ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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六話

★灰色の霧

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「ぐっ、ううっ、やめっ、んんんっ…!ソル…っ!!」

 名前を呼ぶとびくりと体が揺れる。銀色の瞳が一瞬迷うように怯んだ。しかしそれは瞬く間に消え…次の瞬間には狼男に戻ってしまう。

 ぐぐっ

「うああっ…くっ、ううっ…!!」

 先端だけでこんなに苦しいのに全部押し込まれたら死んでしまう。

 ぬるっ

「なっ!?んっ、っ、…いっ??」

 痛みで溢れてきた生理的な涙を狼男が舐めとっていく。ペロペロと舐め終えたら今度は頬や顔面全体にまで範囲を広げてきた。

「ソ、ルっ、んぐ…うっ…いい、や、めっ…!」

 舐めなくていい!と顔を剥がそうとすれば低く唸られた。唸ると中に入ってるのも振動する。その恐ろしい感覚にビクリと全身が強張った。

「ひぐっ、はっ、…はあ、っ…う、ああっ?!」

 ひとしきり舐めて満足したのか狼男は体ごと後ろに引いた。ぐちゅりと嫌な音をたてながら中のも抜けていく。乱暴な手つきで肩を掴まれたと思えば体を裏返しにされ、仰向けになった。

「…っ」

 狼男と向き合う。ギラギラとした瞳に見下ろされゾクリと背筋が震えた。

 グチュリ

「かはっ…!!あああっ、くっ…!!」

 腰を両手で掴まれ引き寄せられたと思えば、何の躊躇いもなく押し込まれる。太くなった先端を越えてそれ以上先まで飲み込まされそうになりパニックになった。

「ああっ!うぐっ、無、理だ、から…!!ぐっ、イッ、っ、はっ、…!!」

 ぐぐぐっ

 狼男は気にせず腰を押し進めてくる。奥へ奥へと。中が血で濡れたせいで最初よりも入りやすくなっている。これ幸いと固くなったそれをめり込ませてきた。

「うっ、はあっ…っ!このヤロ…!」

 半分を過ぎたぐらいには痛みも麻痺してきて、段々と怒りの方が強くなってきた。
 (何が選べだ。こんなの俺の意思なんてねえだろ…!)
 俺に殺意を抱かせる為とわかっていても許せない。こんなものセックスでもなんでもない。ただの欲望のはけ口だ。

「レイプ、しやがってっ…!」

 しかもここまでされてもソルを殺そうと思えない自分に腹が立った。結局俺はソルの言うように「クソお人好し」なのだろう。

「くそっ…!!あんたとは…っ、もうっ、絶交、だからな…!!!」
「……っ!!」

 怒りに任せて叫べば、狼男が牙をむいたまま停止する。銀色の瞳が悲しげに細められた。その時。

 パシュンッ

 空気の抜けるような音がしたと思えば次の瞬間、狼男の体が大きく揺れた。

「なっ…あ!おい!」

 狼男は糸が切れた人形のようにパタリと倒れこむ。俺は押し潰されながら受け止めた。
 (首に何かが刺さっている…?)
 注射針のようなそれはどう見てもヤバイものにしか見えなかった。引き抜くか悩んでいると

「安心しな。死んじゃいねえ」
「?!」
「クマでも昏倒する麻酔薬を打った。頑丈な狼男でもしばらくは起き上がれねえさ」

 前と同じように、建物の上に猟師が立っていた。猟銃ではない小さめの銃を構えている。背中には猟銃を背負っていて、すでにそちらに手を伸ばしているところだった。

「ほら、今のうちに離れな。巻き込んじまうぜ」
「まっ…、やめろ!」

 狼男を庇うように腕を広げた。猟銃の銃口はこちらに向けられたままだ。それを睨みつけてると

「ライ、その狼男は害獣だ。ヤツが殺すべき存在だって事はあんたのそのズタボロの体が証明してるだろ」
「…これは、…」
「もういいんじゃねえの?決定的証拠はなくてもヤツを殺せば全て解決する。猟師歴二十年の俺が保証するぜ。あんたは何もかも忘れて病院に行く。俺は金をもらって美味しい酒を飲む。治療費なら俺が出してやるからさ。それでいいだろ?」
「いいわけないだろっ!俺が襲われたのは…俺のミスだし、自業自得なところもある。でもピクシーや他の幻獣達は違う!ソルがやったと決まったわけじゃない!」
「なあ。どうしてそこまで狼男に執着する?証拠がないからか?絆されたからか?幻獣相手だからか?そこまで来るとちょっと異常だぜ」

 幻獣に肩入れしすぎだと軽蔑するように言ってくる。
 (わかってる)
 とっさにフィンの顔が浮かんだ。穏やかで紳士的な癖に時々炎が弾けるように感情を露わにする幻獣。その美しくも恐ろしい存在に魅入られているのは理解している。
 (肩入れして何が悪いんだ)
 フィンやグレイ…今まで知り合った幻獣達。彼らは皆、人間とは異なる存在だった。生き方や体の造りすら違う彼らと歩み寄るには人間同士の時の何倍も努力しないといけない。それを俺はこの数ヵ月で学んだ。

「…俺はその努力を諦めたくないだけだ」
「あ?」
「なんでもねえよ。猟師。ソルに執着してるのはあんたの方だろ」
「…何の話だ」
「三日前のあんたの台詞に“狼男になったばかりなのに”ってのがあった。ソルと知り合いでもないのにどうして“狼男になったばかり”とわかったのか不思議だったんだ」
「!!」

 漫画喫茶で情報屋に確かめたが「猟師にソルジの情報は伝えてない」と言っていた。接点のないはずの猟師がソルの事情を知れるわけがないのだ。

「ソルを狼男にさせた本人か、狼男にさせた人物と関係してなきゃ知り得ない情報だろ。だからその時点で怪しんではいた」
「…ふむ、こりゃ失言だなあ」
「それだけじゃない。ピクシーもあんたが殺したんだろう。ソルが殺したように見せるために、今みたいに麻酔銃を使って狼化させた」
「ほほう」

 狼男の首から注射針を引き抜く。これは昏倒させる量を入れたらしいが軽く眠らせるだけの量にも調節はできるはず。そうなれば今みたいに遠距離から睡眠薬を打ち込んでソルを好きなタイミングで狼男にできる。ピクシーを予め殺しておいて狼男になったソルを現場まで誘い込めば…罪を被せられるってわけだ。

「あんたがピクシーの死体に一番最初に触れたのも、自分が殺した痕跡を消すつもりだったんだろ。例えば銃弾の回収、とかな」
「ははっ…すげえな、探偵になるぜ、ライ」
「茶化さないでくれ!猟師という立場を利用してあんたはソルをハメようとした。ソルの命だけでなく名誉も汚そうとした…!なんでこんな酷い事をしたんだ!?」
「なんで、かあ…ははっ」

 猟師が乾いた笑い声をあげる。

「…ゲームで負けたからだよ」
「は!?」
「だからゲームで負けたんだよ。狩りの合間にやってたゲーム…銃を撃ち合うゲームなんだが、これが面白いぐらいハマっちまって」

 (イーペックスの事か…?)
 ソルと猟師は同じゲームをしていた。まさかの共通点に驚いていると猟師はそのまま続けた。

「勝てば勝つ程自分が認められる気がした。だがある日ヤツが現れた。ヤツはあっという間に人気者になった。口は悪いがエイムは良いってな。それはそれは嫉妬したぜ。銃の才能も、名声も全て持ってかれたんだ。だから俺はある日ヤツの配信に潜り込んで1VS1のバトルを申し込んだ」
「そして…負けたのか」
「ああ。笑っちまうぐらいの瞬殺だった。銃で生きてきた人間が銃で負けたんだ。それはもう死刑宣告と同じ。俺の人生価値なしって烙印を押されたようなもんだ」
「ただのゲームだろ…?」
「いいや違う。現実でもゲームでも銃を持てば同じだ。銃を握って負けた瞬間…俺の猟師人生は終わっちまった」

 はあ、と深いため息が聞こえてくる。

「終わったならまた始められるようにするしかねえだろ?だからヤツを殺す事にした。銃を使って殺して、自信を取り戻すと決めた」
「それが…ソルを巻き込んだ動機か」
「ああ。そうさ。いい冥土の土産になったろ」

 そう言って猟師は銃を持ち直し、引き金に力を込めた。

「残念だぜ。ライ。本当は殺したくなかったが“ヤツに襲われた最後の被害者"として死んでもらう。献身的に面倒を見ていたあんたがヤツに殺されるのは…悲劇的で最高に説得力があるってもんだ」
「…ソルにまた罪を被せる気か」
「間違っちゃいないだろ?あんたを傷つけようとした事に変わりはない」
「…」
「じゃあな、お人好しクン」

 パシュッ

 空気の抜けるような音と共に鮮血が散る。視界いっぱいに広がる血は、自分のものじゃなかった。俺の前に飛び出した狼男が腹を撃たれたのだ。
 (え…!?)

「なんだ。もう動けるようになったのか。とんでもねえ回復力だな」

 猟師が次の弾を装填していく。血だまりに沈む狼男は呻きながらも起き上がろうとしていた。

「流石に腹に穴空いてたら動けねえはずだが…時間かけたらこっちが危なそうだな。先に仕留めてやる」
「まっ…!!」

 パチチッ

「?!」

 猟師が銃を構えた瞬間、袋小路に火花が散った。それは俺と猟師の直線上に移動したあと、閃光のように光が弾ける。

「なっ!ぐああっ…目がっ!」

 スコープを覗いていた猟師が悲鳴をあげる。銃口を下ろさないのはすげえ根性だ。

 カツカツ

 俺達の後方、唯一の出入口である路地の方から足音が響いてくる。

「まさかパトロールが役に立つとはな。あの時無駄に歩かされたおかげで血の匂いがするここまで一直線で来れたのは幸いだった」
「!!」

 振り返れば、暗い路地の中でもオレンジの瞳と白金の髪が光って見えた。待ちに待った存在に胸が熱くなる。

「ライ。遅くなって申し訳ない」
「フィン…!」

 固くてしっかりとした腕に抱かれると、温かくて力強くて、誰よりも安心させてくれる。一瞬、ほんの一瞬自分からも腕を回して抱きしめた。フィンが息をのむ気配がする。

「ライ…その背中!どうしたんだ!」
「今は気にしなくていい。とにかく猟師を無力化しないといけねえ」
「猟師?」

 フィンが顔を上げて確認する。猟師は目を擦りながら俺たちに狙いを定めていた。今にも引き金を引きそうな様子に、フィンが静かに頷いてくる。

「…あの男を無力化させればいいのだな?」

 パシュッ

 フィンに体をずらされたことで狙いが外れ、耳元を弾がかすっていく。

「ひっ、…でもこの通り上はとられてる。武器も持ってるし、ソルが腹を撃たれてて重傷だ」 
「ふむ。高い位置にいる銃持ち、お荷物もあり、と」

 考え込むように腕を組んだあと、ふとこちらに視線を移してくる。時々降ってくる弾を避けながら手を差し出された。

「?」
「ライ、それを使ってもいいか?」
「え?あ、ああ」

 俺は言われるまま注射針を手渡した。すると

 ぎゅっ

 何を思ったのかフィンは注射針を握り締め、その手ごと炎で焼き始めた。

「なっ何してっ!!」
「問題ない。熱くはない炎だ。これを、こうして…こうだ!」

 火だるまになった注射針を猟師の方に投げつける。投げるというより突き刺すという方が正しいかもしれない。そのあまりにも早い速度で放たれた注射針は炎を纏ったまま猟師の服にぶつかり

 ゴオオオッ

「ぎゃあああ!!」

 一気に燃え始めた。猟師はパニックに陥ってて皮膚が焼けていない事に気付いていない。

「うわああ!やめろおお!やめてくれええっ!!」

 炎から逃げまどい、足を滑らせた猟師は屋根から下に転げ落ちた。銃は屋根に置いたままで丸腰のまま落下する。

 ゴスッドシャアッ

 猟師は地面に強く打ちつけ体を全身を震わせていた。一向に起き上がる気配はなく、ジタバタと四肢を動かして蠢くのみ。その様はまるで芋虫のようだ。

「いてええ、いてえええよ!!どうしてだああ!どうして邪魔するんだっっ!俺はただ猟師として生きるために!誇りを取り戻したかっただけなのにっ!!」

 叫び続ける猟師を後ろ手に拘束すると、必死の形相で縋りついてきた。

「ライ!ライ!頼むよお!こんなおじさん虐めて楽しいかあ?見逃してくれよ…!幻獣なんて一匹や二匹死んでも誰も気づきやしねえんだ!逆に間引きして生態系が整ったぐらいだ!幻獣なんて化物は本当は消しちまった方が――」
「いい加減にしろ!」
「ゲフッ」

 拳で思いっきり殴った。一瞬で気絶した猟師は大の字でのびている。それを見つめながらため息を吐く。疲労感と痛みでひきつる体に鞭を打って歩きだした。袋小路の端で倒れてる狼男の元へ急ぐ。狼男は傷を押さえて倒れているが意識はあった。

「ソル…いや、今は狼なのか?とにかく傷を確認したい。腹を見せてくれ」

 グルルルルッ

 唸ってくる。横にいたフィンが構えようとしたので手で制した。狼男から敵意は感じない。俺は落ち着いた声音で再度語りかけた。

「確認するだけだから、見せてくれ」

 グウウウウっ

「言う事聞かないと二度と飯作ってやらないぞ」

 キュウウン…

 降参するように尻尾を振って腹を見せてきた。銀色の毛をどけて確認すると、出血は酷いが傷自体は塞がりかけていた。人間であれば致命傷になってもおかしくない傷だったが、ソルの体はすでに幻獣として作り換わっているらしい。
 (それを認めたくなくて隠そうとしたんだな)
 気持ちは理解できるが命あっての物種だ。幻獣の、いや、狼男の頑丈な肉体に感謝するべきだろう。

 たたたっ

「ライ~!!!」

 そこでちょうど待ち望んでいた人物②が現れる。

「グレイ?!よかった、あんたを待ってっイテテテッ」
「ライ!ボロボロじゃないッ!!猟師のお客さんも裸で倒れてるシ!!なんなのこの状況ー!!」
「く、苦しいって…!」

 グレイに羽交い絞めされ、とどめを刺されそうになる。すかさずフィンが止めに入った。息を整えた後グレイとフィンに軽く事情を話すと、

「なるほどネ…」

 グレイは重苦しい顔で頷いた。

「やっぱり彼が仕組んでたのネ…」
「常連だったんだよな?猟師はこういう事をしそうな奴だったのか?」
「いいえ…でも最近は浮き沈みが激しかったから心配してたノ。銃で撃つ時はナイフを使って殺すより殺意が必要な時もあるカラ。たくさん幻獣を殺していくうちに、その殺意を幻獣全体へのものだと勘違いしてしまったのかもしれないワ」

 哀れむように猟師を見下ろして、はあ、と大きくため息を吐いた。

「事情は理解したワ。とりあえずこの男を店まで運びまショ」
「待て。その前にあんたにやってもらいたい事がある」
「エ?」
「急がねえと間に合わないかもしれないんだ。こっちに来てくれ」

 ソルの元へ連れていく。俺の意図を察したのかグレイは困ったような顔で呟いた。

「あらま…ライも気づいちゃったのネ…」
「あんた達の関係の脆さは知ってる。でもソルも限界なんだ。このままじゃ本当にソルの精神が死んじまう」
「わかってるワ。あたしだってこの三日何も見てなかったわけじゃないわヨ…」
「じゃあ…」
「ええ、任せて。でも二人きりにしてくれるカシラ。少しこの子と…話したいノ」
「わかった」

「む?なんだ?一体何の話をしているんだ?ライ」

 一人置いてけぼりのフィンが首を傾げている。

「後で説明する。今は行こう」

 俺はその手を引いて路地の方へ連れていった。ついでに猟師の体も抱えて運ぼうとするとフィンが代わりに背負った。袋小路を抜け出した俺たちはしばらく無言で進んだ。

 ジャリッ

 五分程歩いたところでおもむろにフィンが立ち止まった。

「ライ、そろそろいいだろう?」

 説明してくれと目で訴えてくる。俺は少し考えた後手短に説明した。

「情報屋に聞いたんだ。狼男を眠らせるにはレム睡眠…いや、脳を誘導して眠らせる必要があるって」
「ほう…?」
「グレイの霧には睡眠導入+夢の操作っていう効果があるだろ。夢の操作ができるなら脳をうまく誘導できるんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど…」

 一番初めにソルと出会った(襲われた)裏庭のシーンで、狼男になったソルは霧によって一瞬で眠らされた。しかもその後ソルは昼までぐっすり眠っていたのだ。
 (今思えば最初からわかっていたんだ)
 狼男を眠らせるベストアンサーが。

「つまりグレイの霧なら狼を封印したまま眠れるという事か」
「多分。試してみねえとわかんねえけど…」
「いや、きっとライの思った通りになるはずだ。ふむ。しかしグレイも食えない奴だな。自分の能力が有用とわかってて言わなかったのか?情報屋やライに思いつけた事をグレイが思い当たらないわけがない。セフレを見殺しにするつもりか」
「…悩んでいたんだろ」

 ソルと再会してからグレイはずっと考え込んでいた。この方法を選べばグレイとソルは離れられなくなる。お互いがどう思っていようとも、ソルの生存にグレイの霧が不可欠となる。そんな未来を今の二人は求めてないように思えた。
 (俺が言わなかったらグレイはソルを助けなかったのか…?)
 二人の事情を知らない俺にはわからない事が多すぎる。ソルの為とはいえ、俺が二人に「共存」という選択を強いてしまったのだ。本当にこれでよかったのだろうか。

「ライ、ライ」

 フィンに肩を叩かれた。なんだと顔を上げると

 ♪~♪~

 優しい子守歌が聞こえてきた。グレイの声だが、こんなに穏やかで感情的な声は初めて聞いた。まるで愛しい恋人に向けるような優しい声音に、聞いてるだけでくすぐったくなる感じがした。

「これは…グレイなのか…?」

 信じられない気持ちで聞き入っていると、横から呆れたような声が聞こえてきた。

「まったく。あの二人。とんでもなくへそ曲がりなだけのカップルだったりしないか?」

 ありえない。ありえないと返したいのに、路地に響く歌声には優しさと愛に包まれていた。それがどんな愛なのかはわからないが、どうでもいい相手に向けるものじゃないのは確かだ。フィンが呆れたように続ける。

「痴話喧嘩に巻き込まれただけなのだとしたらいい迷惑だが…今日ぐらいは安眠できるよう祈ってやろう」

 空を見上げた。満月にかかっていた雲はどこかに消え、暗い路地を明るく照らしている。その路地にはうっすらと灰色の霧が立ち込めていた。

 ♪~♪~

 灰色の霧と子守歌に包まれる歓楽街はいつもより穏やかに映って見えた。
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