ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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三話

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「なんだよ、急に」
「いやライが無事でよかったと思ってな」
「…おかげさまで」

 疲れてるという事もあったが、フィンの熱い掌が心地よかった。目を瞑ってその温度を堪能しながら呟く。

「ありがとな、フィン。今回もフィンのおかげで助かったわ」

 フィンがいなかったら最悪死んでいたかもしれない(俺の人権が)。

「全く…冗談でもやめてくれ。ライを失うなんて考えたくない」
「はは、どうして俺にそこまで執着すんだよ」
「どうして…か」

 フィンは頭から頬に掌を移動させてきた。熱い掌がさらりと頬を撫でていく。その感覚にぞくりと震えた。

「私は不死鳥だ。この不死の能力を、他の者は憧れる。だが私からすれば死んで生まれ変わる事しかできない空虚な存在だ。死ぬ度に心が死んでいくし、生き返っても他人に何か与えることはない…空っぽな存在だ」

 淡々と話していく。廊下から届くかすかな光がフィンの横顔を照らした。顔の中心は暗くなっていて表情はわからない。

「今日見た狐の一族は…人の世で生きる為にしきたりを作りそれを守る事で自らを律していた。“しきたり”や“親子”という縛りは不安定だが、あれが生物として正しいのだと痛感する。生まれて、何かを得て、それを次に託して死んでいく。その不器用さが美しく…妬ましかった」
「フィン…」
「話がずれたな申し訳ない。私が執着してる理由だが、不死鳥の体は生まれ変わってすぐに見た存在を愛するようにできている。まるで生まれたての雛が最初に見た者を親だと信じてしまうように…本能に刻まれているのだ」
「そ、そんな本能があんのか」

 動揺してる自分がいた。
 (つまりなんだ)
 直近の“フィンが生まれ変わった時”に居合わせたのは俺のはず。木箱の時も、龍矢に殺された時も…そこから生まれ変わった時も俺がいた。だからフィンはあれほど俺に好意を向けて執着してきたのか。

「すげえ本能だな…」

 ポツリと呟く。フィンから告げられた新事実に何故かショックを受けている自分がいた。俺は、何を期待していたのだろう。

「すごくはない。厄介な本能だ。最初はその本能のせいでライを追いかけていたが、最近になって別の感情が浮かんできている事に気付いたのだ」
「別の…?」
「言葉にするのも憚られる、黒い感情だ」

 どんな感情なんだ?と聞きたかったが聞いたらもう戻れない気がした。口を閉じてフィンを見つめる。暗い中、宝石のように美しいオレンジの瞳とぶつかりドキリとする。

「ライ。ライはまだ、真人という男を想っているのか?それとも今日の狐の子供に情がわいたか?」
「…なんでここで真人とユウキが出てくるんだよ」

 フィンの話にあの二人は関係ないだろう。

「関係ある。ライの気持ちが知りたいのだ」
「…っ」

 やけに真剣な顔を向けられはぐらかせなくなる。
 (俺の気持ち?俺の気持ちなんて聞いても…)

「ライ、教えてくれ…」

 顔が近い。暗さに目が慣れてきてフィンの顔が見えてきた。
 (こんな近くで見ても格好いいとかバグだろ)
 赤くなった頬を隠すように顔をそむけた。それから沈黙に耐えきれず口を開く。

「……ダセえけど…俺はまだ真人の事を引きずってる。今回ユウキが真人に化けた時すごく動揺したのが良い証拠だ」
「…ホテルについていったと言っていたがそれの事か?」
「まあ、な…」

 よく覚えているな。俺は顔をしかめた後小さく頷いた。悪いことはしてないが(ラブホの時は)やけに気まずい。言い訳するように口を開いた。

「真人だと思ってついていったんだ。途中で気づいたが、ホテルに入っても逃げなかった俺も同罪だと思う」
「…」
「ただ…最後までは流されてないからな」
「本当か?」

 顎をつかまれ前を向かされる。オレンジの瞳が射ぬくようにこちらを見ていた。あまりにも鋭い視線に体が強張る。ごくりと唾をのみこんだ。

「…っ、ここで嘘ついても仕方ないだろ…、本当だ」
「どこにも触れられてないのか?」
「…」

 俺が黙っているとピシリと空気がひりつく感じがした。ヤバイ。本能的に危機を感じ身構える。離れようとしたところでがしりと腕を掴まれた。

「どこを触られた?」
「放せ、うっ、おい、っ…触んなって」
「ここか??」

 フィンの手が首や肩、腕に触れてくる。際どいところじゃなくても熱い掌が触れるだけで体に刺激がたまっていくのがわかった。ユウキの時に何度も高ぶらされた熱が再燃する。高ぶっては下がるの繰り返しだった体が、やっと解放できるのかと期待していく。
 (落ち着け、相手はフィンだぞ…!)
 必死に冷静になろうとしてもフィンからの刺激はやまないどころか増えていく。軽くパニックに陥った。

「フィンっ…やめ、やめろ、って!」

 叫ぶと、腹あたりで掌の動きが止まった。しかしまたすぐに動き出す。ゆっくりと撫でるように腹から腰に移動していく。

「服は脱いだのか?裸は見られたのか?」
「っ、はっ、…脱いでない」

 “ホテルでは”脱いでない。その後の屋敷の風呂では全裸だったが。ズルい言い方だが正直に言ったところで事態が良くなるとは思えなかった。
 (これ以上フィンを刺激したら無事ではすまない…!!)
 なんでこういう時に限ってグレイがいないのか。いつもなら危ない雰囲気になると現れてくれるのに。いやまあ休暇中だし当たり前なのだが、このままでは身の危険を感じる。
 (こうなったら力ずくでも逃げねえと…!)
 体を捩ってフィンの手から抜け出そうと暴れた。

「やめろって…!!」
「ライ、暴れないでくれ」

 どさっ

 うつ伏せでベッドに押し倒される。手首をひとまとめにされ縫い止められた。この体勢を自分よりもガタイがいい奴にやられて恐怖を覚えない者はいるのだろうか。フィンはよく知る相手のはずなのに恐怖を感じた。慌てて後ろを見る。

「おいっ!フィン、悪ふざけがすぎるぞっ」
「ライの体の無事を確かめなければ」
「はあ??無事だっつってんだろ!」
「私を心配させまいと嘘をついてる可能性がある」
「んなわけ、くっ、おい!はっ…勝手に脱がすな!…んっ!」

 手首を拘束されたまま服をめくられる。下の方は問答無用で下げられあっという間に裸になってしまった。羞恥心やら驚きやらで心が追い付かない。ユウキの時と違って激しい拒絶反応はないが、その代わり恥ずかしさは何倍もあった。顔が熱い。

「このっ…!!」

 蹴ったり腕を動かして暴れてみるが、フィンの奴、こういう時だけ馬鹿力を発揮してくる。体勢の不利もあり抜け出せそうにない。

「はあ、はあ…フィン!も、わかったろ!はあ、んっ…離せ、って!」
「どこにも痣はない…痕もないな…キスや抱擁はしたのか?」
「それは…少し、した…け、ど、~んむっ!?」

 フィンと唇が重なる。温かくて柔らかい感触に目を丸くした。

「ンンンっ!!」

 後頭部を掴まれ無理やり唇を合わさせられる。顔を背けて避けようとするが、俺の動きを見てフィンの方から離れていった。ほっと安心したのもつかの間、離れていく際にフィンの舌が唇を拭ってきた。ぬるりと、家族や友人に向けるそれとは別の感情がその舌にはあった。

「はあっ、はっ…フィンっ…なにす…っ!」
「消毒だ」
「し、消毒って…ハア、んっ、そこ…!はっ…」

 手首を掴んでる方ではない手で俺のに触れてきた。半端に反応しかけているのが悔しい。フィンの指が形を確かめるように撫でてくる。

「ここは…?触られたのか?」
「もっ…っ、いい加減に、しろ、って!怒る、ぞ…あぁっ!」
「怒る?私だけに向けてくれる感情ならいくらでもほしいぞ、ライ」
「意味、わかんっ…ねえ、って!んんっ」
「わからなくてもいい。それより、このままじゃライも辛いだろう?」

 これ、と言うように指先が食い込んでくる。

「うぅっ…っ!…やめ、ろ!」
「大丈夫、私に身を任せて」

 囁きながら耳を舐めてくる。指は俺のに絡み付いてるし、背中に触れる体は燃えるように熱いしで頭がパンクしそうだ。

「はっ…フィ、ン…っ、これ、ああっ、怖い、っから!」

 せめて仰向けにしてほしい。フィンの顔が見える方がまだ怖くないはずだ。懇願するがフィンの手首の拘束は離れなかった。代わりに安心させるように優しい声音で囁いてくる。うなじ辺りがフィンの吐息で溶けそうだった。

「怖がらなくていい、後ろにいるのは私だ。だが今は…私じゃなくて…思い浮かべたい者を想像してくれ。その方が気持ちがいいはずだ」
「そん…あっ!…んんっ、はあ…、あっ」

 (思い浮かべたい者って…真人って言いたいのか??)
 いくら引きずってるとはいえ真人で抜きたいとは思わない。盲目過ぎる過去の自分を思い出して逆に萎えそうなぐらいなのに。
 (フィンはどんな勘違いしてんだよっ)
 説明しようにも体はもう溶けていて自分の思うようには動かない。頭も少しずつ熱にやられてきていた。

「はっ、フィンっ、んあ…!ああっ」

 フィンの指で誘われるように、快楽の波が押し寄せてきた。
 (いきたい…)
 フィンの手でいきたくない。汚したくない。恥ずかしい。けど、いきたい。出したい。理性と欲望が入り交じり、頭がおかしくなりそうだ。

「はあっ、あっ、そこ、ンンッ、ダ、メだっ、フィンん、うぁっ」
「ライ…泣いてるのか?」
「ばか、やめっ…、ひっ、ああっ!!」

 弱いところを吐露すれば更に指が攻めてくる。もう限界だ。俺の限界に気づいたフィンが首を舐めてくる。

 ぬるっ

 舐められた肌が泡立つように、ぞくぞくと刺激が駆け抜けた。

「はっ、あああっ…いく…っ!」

 どくどくと溢れさせた。ずっと我慢させられていた分出しきるまで時間がかかる。

「はあっ、ハア、ハアっ」
「ライ…」

 全てがどうでもよくなるような気持ちよさだった。久しぶりの感覚に震えていると、やっと手首の拘束が離れた。フィンが俺から体が離れていくのと同時で

 プルルル

「「!!」」

 店の電話がなった。即座にフィンが立ち上がり電話を取りに行く。

「もしもし」
「あ、フィンかしら?悪いんだけど~店の鍵開けてくれな~イ?鍵忘れちゃったみたいでエ!」

 べろんべろんに酔ったグレイだった。廊下を通して聞こえてくるほどの爆音である。

「わかった。少し待っていてくれ」

 そういってフィンが店の入り口に向かっていくのが見えた。

「あははぁ!フィン~!ありがとう~可愛いワネ~~!ムチュー!」
「うっ、やめっ、お風呂にいくんだグレイ…!」

 酒の塊のようになったグレイをフィンが引きずっていく。俺は急いで収拾をつけるべくティッシュを取った。グレイのシャワーは長めなのでまだ時間はあると思うが、このままでは明らかに事後すぎる。
 (あんだけ泥酔してたらわかんねえと思うが…)
 拭いたり消臭スプレーをかけて誤魔化した。その辺りでフィンが戻ってくる。かなり気まずい空気が流れたが、先に口を開いたのはフィンだった。

「…ライ、」
「俺、ちょっと出てくるわ」
「えっ」

 カラオケかまんが喫茶か、この際ホテルでもいい。臨時報酬が手に入ったところだし、寝られる場所はいくらでもある。ここよりはよっぽど外の方が寝やすい気がした。

「ま、待ってくれ!それなら私が…」
「一応あんたは追われてる身だろ。ついでにソファベッド頼んでくるから俺に任せてくれ」

 心配そうな顔を向けてくるがなるべく見ないようにした。あんな事をしてしまった後、どんな顔で話せばいいのかわからない。
 (フィンの顔が…見れない…)

「……わかった。ライ、何かあればこれを…」

 そういって炎の羽根を渡される。前と同じように特殊な包みで炎を封じられていた。

「ん、ありがと」
「ライ…」
「じゃ、グレイを頼んだぞ」

 逃げるように背を向ける。フィンの声がかからないうちに俺は店の外へ飛び出すのだった。
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