ってくる」
「…」

 (なんだあいつ)
 やけにぼーっとしていて、あの調子じゃ壁にぶつかっても気づかないんじゃないかと不安になる。さっきも表情が固かったが何か悩んでいるのだろうか。
 (まあ、気にしても仕方ないな)
 さっさと寝て明日に備えよう。ベッドの方へ行った。かけ布団をめくり体をすべり込ませる。疲れ切った体が一気にリラックスするのを感じた。

「はあ~…今日は濃かったな…」

 ドッペルゲンガーの噂から始まって、リリイやユウキと出会い、最終的に炎の大鳥VS巨大熊の戦いだもんな。一日で起きたとは思えない濃密な内容である。

「ベッドを見つけるだけのつもりが…とんだ日になったな」

 欠伸をしていると、フィンがシャワー室から出てくる気配がした。フィンは烏の行水でかなりシャワー時間が短い。炎を扱う幻獣だし水が苦手なのは当たり前なのだが、もう少しゆっくり入ってもいいのにと思ってしまう。

 ぺたぺた

 濡れた足の音がする。控室はすでに暗くしてるので廊下の光だけしか見えない。逆光で暗くなったフィンが廊下の奥から現れた。

「ライ、眠ったか?」
「…起きてる」
「そうか」

 体を拭きおえたフィンがベッドに腰掛ける。ギシっという音と共に頭に何かが触れてきた。

 すっ…

 優しく撫でてくる。
 (これは…フィンの手か?)
 どける事はしないが不思議に思って尋ねた。
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